「デジタル時代に新たな花の文化を開かせる」――東信氏AMKKの滑らかなDX化と新たな挑戦:デジタルで新しい「花」の姿を表現し続けたフラワーアーティスト(4/4 ページ)
Apple製品を使い、これまでにない表現を続けるフラワーアーティストの東信(あずま まこと)氏。林信行氏が、花とデジタルツールとの融合や、制作にかける思いを聞いた。
東信の次の挑戦 デジタル時代の新しい花文化を創造する
常に新しいチャレンジを続ける東氏。
今、最も力を入れているのが、9月にもリリース予定のデジタルの花を送り合う「メタフローリスト(META FLORIST)」というアプリだ。
アプリ画面には、あらかじめ東氏が用意したサンプルのブーケが並んでいるが、ユーザーがそれを元に自分だけのブーケを作る。そこに「お母さん、ありがとう」といったメッセージを入れて、他の人に贈れるのだという。作成したブーケはNFT付きで販売することもできる。
「今の投機目的ではやっているNFTは目指していません。本当の花を買う感覚で買ってもらいたいなと思って開発しています。だから、値段も本物のブーケと同じように3500円くらいにして気軽に買って贈れるようにします」(東氏)
実はこのアプリの開発の裏には、長い間、フラワーアーティストとして活動しながら感じてきた矛盾へのチャレンジもある。
「エネルギー的な側面から見てみると、実は花ってすごく化石燃料を使うんです。作るのもそうですし、運送コストもそう。さらに段ボールもすごくたくさん使います。自分の中に、ものすごい罪悪感のようなものもあり、自分で変えていかないといけないなという思いがありました」と語る。
その方法の1つとして考えていたのが、「デジタルで花を贈り合う文化の創造」だ。
「ずっと、デジタルフラワーショップは世界で最初にやりたいと思っていました」と東氏。
実はこの新たな試みはパッと出た新しいアイデアではなく、これまでの東氏の活動と通底しているものがある。
「僕は25年前からオーダーメイドの花のない花屋というのをやっていて、お花のロスというものに目を向けていました」
そんな東氏が今、改めて見渡してみると同様の花を持たない花屋が世界中に増えているという。
「その方が、環境にとってもいい。次の世代の間でもリアルな花を贈る文化は無くならないけれど、一方でデジタルで花を送り合うのも花の文化なんだよ、というのが広がっていくとうれしいなと思っています」と夢を語る。
東氏とAMKKによるApple製品の活用は、何か特殊なアプリを使うわけでもなければ、奇抜な使い方をするわけでもなく、とてもシンプルだ。
まずは自分で大事にしている表現というものを最も大事な軸にして、そのために使える機器やアプリを、自分たちが使いこなせる方法で活用する。しかし、だからこそ真の創造――つまり、機械に踊らされるのではなく、誰が見ても東信とAMKKのものとして強烈な印象を残す製作ができているのではないか。インタビューを終えて、そう思った。
東 信(あずま まこと)――フラワーアーティスト
2002年、椎木 俊介氏と共同して注文に合わせてデッサンを起こし、花材を仕入れ、花束を作るオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を銀座に構える(現在は南青山所在)。
2005年頃から、こうした花屋としての活動に加え、植物による表現の可能性を探求し、彫刻作品ともいえる造形表現=“Botanical Sculpture”を開始し、海外から注目を集め始める。ニューヨークでの個展を皮切りに、ヨーロッパを中心に先鋭的な作品を数多く発表し、2009年より実験的植物集団「東信、花樹研究所(AMKK)」を立ち上げ、世界各地の美術館やアートギャラリー、パブリックスペースなどで作品発表を重ねる。
近年では、人と花の接点を模索するプロジェクトも精力的に展開。巨大な花のインスタレーションから、レントゲン技法で花の内部まで写し出すミクロのアートワークまで活動範囲は多岐におよび、独自の視点から植物の美を追求し続けている。
椎木 俊介(しいのき しゅんすけ)――ボタニカル・フォトグラファー
2002年、東氏とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東氏が植物による造形表現を始める時期と同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていく生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。
2011年に初の作品集となる東氏との共著「2009-2011 Flowers」(青幻舎)の発表以降、全ての東氏の作品を撮影する他、近年は映像制作にも力を入れる。花のタイムラプス映像「Drop Time」の編集を始め、独自の映像/グラフィックチームを編成し、多岐に渡る活動を展開している。
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