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世界初の「64コアx86」の実力は? AMDが「Ryzen Threadripper 3990X」のパフォーマンスをアピール

AMDのクライアント向けCPUの最高峰「Ryzen Threadripper 3990X」が、日本を含む世界でいよいよ発売される。それに合わせて、同社が同CPUの技術的な説明を行った。

 AMDは2月8日、デスクトップPC向けの64コア128スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3990X」を発売する。想定販売価格は44万9800円で、AMD TRX40チップセットとSocket sTRX4を備えるマザーボードと組み合わせて利用できる。

 同CPUは「第3世代Ryzen Threadripper」の最上位モデルで、x86ベースのCPUとしては「世界で初めて64コア128スレッド」を搭載する。「Ryzen Threadripper 3960X」(24コア48スレッド)や「Ryzen Threadripper 3970X」(32コア64スレッド)よりもさらに“強力”なCPUだ。

 リリースに合わせて、同社はRyzen Threadripper 3990Xに関する技術資料を公開した。その実力はいかほどのものなのだろうか。

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Ryzen Threadripper 3990Xの概要(AMD提供資料より、以下同)

“特定の顧客”に向けたCPU

 Threadripper 3990Xのリリースの背景として、AMDは「特定の顧客は(Threadripper 3970Xよりも)さらに高い処理能力を求めている」ことを挙げている。

 具体的には、プロの動画編集、仮想マシン(VM)のヘビーユース、複雑なソフトウェア開発、メインメモリ大量に消費する処理や多くのCPUコアが要求される処理……といった用途を想定したCPUという位置付けだ。


Ryzen Threadripper 3990Xの想定用途

Ryzen Threadripperシリーズは「ハイエンドデスクトップ(HEDT)PC向け」だが、Threadripper 3990Xはその中でもハッキリと“特別用途向け”であることを打ち出している

マザーボードは既存の第3世代Threadripper用でOK

 Threadripper 3990Xの基本構成は、発売済みのThreadripper 3960X/3970Xと同様だ。

 8基のCPUコアと32MBのL3キャッシュを備えるCCX(Core Complex:CPUコアとCPUキャッシュを統合したモジュール)を8つ、「I/Oダイ」につなげることで「64コアCPU」を構成している。CPUキャッシュはL1~L3を合わせて288MB用意されている。動作クロック(周波数)は通常時が2.9GHz、ブースト時が最大4.3GHzとなる。


Ryzen Threadripper 3990Xの構成図。8コアのCCXを8つ束ねて64コアCPUとしている

 マザーボードは「AMD TRX40チップセット」を備えた「Socket sTRX4」を対応製品となる。既に「Threadripper 3960X/3970X」向けに販売されているものを流用できる。そのこともあり、AMDでは「Day one(1日目)から3990X向けに設計されたマザーボードがある」とアピールしている。

 ただし、複数の既存記事でも触れている通り、第2世代Threadripperまでのマザーボードとは全く互換性がない。


マザーボードはThreadripper 3960X/3970X向けに発売されているものを流用できる

Xeonよりも「安上がり」で「ハイパフォーマンス」

 いくらThreadripper 3990XがすごいCPUだとはいっても、実際のパフォーマンスはどうなのだろうか。AMDはいくつかのベンチマークテストの結果を資料に記載している。

 まずCPUテストアプリとして有名な「CINEBENCH R20」にある「Maxon Cinema 4D Raytracing」テストでは、自社の「Ryzen 9 3950X」(3.5G~4.7GHz、16コア32スレッド)やIntelの「Core i9-10980XE」(3G~4.6GHz、18コア36スレッド)の最大約2.8倍のパフォーマンスを発揮することを示した。


Cinebench R20を利用してAMDが実施したベンチマークテストの結果。Threadripper 3990Xのパフォーマンスが際だって高いことを示している

 一方、Threadripper 3990Xのメインターゲットである「3Dレンダリング」「動画のマスタリングとエンコーディング」「ソフトウェアのコンパイル」用途では、Intelのワークステーション向けCPU「Xeon W-3275」(2.5G~4.4GHz、28コア56スレッド)やThreadripper 3970Xとの比較を行っている。

 これらのテストの結果を簡単にまとめると、「想定販売価格が4449ドル(約49万円)のXeon W-3275よりも、1999ドル(約22万円)のThreadripper 3970Xの方がパフォーマンスが良い。でも、3970Xよりもさらに性能の高いThreadripper 3990Xでも、3990ドル(約44万円)でXeon W-3275よりも安いですよ」という感じだ。

 Xeon WよりもThreadripperの方が安価で、ハイパフォーマンスであることをアピールしている。


3Dレンダリングのテスト結果(AMD調べ)

動画のマスタリングとエンコーディングのテスト結果(AMD調べ)

ソフトウェアのコンパイルのテスト結果(AMD調べ)

 V-Rayを使った「Terminator Dark Fate(邦題:ターミネーター ニュー・フェイト)」の映像レンダリングの比較では、IntelのスケーラブルCPU「Xeon Platinum 8280」(2.7G~4GHz、28コア56スレッド)をデュアル構成にしたシステムと、Threadripper 3990X(シングル構成)を比較。3990ドルのThreadripper 3990Xが、2万ドル(約220万円)のデュアルXeon Platinum 8280よりも高速にレンダリングできるということを示した。


V-Rayのレンダリングテストでは、Xeon Platinum 8280のデュアル構成システムと比較。コストパフォーマンスの良さを強調した

課題は「ソフトウェアの最適化」

 AMDの自社テストの結果を見る限り、Threadripper 3990Xはコストパフォーマンスに優れたエンスージアストユーザー向けCPUであることが分かる。しかし課題もある。それはソフトウェアの最適化だ。

 Threadripper 3990Xの説明資料には「64コアを生かす方法」という一節があり、Threadripper 3990Xの性能を最大限発揮するための注意点がいくつか書かれている。主なものを以下に挙げる。

  • Windows 10 ビルド18362.535以降を使うこと
  • アプリ(プログラム)は65スレッド以上を使うように作成すること
  • 作業に使うストレージはウイルススキャンや復元機能の無効化を検討すること(読み書きのボトルネックを無くすため)
  • できる限り高速なNVMe SSDを利用すること(データ帯域の大きいCPUを生かすため)

 一番重要なのは、アプリが用いるCPUスレッドの数だ。昨今の一般的なPC向けCPUでは、スレッドはおおむね8~16個用意されている。そういうCPUをターゲットに開発されたアプリでは、それより多いスレッド(コア)を生かすことができず、無駄になってしまう。

 64コア128スレッドを備えるThreadripper 3990Xの真価を発揮できるかどうかは、たくさんのコアとスレッドを生かすアプリの登場にかかっている


Threadripper 3990Xを生かすために気を付けるべきポイント。裏を返せば最適化されているアプリがまだ多くないことを物語っている

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