「iPhone」「Apple Watch」「AirPods Pro」の“熟成”を選んだApple 現地で基調講演を見て得た実感:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/5 ページ)
Appleが毎年恒例の9月のスペシャルイベントを開催した。2022年は「iPhone」「Apple Watch」「AirPods Pro」の新製品を披露したが、どの製品もある意味で“熟成”を選んだように見える。どのような“熟成”を選んだのか、発表会の現地で知り得たことを交えて紹介する。
パーツに合わせてソフトも作り込んだ「iPhone 14 Pro/Max」
なかなかSoCの話に向かわないのは、4nmの製造プロセスに切り替えたという「A16 Bionicチップ」のトランジスタ数が150億個から160億個と10億個しか増えていないということもある(「しか」というには少々語弊があるかもしれないが……)。
A16 BionicチップのCPUコアは、2基のパフォーマンスコア(Pコア)と4基の高効率コア(Eコア)の計6基構成と、数だけ見るとA15 Bionicチップから変わりない。筆者の推測だが、性能も大きくは変わっていないと思われる。
現時点でも、A15 BionicチップのCPUコアはスマートフォン向けSoCとしては高性能な部類だ。特にEコアの性能には定評があり、ほとんどの処理はEコアだけで済む(≒Pコアの出番はあまりない)のではないかと言われるほどである。
基調講演では「PコアはA15 Bionicから20%の電力削減」「Eコアは競合の3分の1の電力で同等の性能を発揮できる」という説明があった。ここでいう「競合」はQualcommの「Snapdragon 8 Gen 1」のことを指していると思われるが、A16 BionicチップはEコアの出来の良さを洗練する方向で開発された可能性もある。
A16 BionicチップのCPUコアは、Pコア2基+Eコア4基の6コア構成で変わりない。A15 Bionicとの直接的な性能比較は無かったが、プロセスの微細化効果もあってPコアの消費電力が20%削減されたという
機械学習データの処理を担うNeural Engineについては、演算スループットが最大毎秒16兆回と、A15 Bionicチップの15.8兆回から微増にとどまっている。これは動作クロックの違いによる差と考えるのが妥当だろう。
GPUコアは5基構成で変わりないが、メモリの帯域幅はA15 Bionic比で1.5倍に拡大された。メモリの帯域幅が広がった分だけパフォーマンスも改善していると思われるが、肝心のグラフィックス性能の説明は無かった。
ここまで踏まえると、A16 BionicチップはA15 Bionicチップと比べてユーザーが体感できる「大きな違い」が少ない可能性もある。
ただ、カメラの映像を処理するISP(画像信号プロセッサ)は大きな改良が施されている可能性が大きい。先述のクアッドピクセルセンサーを使いこなすには、ISPの性能も大きな鍵となるからだ。
加えて、iPhone 14 Pro/Pro Maxだけに採用される新型のディスプレイとTrueDepthカメラに関連して、A16 Bionicチップはディスプレイエンジンも刷新している。これにより、画面の常時表示(Always-on Display)、きめ細かいリフレッシュレートの制御とハードウェアベースのアンチエイリアシング(画面のギザギザを軽減する処理)を実現した。
アンチエイリアシングは、新形状のノッチを生かした新しい通知機能「Dynamic Island」を見やすくする上でかなり役立つ。Dynamic Islandの表示はかなりスムーズだが、これはGPUのメモリ帯域幅拡大の効果と見ることもできる。
CPU、GPU、Neural EngineとISPが連携することで、1枚の写真に最大で4兆回の処理を行うという。ISPについては詳しく説明していなかったが、搭載するカメラのことを考えると、チップの中で優先して改良すべき要素の1つである
iPhone 14 Pro/14 Pro Maxをじっくり見てみると、iOSそのものの改良――例えばコンプリケーション表示をサポートする新しいロック画面、アニメーションを伴うDynamic Islandの表示手法など――と“連携”した部材やSoCの改良/開発が行われていることがよく分かる。
今回の“Pro”は、さまざまな新部材や新技術を使って付加価値を高めるという方向性を徹底しているように思える。新し物好きのユーザーだけでなく、開発者のモチベーションも高めてくれる存在といえるかもしれない。
関連記事
新「MacBook Air」や「M2チップ」だけじゃない Appleが3年ぶりに世界中の開発者を集めて語った未来
抽選制ながらも約3年ぶり本社に開発者を招待して行われたAppleの「Worldwide Developer Conference 2022(WWDC22)」。今回は「Apple M2チップ」と、同チップを搭載する新しい「MacBook Air」「MacBook Pro(13インチ)」といったハードウェアの新製品も発表された。発表内容を見てみると、おぼろげながらもAppleが描く未来図が浮かんでくる。「連係カメラ」でiPhoneとMacの配信画質が格段にアップ! Webカメラとの決定的な違い
Appleが「WWDC22」で発表した、iPhoneとMacを使った「連係カメラ」機能は、思った以上にビデオ会議や配信などで役立ちそうだ。「iPhone 11」「11 Pro Max」を試して実感したカメラ大幅進化 そして将来の強みとは
9月20日の販売開始に先駆けて数日間、「iPhone 11」「iPhone 11 Pro Max」を試用した。進化したカメラの実力を中心として、実機に触れて試してみたインプレッションをお届けする。「iPhone 13」はまたもカメラが劇的進化 大型のプロ用カメラをスマホでどこまで再現できるのか
Appleが「iPhone 13」シリーズを発表。販売台数でいえば、メインはProではない無印の「iPhone 13」だが、注目はやはり「iPhone 13 Pro」におけるカメラ機能の大幅進化だ。今回のモデルチェンジで大型のプロ用カメラにどこまで近づけたのだろうか。「iPhone 13」「13 Pro」を試して分かったこだわりの違い コンピュテーショナルフォトグラフィーはここまで進化した
これまでiPhoneのファーストインプレッションでは、SoCとその使い方といった視点でコラムを書くことも多かったが、今回の「iPhone 13」世代ばかりはカメラにかなりフォーカスした記事にせざるを得ない。評価用端末を使い始めてすぐにそう感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.