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新「MacBook Air」や「M2チップ」だけじゃない Appleが3年ぶりに世界中の開発者を集めて語った未来本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/4 ページ)

抽選制ながらも約3年ぶり本社に開発者を招待して行われたAppleの「Worldwide Developer Conference 2022(WWDC22)」。今回は「Apple M2チップ」と、同チップを搭載する新しい「MacBook Air」「MacBook Pro(13インチ)」といったハードウェアの新製品も発表された。発表内容を見てみると、おぼろげながらもAppleが描く未来図が浮かんでくる。

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エクササイズの解析能力を向上させた「watchOS 9」

 WWDC22における発表で他に印象的だったことは、「watchOS 9」におけるワークアウト(エクササイズ)の分析機能の強化だ。

 watchOS 9では、Apple Watchだけでついにランニングフォームの解析を行えるようになった。ランニングフォームの解析といえばシューズなどに取り付ける専用センサーと専用アプリが必要だったが、それを用意せずともフォームに関するアドバイスがもらえるということである。

 この機能は、Apple Watchに備わる複数のセンサー情報を組み合わせて、その複雑なパターンを機械学習処理することで実現している。Appleはこれを「センサーフュージョン(Sensor Fusion)」と呼んでいる。

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 センサーフュージョン自体はさまざまな処理で活用されている。サイクリングやスイミングのワークアウトの解析はその典型だが、ランニングフォームの解析までできるようになったのは大きな進化といえる。

 なお、watchOS 9ではワークアウトの情報表示も再設計されており、スプリットタイムを表示するモード、心拍ゾーンを重視して効果的なトレーニングを行うモードなど、さまざまなトレーニングの手法が取り入れられるという。例えば心拍ゾーンを高い領域に入れて一定時間キープした後で、一旦アクティブレストに入って心拍を下げて、再び心拍を上げるという「インターバルトレーニング」もやりやすくなるように工夫されているようだ。

 このような機能は従来、ガーミン(GARMIN)やポラール(POLAR)といったメーカーが得意なトレーニングに特化したスマートウォッチが担っていた領域である。そこにApple Watchが踏み込むということになる。

 watchOS 9では睡眠追跡の分析/表示機能も従来よりもきめ細かく行えるようになっている。今後、どこまで「得意分野」を広げていけるかどうかが、Apple Watchのテーマになるのかもしれない。

 なお、センサーフュージョンは「Apple Watch Series 4」以降のApple Watchで利用できる。少し古めのモデルでも稼働することはありがたい。


watchOS 9で新たに追加されるジョギングのフォーム解析機能。Apple Watch Series 4以降のApple Watchを持っていれば、OSをバージョンアップするだけで利用できるようになる

「製品ファミリー」としての着実な前進

 Appleは、スマートフォン市場において大きなシェアを持つ。昨今の同社は、iPhoneのために培ってきた技術を多方面に応用することで他の製品の魅力を高める戦略を取り、奏功している。今回のWWDCでは、そのスケールメリットを「製品プラットフォーム」から「Apple製品ファミリー」に広げ、開発者に開放していくというAppleの意思を強く感じた。

 例えば、基調講演ではカプコンの「バイオハザード ヴィレッジ」がAppleシリコンを搭載するMacで動作するデモが披露された。美麗なグラフィックスであることが印象的だったが、このゲームはGPUスペックの高いM1 Ultraチップだけでなく、M1チップ搭載の先代MacBook Air、果ては同チップを備えるiPadファミリーでも動作するという。それはAppleが最新のSoC技術をさまざまな形態のデバイスに展開しているからできることである。

 同じSoCアーキテクチャ上にゲーム向けAPI「Metal 3」を載せることで、同じゲームをAppleのさまざまな製品へと展開できる。もちろん、画面解像度やGPUのスペックによってグラフィックスのレベルや描画解像度に違いは出るが、iPhone、iPad、Macなどに「面展開」しやすいことは、開発者の立場からするとモチベーションを高める要素の1つとなるだろう。


WWDCの基調講演で披露されたAppleシリコンMac向けの「バイオハザード ヴィレッジ」。M1チップ搭載のiPadファミリーでも動作するようになる予定だという(© CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.)

 このテコを用いて、Appleは次世代の「CarPlay」を自動車メーカーに売り込もうとしている。次世代CarPlayは、メータークラスターへの情報表示に対応しており、自動車の各種センサーから得られる情報をiPhone側で取得/処理してメータークラスターに表示するということも可能になる。

 「自動車メーカーがそこまでAppleと協力できるのか?」という疑問はあるが、CarPlay対応の車を欲しがる消費者が多ければ、自動車メーカー側は考えを改めざるを得ないだろう。


 WWDCは今週いっぱい続く。より深掘りした取材成果については、いくつか続報を予定しているので、引き続きレポートに注目していただきたい。

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