WWDCに見る、Appleがプライバシー戦略で攻める理由:他社にも盗んでほしい(5/5 ページ)
WWDC20において、Appleがさまざまな新情報を公開したが、その根底には「安心・安全なのに便利」というユーザーのプライバシーに関する取り組みが流れている。林信行氏が読み解いた。
安心基盤を生かして攻めの姿勢を続けるApple
既に提供してきた数々のプライバシー保護の取り組みに、今回の6つの取り組みが加わったことで、Appleはいくつか「攻め」の姿勢を感じさせる新たな取り組みに挑んでいる。
代表例は、Safari Web Extension(Safari Web機能拡張)への対応だろう。これまでのSafariでもSwiftやObjective-Cといったプログラミング言語で開発され、App Storeを通して提供されるSafari App Extension(Safari App機能拡張)というものには対応していたが、種類は少なかった。
一度、根っこからプライバシー対策を見直したからこそ、一見、プライバシーを脅かしそうなサービスも、安心して提供できるようになったのが2019年からのAppleだ。ユーザーのWebブラウザ上での行動を盗み見できるWeb機能拡張も、安心できる形で提供を始めた
他のWebブラウザでは、JavaScriptなどで開発され便利な機能を提供するWeb機能拡張がたくさん提供されているが、これらはユーザーがWebページでどんなことをしているかをのぞき見でき、プライバシー侵害の温床になる危険もあった。
AppleのmacOS Big Surでは、他社製Webブラウザ用にJavaScriptやHTML、CSSなどで開発されたWeb機能拡張を簡単に移植できる。その代わり使用時にはユーザーにその機能拡張をどのWebサイトで有効にするかや、どれくらいの期間有効にするかなどを尋ねる仕様になっており、機能拡張が有効になっていることもブラウザ上のアイコンで確認できる仕様になっている。
さらに他社の紛失防止タグにも対応する。これまでApple製品であればFind Myというアプリを使って位置情報を検索できたが、新たに他社製の製品でも同様なプライバシーを保護した形で位置を発見できるプログラムを提供開始する。
また、iPhone 11シリーズから搭載されたU1チップを使用したUWB(ウルトラワイドバンド)通信を使った相手のデバイスの位置が、cm単位で距離や角度が分かるNear-By Networkingという機能も、プライバシーにしっかり配慮した形で提供する。
Appleがプライバシーへの配慮で一番、注意をしているのはユーザーの行動を監視するトラッカーの存在ということは既に述べた。トラッカーの多くは、ユーザーの行動を監視することで、よりユーザーの趣向にあった広告を表示しようと作られている。
Appleは、ユーザーが望まない限りユーザーの趣向であったり、Webの利用状況をトラッカーに渡したりしない方針だが、だからといってWeb上での広告やアプリ上での広告を否定しているわけではない。同社では2018年からSKAdNetworkというアプリの広告を提供するための仕組みを用意している。
アプリの中に、この仕組みを使ってアプリ広告を組み込むと、どのアプリのどのキャンペーン(つまり、アプリのどの場面で広告が表示されるかなど)でどれだけの収益が上がったか、といった情報が広告主にちゃんと報告されるが、どんなユーザーが広告経由でアプリを落としたかといったユーザーのプライバシーに関する情報は渡らない。
Appleは広告モデルのアプリも否定していなければ、広告の効果を高めることにも反対はしていない。ただ、個人のプライベートな情報を指標にせず、それ以外の指標を使えというのがAppleの姿勢だ。
ついにはMacのハードウェアの一番奥深く、プロセッサレベルでもプライバシー保護の仕組みを採用し、他社との差を広げようというApple。
2021年以降は、この安心な土台を最大限に生かして、さらに大胆な挑戦をしてくることが期待できそうだ。
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