予想通りだが想像以上! M2 Ultraチップ搭載「Mac Studio」で動画編集が爆発する!:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
Appleが、クリエイター向けデスクトップMac「Mac Studio」を発売した。Mac Studioは、現時点におけるApple Siliconの最上位SoC「M2 Ultraチップ」を搭載する構成も選択できる。今回は、同チップを搭載する構成を実際に使ってみよう。
高められたクリエイター向けの実用性能
Mac Studioがクリエイター、特に動画クリエイター向けコンピュータとして優れているのは、やはりMedia Engineがあってこそである。動画のエンコードという負荷の大きいワークロードを、CPUやGPUから切り離して“軽々と”処理してくれる。
M2 UltraチップのMedia Engineは、合わせて4つの「ProResアクセラレーター(デコーダー/エンコーダー)」を搭載している。4基のアクセラレーターによって、最大22ストリームの8K(7640×4320ピクセル)解像度のProRes動画をを並行してデコード可能だ。先述の通り、これはAfterburnerカード約7枚分に相当する処理性能で、M1 Ultraと比べると最大2.2倍のパフォーマンスとなる。
加えて、M2 UltraチップのMedia Engineでは動画のトランスコード処理も高速化できるようになった。
実はM1 Ultraチップのリリース後、「動画編集アプリケーションでのパフォーマンスが(M1 Maxチップ比で)それほど向上しない」という声が一部で挙がっていた。Apple純正の「Final Cut Pro」を使っているにも関わらずである。
その理由は「プロの動画クリエイター」と「YouTubeの動画編集を主とするクリエイター」でワークフローが異なることが原因だと思われる。視点を少し変えると、M1 Max/Ultraチップ、そしてM2 MaxチップのMedia Engineが「動画をProRes形式からHEVC(H.265)形式に変換する」といったトランスコード処理の高速化に対応していないがゆえに、使い方によってはパフォーマンスの向上を体感できなかったのだ。
Appleを擁護する訳ではないが、プロの動画クリエイターはひとまず最大解像度かつ最高画質(ProRes422コーデック)で動画を書き出し、そこから配信先に合わせて動画を一括でエンコードするというワークフローを敷いていることが多い。Final Cut Proは中間ファイルをProRes形式で保存するため、プロクリエイターのワークフローに従う限りはProResアクセラレーターが有効に働いて、処理が“爆速”になる。
しかし、YouTubeへのアップロードを前提に、始めからHEVC形式で動画を書き出そうとすると、ProRes形式で生成された中間ファイルをHEVC形式へトランスコードするというプロセスとなるため、アクセラレーターのパフォーマンスを引き出し切れない――そういうことである。
M2 Ultraチップでは、どうやらこのボトルネックを回避したようで、トランスコードを行う際のパフォーマンスが改善している。トランスコード処理を重視する人にとっては、M2 Ultraチップは唯一無二の存在となるだろう。
M2 Ultraチップでは、Media Engineのハードウェアアクセラレーションをトランスコード処理にも適用できるようになった。その結果、M1 MaxチップからM2 Maxチップまで大して変わらなかったトランスコード処理のパフォーマンスを大幅に向上している
正直にいうと、「これほどの動画スループットが必要なのか?」と聞かれても、筆者では正確な評価を行えない。具体的なアプリの最適化/互換性情報は、Appleやアプリ開発者のWebサイトなどで確認できる。プロ向けアプリは、どんな“道具”を使うかが見えている。自分の使う“道具”との突き合わせで考えて欲しい。
加えて、実際にMac Studioとプロ向けアプリを導入する場合は、扱う可能性がある動画の解像度とストリーム本数(あるいは、レンダリングする3Dグラフィックスの規模や音楽トラックの数など)を考慮し、どれだけ複雑なアニメーションレンダリングと合成を行うかなど、よくよく吟味すべきだ。
だが、ここまでの性能を、極めてコンパクトかつ省電力に収めている製品は他にない。
動画の書き出しを軽くテスト
とはいえ、「M2 Ultraでどのくらいトランスコードが速く(早く)なるの?」と気になる人もいるだろう。そこで条件がそろわず申し訳ないが、今回レビューしているMac Studioと、M2 Maxチップ搭載の「16インチMacBook Pro」(64GBメモリ)を使って簡単に動画の書き出しテストを行ってみた。使ったアプリはFinal Cut Proと、動画圧縮ツール「Composer」だ。
詳細な結果はグラフを参照してほしいが、少なくともMac Studio(M2 Ultraチップ)ではProResアクセラレーターとMPEGハードウェアエンコーダーのコンフリクトは解決されているようである。
8KのProRes動画を解像度を変えずにHEVC形式に変換する場合、恐らくハードウェアエンコーダーがボトルネックになって高速化は小幅である。しかし、4Kにダウンコーバートしながら書き出す処理、ProRes 422形式で8Kマスターを書き出す処理や、そのファイルをComposerアプリで4K/HEVC形式で書き出す処理は、どれも2倍前後の高速化を実現している。
SSDも十分に高速!
参考までに「AJA Sysytem Test Lite」で内蔵SSDのアクセス速度を計測した結果も掲載しておく。テスト機は2TBモデルだったが、そのスループットは実際の画面で確認いただきたい。
M2 Ultraチップは、M1世代と同じメソッドで拡張されたSoCではある。しかし、実用領域の性能が高められ、相変わらず高い電力効率を維持している。それでいて、ディスクリートGPUを備えるデスクトップPCと同等の実効性能を実現している。
個人的には、このフォームファクタでM2 Proモデルも欲しい……のだが、Apple的には「そうした向きには『Mac mini』がありますよ」と思っていそうである。
そうした観点からも、自分が選ぶべきMacを考えてみるといいだろう。
関連記事
「Mac Studio」「Studio Display」を試して実感した真の価値 小型・高性能に加えてAppleの総合体験も提供
「Mac Studio」を使い始めてみると、コンパクトで省電力ながら高いパフォーマンスを発揮できるのはもちろん、別の画期的な点にも気付いた。それは「Studio Display」と組み合わせた場合のAppleが注力している総合的な体験レベルの高さだ。AppleがM2 Ultraを発表! MacのApple Siliconへの移行が完了
AppleがWWDC23において、M2ファミリーの最後のチップとして「M2 Ultra」を発表し、新型Mac StudioとMac Proで採用する。同時に、MacのApple Siliconへの移行完了を宣言した。Mac Studioが初の大型アップデート M2 Ultraを搭載し最大3倍高速に
AppleがWWDC23において、プロ向けの小型デスクトップPC「Mac Studio」を刷新。新たにM2 Ultra/M2 Maxを採用した。“無限の柔軟性”を提供するM2搭載「Mac mini」という選択肢の魅力
Appleがエントリー向けのデスクトップPC「Mac mini」をモデルチェンジした。最新のM2やM2 Proチップを選べるなど、プロフェッショナルユースもカバーできる高いポテンシャルを備えた1台だ。発売に先立ち、林信行氏が実機を試した。Apple Silicon搭載のMacで「Arm版Windows 11」を利用可能に Parallels Desktop経由で
Microsoftが、Apple Silicon(M1/M2チップシリーズ)のMacにおける「Arm版Windows 11」の稼働を正式にサポートした。ただし、直接起動ではなく「Parallels Desktop 18 for Mac」で作成した仮想PCを介する必要がある。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.