始めから“100点”を求めないことがポイント――茨城県守谷市が全小中学校のオンライン授業をいち早く実現できた理由(後編)(2/4 ページ)
東京のベッドタウンとしても知られる茨城県守谷市が、2021年8月25日から9月12日にかけて全ての市立町中学校において完全オンライン授業を実施した。オンライン授業を実際に行った際の様子と、そこから見えた課題を担当者に聞いた。
授業の配信は基本的に「Zoom」で配信
―― 基本的に授業はZoomで配信したのでしょうか。
奈幡氏 その通りです。ただし、Google Meetを使って配信した学校もあります。
―― Zoomのテキストチャット機能は、学校ごとに運用しているんでしょうか。息子の話によると、ログイン時に名前が求められることもあり、チャット欄が荒れることはないそうですが。
奈幡氏 この点は、各学校あるいは各教師の判断に任せています。視察したある小学校では、意見のすり合わせにテキストチャットを活用していました。このことは中学校も同様で、いろいろな授業でチャット機能を有効に使って、話し合いの代わりの文字言語で意見をすり合わせている学校もあります。
一方で、今の所は荒らす人はいないけれど「もしかしたら」と考えて、テキストチャットを使っていないというケースもあります。石井さんの息子さんが通う中学校は、そういう考えに立っているのだと思います。
―― 手を上げて発言とかさせているようですが、恥ずかしいときは文字で書けるといいかもしれないですね。せっかく用意されている機能ですし。
奈幡氏 石井さんのように専門性のある方から助言していただくと、学校も「やってみようかな」という気持ちになるでしょうし、お子さんから要望として「みんな大丈夫だよ、情報モラルはちゃんとしてるからチャットを使わせてください」と挙げていただくのも有効かもしれませんね。
(筆者注:筆者の長男が通う中学校では、後からテキストチャットが使えるようになった)
―― Zoomですが、今回のオンライン授業は無料アカウントを使って行ったようですね。無料アカウントの場合、基本的に40分で配信が終わります。先生方はその中に収まるようにうまく授業を組み立てているんだと思うのですが、本来の授業時間(50分)よりも少し短いですよね。有料アカウントにするのは難しかったのでしょうか。
奈幡氏 有料アカウントも保有しているのですが、数が限られていることもあり、今回は無料アカウントで対応しました。
―― 集中力の観点に立つと、小学生、特に低学年だと50分フルのオンライン授業は辛い面もありそうですよね。一方で、50分をフルに使わないと伝えきれない授業もありそうなのが悩ましい所でもあります。
奈幡氏 40分で足りない場合は、ほとんどの学校では児童/生徒に一度退出してもらって、再入室というやり方をしています。あとは、石井さんがおっしゃる通り授業を制限時間の40分で収まるように組み立て直している教師もいます。
児童/生徒は画面を見続けることになります。目の負担や疲労が大きくなるので「(オンライン授業は)40分でちょうど良い」と考える教師もいるようです。
―― 先生方にも目の負担や疲労がありますよね。対面とは違った気遣いも求められると思います。息子の中学校では、オンライン授業は「午前中のみ3時間」という設定でしたが、これは市内で共通なのでしょうか。
奈幡氏 当初、教育委員会として小中学校に共通して指示したのは「オンライン授業は午前中に3時間実施」「『朝の会』と『帰りの会』はきちんとやる」という2点です。学級への所属意識を高めるという観点で、朝の会については健康観察、帰りの会については1日の頑張りへの称賛、両会共通で担任からのあいさつは最低限やりましょうという指示もしています。
オンライン授業の開始後、小学校低学年でも双方向授業の割合が増えてきました。学校によっては、オンライン授業を3時間から4時間に拡大する動きもありました。今回は3~4時間のオンライン授業後、午後を「午前中の復習」としています。
今後の検討項目としては、登校できない期間の長期化を視野に入れてオンライン授業のコマ(時間)数をさらに増やすべきかどうかという点があります。この話自体は、2020年度の校長会でも出ていたのですが、一部の保護者の方からも増やしてもいいのではないかというご意見をいただいています。
―― 特に中学3年生は高校受験を控えていますから、1つ1つの授業が大事になってくると思います。もちろん、生徒によっては塾に行ったり自学をしたりということはあるでしょうが、やはり学校の勉強が基本になることは変わりないでしょうから。一方で、中学1~2年の生徒は部活ができないことがつらいことかもしれません。
奈幡氏 おっしゃる通りです。特に中学生からは「午後もオンライン授業をやってほしい」「授業を双方向化してほしい」といった要望も寄せられています。見方を変えると、守谷市ではオンライン授業の内容が比較的充実しているので、期待が要望として現れた結果だと思っています。
他の自治体では、オンライン授業をするためのシステムやノウハウがないがゆえに、つなげることで精いっぱいになってしまうことが多いようです。そういう状況で私たちのようにしっかりと時間割を区切ってできるかといえば、難しいでしょう。
守谷市のオンライン授業は、学校ごとに1時間を40~50分にして行われています。石井さんの息子さんが通っている中学校では、1時間(60分)を1タームとして時間割を組み立ていたようです。これをキッチリと行えているからこそ、保護者や生徒の皆さんから先のような要望が出てくるのだと思います。私たちはもちろん、教師もその要望に応えたいと考えています。
―― 息子の授業の様子を見ていても、先生方は日に日に慣れて上手になっていった印象を受けました。もちろん生徒もそうで、ブレイクアウトセッションでのグループ討議などもしっかりとやっていて感心しました。
関連記事
何があっても“学び”を止めない――茨城県守谷市が全小中学校のオンライン授業をいち早く実現できた理由(前編)
東京のベッドタウンとしても知られる茨城県守谷市が、2021年8月25日から9月12日にかけて全ての市立町中学校において完全オンライン授業を実施した。新型コロナウイルスの感染拡大が問題となり、ほとんどの市区町村が「夏休みの延長」や「分散登校」の判断を下す中、守谷市がオンライン授業という選択肢を取った経緯を聞いた。「GIGAスクール構想」の成功には何が必要? 先進事例から考えてみる
文部科学省の「GIGAスクール構想」の本格スタートから1年経過した2021年。実際の教育現場ではどのような動きがあるのでしょうか。1年に1回開催される教育関連の総合見本市「EDIX 東京」で行われたパネルディスカッションの様子を見ながら考察してみました。職員室の「IT化」を阻むものは何? 元教員が考える課題と解決策
文部科学省の「GIGAスクール構想」と、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、教育現場のIT化が急速に進む……と思いきや、職員室(教員)のIT化は思ったように進んでいない部分もあります。2020年3月まで教員として学校に勤めていた筆者が、教員のIT化の課題と対応策について考察します。小学生の息子でも使いこなせる! 教育機関向け2in1 PC「dynabook K50」を試す
Dynabookの「dynabook K50」は、主に教育機関での利用を想定した「GIGAスクール構想」に準拠したデタッチャブル2in1 PC。コンシューマー向けモデル「dynabook K1」も用意されているが、今回はK50の実力を筆者の息子(小学6年生)に使わせてみつつ検証してみた。【訂正】第8世代「iPad」が9月18日発売 「A12 Bionic」搭載でパフォーマンス向上、3万4800円から
Appleが第8世代の「iPad」を9月18日に発売する。価格は3万4800円から。デザインは従来モデルを踏襲しており、10.2型(2160×1620ピクセル)のRetinaディスプレイを搭載。プロセッサは「A12 Bionic」を備えており、CPU性能が向上。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.