インタビュー

「サイバーパンク2077」出演の日本人アーティストがリモートコラボを実現した理由(2/2 ページ)

ポーランドのCD Project Redが開発した近未来のアクションRPG「サイバーパンク2077」。そのサウンドトラックに参加した日本人アーティストに、リモートでのコラボレーションが実現したいきさつを伺った。

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計算されたいびつなものとして作り上げた“2077年のダンスミュージック”

 それだけに「PONPON SHIT」は、聞いたときに不可解な歌詞の歌が際立ち、バックの曲も音楽理論をちゃんと学んできた人からすれば、めちゃくちゃな曲として聞こえるような作りになっている。しかし、実際は楽曲のクオリティー、音源のミックスダウンなども含め、それを計算した上で、逆に絶妙にいびつなものになるように制作されていたのだ。

 そんな一般には伝わりにくい制作現場の努力によって生まれた楽曲を、カワムラ氏は、"2077年のダンスミュージック"をイメージして制作した曲だと言う。

 「作中の舞台が2077年ということもあって、今から50年後の楽曲をイメージしたとき、現代のものとは1番違いが現れるのは音源のミックスバランスだと思うんです。だからそこに対するイメージを膨らませて、"2077年のダンスミュージックは1960年代スタイルの音楽がリバイバルしている"という個人的な考えにのっとって、フィル・スペクター(米国の音楽プロデューサー)が手がけたThe Ronettes『Be My baby』のような、“音の壁”を意識した仕上がりを目指しました」(カワムラ氏)

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カワムラユキ氏(著者撮影)

 だが、単に1960年代の"音の壁"的な制作手法を取り入れるのではなく、その中にあえて音の隙間を入れたものが、カワムラ氏がイメージする2077年のダンスミュージック像だ。ただ伝統的な制作手法を踏襲するのではなく、そこに自己流の解釈を入れることで未来の音楽を創造する。

 このように詳しく伺っていくと、一度聞いただけでは“完成度の低い楽曲”のように思える「PONPON SHIT」は、実はプロの仕事が生きたハイクオリティーな楽曲であることが分かる。

 カワムラ氏が、この"隙間のある音楽"にこだわったのは、US CRACKSの"昔ながらのロックスターからするとふざけているように見えるものの、この2077年では高い人気を誇っているアイドルグループ"という設定があったからこそだ。その事実について知ることができたのが、今回、筆者が話を聞く中で得た最も大きな収穫だった。

文化を生み出す街「渋谷」から世界にはばたく

 今回、2人にはカワムラ氏がプロデュースする渋谷の道玄坂にある"ウォームアップ・バー"の「しぶや花魁」で話を聞いた。

 しぶや花魁には場所柄、音楽業界やファッション業界から、IT業界で働く人や外国人のツーリストなど、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が集う。そして、彼らは業界や人種、ジェンダーの垣根を越え、気楽に酒を酌み交わしながら交流を深める。その中で何か新しい事業のアイデアだったり、アーティストのコラボ話が出てきたりすることも決して少なくはない。


マコ・プリンシパル氏(左)& カワムラユキ氏(右)at しぶや花魁(著者撮影)

 しぶや花魁は、外から見ると道玄坂にひっそりと建つ古民家風の建物だが、重い木戸を開け、足を踏み入れた店内はサイバーパンク 2077のレトロフューチャーの世界観とも通じる内装になっている。

 加えて、多様な人々が集まる場であるというところも、世界中のさまざまな人々がオンラインで交流するオープンワールド型のゲームと、リアルとバーチャルの違いはあれど、共通する部分だ。それだけに2人が活動の拠点とする“しぶや花魁”という場の力も今回の楽曲制作に少なからず影響を与えているに違いない。


しぶや花魁店内(著者撮影)


しぶや花魁店内(著者撮影)

 最後に2人は、今回のサントラで共演したグライムスとのコラボを今後の目標に掲げていると語ってくれた。

 以前から渋谷には、国内外のさまざまな人々が集まり、世界的にも注目される新しい文化を生み出してきた歴史がある。そう考えると渋谷から生まれたナマコプリのようなアーティストが、世界的アーティストとも当然のようにリモートでコラボする時代はもうそこまでやって来ている。

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