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M1搭載「iPad Pro」の本領発揮はまだ先か 新旧モデルを使い比べて分かった現状の実力と秘めた可能性本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/4 ページ)

Apple M1搭載の「iPad Pro」を試用した。イラストレーターとともに12.9型モデルの実機を使ってみたところ、現時点でも従来機に比べて体感できる差があったが、その性能を生かしきるにはもう少し時間がかかりそうだ。AppleはiPad Proの未来をどの方向にかじ取りしていくのだろうか。

 Apple M1搭載の「iPad Pro」が発売されて半月が経過した。前評判通りに素晴らしい性能を有しているだけでなく、12.9型モデルだけに搭載される「Liquid Retina XDRディスプレイ」は、表示品質だけでいえばプロ仕様の外付け32型ディスプレイ「Pro Display XDR」に匹敵する品質を有している。


今回試用したM1搭載「iPad Pro」の12.9型モデル。一回り小さな11型モデルとは異なり、1万個超ものミニLEDで構成したバックライトが特徴の「Liquid Retina XDRディスプレイ」を新たに採用している。

 しかし、一方ではこれだけの高性能を有しながらも、現時点でその性能を生かしきる環境が整っていないもどかしさに、少しばかりの不満を覚えるオーナーもいるかもしれない。

 実機を試してみた結論からいえば、M1搭載iPad Proは現時点でも従来機に比べ、パフォーマンスが向上するシーンがあることは間違いない。しかし、新型Macに使われるのと同じSoC(System on a Chip)であるM1の性能を生かしたアプリがそろってくるまでには、あと少しだけ時間が必要ではないかと感じた。

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高いパフォーマンスは体感できるが本領発揮はまだ先か

 前世代のiPad Proに搭載されていたSoCのA12Z Bionicも多くのモバイルPCを超える性能を有していたが、M1はさらにCPUで50%、GPUで40%性能が向上したとAppleは主張している。

 ベンチマークテストの結果はさておき、タブレット機であるiPad Proの場合、その操作感や応答性も重要だ。果たして従来機に比べ、体感できるだけのパフォーマンスの向上はあるのだろうか。

 まず日常的な使い勝手の中では、Safariなどブラウザの速度向上は高速なネットワーク環境であれば、何とか体感できる。ただし、もともと高速だったWebの表示やアプリの動きがさらに速くなるというレベルだ。


左がA12Z Bionic搭載の旧モデル、右がM1搭載の新しい12.9型モデル。新モデルはわずかに重さと厚さが増したが、デザインに変更はない。ボディーカラーはこれまで通り、シルバーとスペースグレーが用意されている。Magic Keyboardも同様で、ホワイトとブラックから選べる

 性能向上を実感できるかどうかでいえば、筆者が使うアプリの中では、動画編集アプリのAdobe Premiere Rushの書き出し速度で最も大きな差が生まれている。こちらはプロジェクトの作り方(エフェクトの使い方や動画合成の有無など)で異なるものの、おおむね30%から35%ほど高速に書き出せる。

 また同じく写真編集アプリのAdobe LightroomでRICOH GR IIIのRAWファイルを20枚現像するテストでは45%も速くなった。GR IIIは画素数が少なめ(約2424万画素)のため、体感的な上昇はさほど感じられないが、高画素の一眼カメラと組み合わせて使う場合ならば、違いを実感できるかもしれない。

 とはいえ、いずれもM1搭載MacBook Airなどの性能から予想される範囲内ではある。これからiPad Proの購入を検討するユーザーがより魅力的に感じる要素ではあるが、A12X BionicやA12Z Bionicを搭載する旧モデルのオーナーへの積極的な買い替えを促すものかどうかは、使うアプリに依存する。

 執筆時点ではまだリリースされていないが、イラスト制作アプリProcreateの次期バージョンが立体造形物へのペイントをサポートしたり、動画編集アプリのLuma Fusionが動画エフェクトや4K編集パフォーマンスを高めたりするなど、M1を生かしたアプリもある。しかし、多くのアプリではその性能向上を実感できない。

 現在、iPadのラインアップで最も安価な第8世代iPadが搭載するSoCはA12 Bionic、その前の第7世代iPadはA10 Fusionだった。A12 BionicはiPhone XS・XRと同じSoC、A10 FusionはiPhone 7と同じSoCであり、iOS・iPadOS向けアプリ、Apple Arcadeのほとんどは快適に動作する。

 搭載メモリに関しても、従来機の4GB~6GBに対して、M1搭載iPad Proで8GBあるいは16GBに増えたからといって、即座に影響をうけるアプリも限られている(例えば画像処理やお絵かきアプリの最大レイヤー数が増えるなどの効果はある)。

 iPad Pro旧モデルのオーナーならば、そのパフォーマンスを生かせるアプリの登場を見極めてからの買い替えで十分だろう。

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