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“アプリストア解放”法案に識者2人が警告 縦割り行政による偏った立法が子供たちを危険にさらす理由(2/3 ページ)

デジタル市場競争会議から出された「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の最終報告を受けて、林信行氏が識者に話を伺った。

今の子供たちを取り囲む“訳の分からん世界”

 政府の法案によって、子供たちがどのような危険にさらされようとしているのか。具体的な話をする前に、そもそも今、子供たちがどのような状況に置かれているのかをおさらいしたい。

 2人の有識者から聞いた話は、かなり衝撃的だ。

 これからの時代、子供とはいえ、インターネットなしで暮らすことは難しいだろう。最近では、多くの親が生まれた直後から動画を視聴できるようにしたタブレットなどを渡している。生まれた直後のゼロ歳児の頃から子供たちをインターネットに触れていることになる。

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 しかし、インターネットの情報に触れることは、新たな知識の獲得という良い側面と同時に多くの負の側面ももたらしているという。

 一時期、頻発した飲食店でのイタズラ動画の投稿などもそうだが、スマートフォンが当たり前の時代、子供たちが引き起こす問題は大きく変容している。何が問題なのか分かっているようで分かっていない子供たちも多い。

 例えば、校内暴力だ。文部科学省からは、ど突きあいなどの軽微なものも暴力としてカウントするようにというお達しが出て調査が行われたところ、小中高大学生の分類では、小学校での暴力の割合が顕著に膨れ上がったという。

 一体どんな暴力なのだろうか。

 「驚くことに、昼休みじゃない。朝、会っていきなりど突きあい(略)夜のうちにネットでケンカをするわけですよ、ボイスチャットで。それで一人はそのことを忘れているんですよ。でも、もう一人が覚えていて後ろからど突く。それでケンカになる。これって一体、誰が指導すべきですか?」(竹内氏)

 先生の知らないところでケンカが始まっている。「もう、ゲームなんかやめろ」と言ってもやめない。これは学校も親も責任のとりようがない問題だ。

 イジメの問題も、昔はイジメは学校の同じ教室の中で起きていた。しかし、最近では起きているイジメの多くは、他の学校の生徒がイジメている。先日起きた旭川の事件もそうだ。

 スマートフォンが悪質な大人に活用されて、子供たちが危険な目に遭うことも増えた。インターネットで女子学生の顔写真が流出して「かわいい」と話題になると、その学校の前に出待ちの行列ができるといったこともあるという。

 「訳の分からん世界でしょう。そういう時代に我々の子供は生きている。そんなタイミングに、自由にダウンロードさすとかエラいことやるなぁというのが僕の率直な感想です」(竹内氏)

 ちなみに、ケンカの原因を引き起こしているボイスチャット付きのゲームやソーシャルメディア、出会い系のアプリなどは基本的に13歳未満の利用は禁止されている。しかし、親がアプリの入手に必要なパスワードやパスコードを教えてしまうことで、隠れてこういったアプリを入手する子供たちが多いという。

 また、好きな有名人の発信を見るために年齢を詐称して、年齢制限のかかったソーシャルメディアを活用する子供も多数いるそうだ。

 「先生や学校側には指導責任ないですよ。親も状況を把握しようがない。状況が変わったから新しい枠組みが必要なんですよ」(竹内氏)

青少年を保護する新しい秩序:ペアレンタルコントロール

 この必要な枠組みとして、AppleやGoogleが用意しているのが、ペアレンタルコントロール(親による端末制御)と呼ばれる一連の機能だ。

 iOS上では「スクリーンタイム」や「ファミリー共有」、Android上では「デジタルウェルビーイング」と「ファミリーリンク」といった名前の機能として提供されている。

 スクリーンタイムとデジタルウェルビーイングは子供の端末上で、アプリの利用時間や利用可能時間帯などの制限を加える機能だ。これに対して、ファミリー共有とファミリーリンクは、子供がどんなコンテンツに触れるべきかを親のスマートフォンから遠隔で管理する方法である。


デジタル市場競争会議がまとめた「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」(PDF)にある「vii. 青少年保護の観点からの留意点」(P102)

 これらの機能を使えば、年齢制限違反のアプリを使えなくしたり、アプリを合計何時間使っていいかの制限をかけたり、アプリを使える時間帯の制限をかけることもできる。また、どのアプリをどれくらい使用したかを確認することも可能だ。

 教員や親の目が届かないところで、子供たちがネットの不健全な利用の被害者になることを防ぐ上で極めて有効で、スマートフォン時代の保護者として設定が必須の機能といえよう。

 設定などが難しそうではあるが、それだけに解説動画などの情報がたくさん用意されている。ただし、これらはAppleが、個々のアプリが年齢制限などの申告に嘘がないかなど厳正にアプリの審査をしているからこそ成り立つ仕組みだ。

 「せっかく、こういう良い仕組みがあるのに今回の法案が通ってしまうと、それが台無しになってしまう」(尾花氏)

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