Apple Vision Proは「極めて未来的なiPad」――あえて渡米してでも買うべきだと感じたワケを改めて語ろう:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
Apple Vision Proがいよいよ発売された。筆者は渡米の準備を進めており、この記事が載る頃には入手できていると思われる……のだが、そこまでして“初物”の入手に注力する理由を、改めて説明しようと思う。
Apple Vision Proは「極めて未来的なiPad」
少し切り口を変えてみよう。
Apple Vision Proの一部アプリにあるような、目の前の空間に体積を持つ精巧なオブジェクトが表示されている様子を眺めていると、「iPad」と比較する気にはなかなかなれないが、あえてそこを無視して表現すると、この製品は「極めて未来的なiPad」でもあると思う。
現在はクリエイティブなツールとしても成長したiPadだが、その始まりはPC(Mac)とは異なる形でインターネットの情報に接するための道具だった。冷めた見方をすれば「画面の大きなiPhone」ともいえたのだが、iPadが独自のアイデンティティーを確立したのは、ヒトとコンピュータの関係を再定義したからに他ならない。
コンピュータで空間の中に映像と音響を描き出し、現実空間と仮想空間をピッタリと重ね合わせて描くのがApple Vision Proだが、iPadがそうだったように、Apple Vision Proはデジタルコンテンツとの関わりも変える存在となりうる。
その観点に立つと、あくまでもApple Vision Proは“スタート地点“だ。ここから新しいヒトとコンピュータの関係が築かれ、スマートフォン、タブレット、PCと連携しながら、情報やメディアと接し、それらを創造するハブとして、従来のデバイスとは異なる立ち位置を見つけていくと思う。
Apple Vision Proの驚きは視覚や聴覚に強く依存したものだが、一方で業界でもトップクラスのモバイルコンピュータと同等の性能も備えている。
Apple Vision Proは「現在のAppleの集大成」
皆さんの中には「もう少しクールダウンして見た方がいいのでは?」と思う人もいるかもしれない。
それはその通り。いわゆる「パソコン」としてApple Vision Proを見つめると、能力(性能)は“際だって”高いわけではない。この製品でなければできない体験や表現はあるものの、機能面で“Apple Vision Proだけ”というものを見つけるのも難しい。
もっといえば、長期的な視点で考えると、ヒトの視覚に近づくための手段として、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)という手法が最適なのかどうかも分からない。
しかし、周囲の空間情報をセンサーやカメラで捉え、3Dメッシュとそのテクスチャを生成した上でグラフィックスとして再現し、視覚と聴覚に訴える多様なアプローチを実践するための半導体技術や、この製品に向けたアプリケーションを構築するためのソフトウェア基盤など、Apple Vision ProはAppleがこれまで培ってきた技術を全て総動員して作り上げられている。言い換えると「Appleの全力投球」ともいえる。これがどこまで“理想”に近い着地点をもたらしているのか、見てみたいのだ。
本機に12基搭載されるカメラのうち、8基は前面のガラスの下部に配置されている。8基のうち2つは高精細のカラー映像を捉え、残りの4基はヘッドセットの位置追跡に使用されている。2基は下向きに設置されていて、顔の表情を追跡する。さらに、目の周辺には赤外線(IR)カメラが4基配置され、視線を追う。
HMDデバイスの多くは“没入”をテーマにしているのに対して、Apple Visionは「現実空間との調和」をテーマに据えている。LiDARセンサーで空間を検出し、表示される仮想的な物体が現実のテーブルに影を落とす。環境光センサーやフリッカーセンサーは部屋の照明環境を知るために使われ、現実空間を真似た部屋の様子は、実際の環境に近い風合いで再現される。
ご存知の通り、Qualcomm、Samsung Electronics(サムスン電子)、そしてGoogleも「新しいHMD」を生み出すべく、レファレンスモデルを2024年末までにリリースするようだ。2023年2月の開発意向表明時には語られていなかった「空間コンピュータ」という言葉も使われるようになっている。
数年後には、2024年が新しい時代の始まりだと認識されているに違いない。
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