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3つのキーワードで読み解く! 「WWDC23」から見えた2024年のAppleプラットフォーム(2/5 ページ)

2023年5月に開催されたAppleの「WWDC23」。話題は「初の空間コンピュータ」として発表された「Apple Vision Pro」に行きがちだが、Appleのプラットフォームを支える、既存OSのバージョンアップも見逃せないポイントが多い。

FaceTimeもメッセージも大きく進化

 FaceTimeも進化する。新たにFaceTimeで留守番電話メッセージやビデオメッセージを残す機能が用意された他、ビデオを使ったグループ通話にApple Watchから音声のみで参加することが可能になる。電話では難しいグループ間コミュニケーションの道具として、期待ができそうだ。だが、FaceTime関連の1番の目玉は、Apple TVでビデオ通話を楽しめるようにしたことだ。iPhoneをカメラ代わりにして自分を写し、相手の顔をTVの大画面で見ながら通話ができる。


Apple TV 4Kでも、iPhoneをカメラ代わりにしてFaceTimeのビデオ通話ができるようになった。またApple Watchでも音声だけでの参加となるが、FaceTimeのグループ通話に参加可能になる

 さらに大きな進化を果たすのがApple標準の「メッセージ」アプリだ。

 カジュアルなやり取りでは、LINEにスタンプに似たステッカー機能の取り扱いが拡充され、表情豊かなメッセージ交換ができるようになっている。

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 だが、それ以上に重要な改善は、メッセージを未読になっている最初のメッセージまでさかのぼって読む機能や、たまっていた未読メッセージの1つにスワイプ操作で簡単に返信する機能、条件を組み合わせて細かく過去メッセージを検索する機能などが加わった。これにより、集中モード機能などでしばらく会話に参加できていなかった場合でも、後から話を追いかけやすくなっている。

 もう1つ重要なのは、「チェックイン」という機能だ。子供が1人で遠出をする時や、飲み過ぎた友人を見送った後など、相手が無事に家にたどり着いたかが気がかりで「無事に着いたら連絡をして」と頼むことが多い。

 言われた側は、この機能を使ってメッセージアプリに目的地と予想到着時間を入力する(経路情報を元に、自動的におおよその到着時間が設定されるが、買い物などの寄り道をしたい場合は調整できる)。


無事に着いたら連絡してという、よくあるやりとりを半自動化してくれるメッセージのチェックイン機能。できれば、手動でも「無事に着きました」とメッセージを送って欲しいところだが、万が一、それを忘れてしまったと場合でもGPS位置情報を元に無事が通達されるので心配をかけることがなくなる

 無事に目的地に着くと、GPSがそれを感知して自動的に相手に無事の到着を知らせてくれる。こうした機能をそもそも発想し、取り入れるあたり、Appleが現代社会の不安をいかに丁寧にリサーチして、解決に取り組んでいるかが伺える。

 こうした標準のコミュニケーション機能だけでなく、コロナ禍後、急に需要が増えたリモート会議を円滑にする改良も多数加えられており、FaceTimeビデオはもちろんだが、ZoomやMicrosoft Teams、Webexなど他社のビデオ会議システムでも利用できる。

 背景のぼかしや機械学習を用いた照明効果などで、自分の写りをよくする機能だ。カメラに向かって親指を立てたり、ハートマークを作ったりすると、カメラが画像認識でそれらのジェスチャーを認識して話者への反応をアニメーションで返してくれる機能も追加される。マイクをミュートにして話を聞いている時などに役立ちそうだ。

macOS Sonomaならではのスマートなビデオ会議を実現

 macOS Sonoma限定の機能として、資料などを画面共有する際に相手の画面に自分がどのように映っているかを確認できるプレビューが用意される。

 またスライドと自分の顔を個別のウインドウに映し出すのではなく、スライド上に自分の顔や背景を消した自分の上半身を合成して表示する機能なども用意される。より自然なプレゼンテーションが可能になる。

FaceTimeだけでなく、ZoomやMicrosoft Teamsなどほとんどのビデオ会議システムで、スライドの上に自分の映像を合成してよりスマートなプレゼンテーションができるようになる。

 コミュニケーションとは少し異なるが、情報交換の方法も大幅に進化している。Apple製デバイス間のファイル/データ交換の標準だった「AirDrop」が進化して、iPhone同士を近づけて重ね合わせるようにすることで、いちいち画面に表示される候補から相手を選択しないでもファイルの交換ができるようになる。周囲にiPhoneユーザーが大勢いる密集地でのファイル交換が楽になりそうだ。さらに素晴らしいのは、ファイル転送に時間がかかり、終了前に相手の元を離れてしまっても、インターネット経由でファイルの転送が継続されるという改善も加えられている。

 AirDropに関連した機能で、もう1つ注目すべきがNameDropだ。iPhoneで特に何も情報を選択しない状態でiPhone同士を重ねると、連絡先ポスターを含む自分の連絡先情報を交換できる。言ってみれば電子的な名刺交換だ。

iPhoneを重ねるだけで簡単に連絡先交換ができる、NameDrop機能――デジタル時代の名刺交換といってもいいかもしれない。iPhone同士を近づけて接続を確立した後、どこまでの連絡先を共有するかは自分のiPhone画面上のボタンで選択できる。なお、連絡先ポスター情報だけでなく、ファイルを送りたい場合なども同様のiPhoneを重ねるジェスチャーで送信先指定ができる。

 iPhoneを重ねた状態で相手との接続が確立されるので、そこで共有ボタンを押せば自分の連絡先が交換できる。押さなければ一方的に受け取ることも可能だ。さらには、電話番号や自宅住所などの入っていない簡易版の連絡情報だけを送ることもできる。

 「連作先ポスター」に親しい友人や家族の情報を、手で打ち込むとなると現実味がないが、ソーシャルメディアのプロフィール感覚で簡単に見栄えのする連絡先ポスターが作成できるようになり、それをiPhoneを重ねるだけで簡単に交換できるようになるというNameDropの機能を聞いて、ようやくこの機能の利用が広まることが想像できた。

 今後、Androidユーザーなどにどう対応していくかなどは気になるところだ。

 なお、Appleは5月、WWDCに先駆けて発表されたアクセシビリティ機能でも、iPhoneを通話、メッセージ、カメラ/写真、音楽の機能だけに限定し、誰からかかってきた電話か、誰に電話をかけるのかを写真などを使って分かりやすくする機能を先行発表していた。

 2007年1月にiPhoneを発表した際に、故スティーブ・ジョブズ氏は「iPhoneは電話、インターネット情報端末、そしてiPodが1つになったデバイスだ」と紹介していたが、ソーシャルメディアが進み過ぎた今、Appleが改めてiPhoneの基本のブラシュアップに重点を置いたのは非常に興味深い動きだ。

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