「GIGAスクール構想」の成功には何が必要? 先進事例から考えてみる:EDIX 東京 2021(2/2 ページ)
文部科学省の「GIGAスクール構想」の本格スタートから1年経過した2021年。実際の教育現場ではどのような動きがあるのでしょうか。1年に1回開催される教育関連の総合見本市「EDIX 東京」で行われたパネルディスカッションの様子を見ながら考察してみました。
子どもの“意欲”に追いつく環境整備が必要
一方、児童や生徒における利活用はどうなのでしょうか。
以前の記事でも触れた通り、今どきの子どもたちはICTとの親和性は高いです。学校でPCやタブレットを使う授業は“食いつき”が違います。授業の中で「ここはPC(タブレット)を使った方が便利だ」と教員に提案するケースもあったそうです。
しかし、自治体間でICT関連設備の整備状況に格差があるが故に、GIGAスクール構想が理想とする授業を展開しづらいという事例も確実に存在します。
分かりやすい所でいえば、教室でのプレゼンテーションなどで使う「大型提示装置(大型テレビ、電子黒板、プロジェクター)」が挙げられます。文部科学省が実施した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によると、2020年3月時点における普通教室(普段の授業で使う教室)への大型提示装置の整備率は全国平均で60%となりました。平均値ベースでは2019年3月の調査と比べると7.8ポイント増加しています。
大型提示装置の整備方針は、自治体によってさまざまです。先述の調査は都道府県単位で設置率を求めていますが、同じ都道府県でも、小中学校の全ての普通教室(普段の授業で使う教室)に設置が完了している市区町村もあれば、そこまで行っていない市区町村もあります。
GIGAスクール構想の“要”ともいえるインターネット回線の整備状況でも、自治体間での格差は問題となり得ます。
構想では、標準仕様書によって「校内LAN」に必要な要件を定めています。主なものを箇条書きすると、以下のようになります。
- 校内の幹線ネットワークは原則として10Gbps以上のLANで構築する
- Wi-Fi(無線LAN)アクセスポイントは全教室で全児童/生徒が同時にアクセスすることを想定して設置する(複数台設置する場合は干渉について十分考慮する)
- 必要な回線の帯域は「教室ごと」「フロアごと」「学校ごと」で算出する
先述の文部科学省の調査では、2020年3月時点における普通教室への無線LANアクセスポイントの設置率は全国平均で48.9%となっており、大型提示装置よりも普及率が低めです。ただし、普通教室への校内LAN整備率は平均91.4%と高めなので、それをうまく生かせば無線LAN環境の整備は迅速に進みそうに見えます。
しかし、関係者から話を聞く限り、要件を満たすネットワークを構築するのに苦慮している自治体もあるようです。既にネットワークを構築している自治体でも、特にセンター集約型ネットワーク(※2)を取っている場合にアクセスが集中しすぎて満足な速度が出ないというケースも見受けられます。
いずれにしても、都道府県、市区町村、現場となる学校、そしてシステム構築を担当する事業者が密に連携を取って、より快適なICT教育環境を構築できるかどうかが、GIGAスクール構想の成否を分けそうです。
(※2)教育委員会が設置した「データセンター」にインターネット接続を集約する方式
センター集約型で発生しうるボトルネックを解決方法の1つとして、文部科学省は「ローカルブレイクアウト」を提案している。学校ごとに整備したインターネット回線から一部のインターネット通信を直接行えるようにすることで、センターの負担を大幅に減らせる
これからの学びは臨機応変に
GIGAスクール構想は、新しい学習指導要領に盛り込まれた「個別最適な学び」と「協働的な学び」を支える構想でもあります。今回登壇したパネリストが所属する自治体は、比較的学習用端末の利活用が進んでおり、さまざまな工夫が凝らされてます。
つくば市のある中学校では、理科の実験やグループワークで「Microsoft Teams」や「Microsoft Sharepoint」を活用しているそうです。生徒の1人が「(学習用端末を)持ち帰りたい!」と言ったので持ち帰らせた所、調べ学習がより深くなったという事例もあったそうです。学習用端末は生徒会活動でも活用されていて、生徒会選挙の演説を教室のテレビで視聴した上で、「Microsoft Forms」を使って投票を行ったケースもあるようです。
元来、教員を目指す人の多くは「子どもが第一」という人が少なくないはずです。児童や生徒にフォーカスして、時代や使えるツールを踏まえて、授業の形を臨機応変に変えていくことは重要なことでしょう。
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