“アプリストア解放”法案に識者2人が警告 縦割り行政による偏った立法が子供たちを危険にさらす理由(1/3 ページ)
デジタル市場競争会議から出された「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の最終報告を受けて、林信行氏が識者に話を伺った。
「マイナンバーの議論にしてもそうですが、消費者が置いてけぼり。デジタル化の推進のために、とりあえず強行突破で進めてしまっている」
「(消費者には)後から追いついてもらうしかないという議論をよく耳にします。でも、後から追いつくも何も勝手にやってしまうのだからみんなは知らない。その上、説明もしないから理解もできない。そんな状況で物事を進めている間は、日本はたぶん『デジタル後進国』を抜け出せないと思います」
語気を強めてこう指摘するのは、ネット教育アナリストの尾花紀子氏だ。これまで内閣府や内閣官房、文部科学省などのさまざまな委員会に参画、健全な青少年インターネットの環境の整備に尽力し「青少年保護 by design」を提唱し続けている。最近ではこども家庭庁の検討委員を務めたり、2022年度総務省調査研究「青少年のインターネット利用におけるトラブル事例等に関する調査研究」の監修も行っていたりする。
政府の法案が後戻りできない危険をもたらす
「担当者が、ことの重大さを分からんまま風穴を開けようとしとるんですよね。全く分かってない。分かっている人もおるのかもしれへんけど縦割り行政の弊害で……でも、これ風穴開けられたら大変やで。もう戻られへん」
兵庫県立大学環境人間学部教授の竹内和雄博士も、ことの重大性を訴える。博士は2005年に起きた「大阪府寝屋川市立中央小学校教職員殺傷事件」で教え子が同僚の教員を殺害したのをきっかけに、インターネットが青少年に与える影響の調査を始め、一般社団法人ソーシャルメディア研究会の代表理事を務めたり、精力的に講演活動を行ったりしている。
両者が重大な問題として取り上げているのは、政府の「モバイル・エコシステムに関する競争評価」だ。
同法案は、多くの反対意見がある中で6月中旬に最終報告案がまとめられた。AppleのiPhoneやGoogleのAndroidに公式ストア以外の経路からも、アプリの入手や他社製Webブラウザの利用を強要する規制法案だ。
セキュリティに詳しい識者や一部開発者や開発者からも多くの問題が指摘されているが、報告書では、そうした指摘をかわすように最大の焦点「サイドローディング」を「アプリ代替流通経路」と言葉をすり替えて、そのまま法案として通ってしまった。
尾花氏と竹内氏は、青少年の健全な環境を守る教育関係者の立場として、この法案がいかに危険であるかを指摘する。両者が指摘する最大の問題は、この法案が完全に経済主導の視点で議論されていることだ。「縦割り行政の弊害」だと大きな懸念を示している。
縦割り行政による偏った立法で、未来の日本を支える子供たちが危険にさらされようとしているのだ。
尾花氏は早い段階でこの問題に気が付き、いち早くパブリックコメントを寄せた。そのため法案を話し合うデジタル市場競争会議に呼ばれ、2時間半近いヒアリングにも応えたという。尾花氏の論点は全192ページの最終報告書でも約半ページほどではあるが触れられている。
しかし、技術を正確に理解しないまま強引に「実質的に問題は生じない」と結論づけられていた。形だけ検証して見せているが、ちゃんとした検証は行われていないと尾花氏は指摘する。
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