コラム

PCの累計生産台数5000万台突破目前! 「島根富士通」が出雲にある理由(3/4 ページ)

富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の子会社として、ノートPCやデスクトップPCの生産を担う「島根富士通」。2024年度第3四半期(2024年10~12月)にもPCの累計生産台数が5000万台を突破する見通しとなった。これに合わせて、5000万台記念モデルの製作計画をスタートしたという。

島根富士通と出雲市との“つながり”

 島根富士通が「5000万台記念モデルに地元の工芸品を素材として使いたい」と強い意思を持っていることからも分かるように、同社と出雲市(と周辺自治体)とのつながりは強固だ。

 島根富士通には協力会社を含めて約1200人の従業員が勤務しているが、その地元率は99%であり、地元からの勤務者のほとんどが出雲市に在住しているという。また、新卒採用のエントリー学生のUターン率も70%に達している。地元の雇用創出に貢献しているのだ。


島根富士通の従業員(協力会社を含む)は、地元率が99%に達する。新卒採用におけるUターン者の比率も70%と高く、地元の雇用創出(と定着)に貢献しているしている

 島根富士通の所在地は、元々「斐川町」という自治体に所在していた。同町は2011年10月に出雲市に吸収合併されたが、同社はこれを機に自社生産したPCを「出雲モデル」として訴求し始めた。

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 同社のPCは2012年、出雲ブランド商品として認定を受けており、出雲市を代表する製品の1つとなっている。2020年からは、出雲市における「ふるさと納税」の返礼品にも採用されており、年を追うごとに対象製品は増加している。この返礼品には、本体に出雲モデルのロゴも入っている。


島根富士通は、島根県斐川町(当時)で創業された。2011年10月に同町は出雲市に吸収合併されたが、この出雲市は2005年3月22日に新しく誕生した自治体である(法的には同年3月21日までの「出雲市」とは別の自治体となる)

出雲市のふるさと納税の返礼品として販売されるPCには、出雲モデルの刻印が入る

 さらに島根富士通は2020年12月、30年以上に渡って事業活動をしている企業を対象とする「永年貢献立地企業」として島根県から表彰されている。2025年には操業開始から35周年を迎える。

 同じ出雲市には、出雲村田製作所(村田製作所グループ)、積水成型出雲(積水化学工業グループ)、島根島津(島津製作所グループ)といった“もの作り”に携わる企業も集積している。同社はこれらの企業と連携して、海岸清掃やトキの野生復帰活動の協力なSDGs(持続可能な開発目標)関連の取り組みを行っている。少年サッカー大会の開催など、地域貢献活動にも積極的だ。


島根富士通は「永年貢献立地企業」として島根県から表彰された

地元に立地する企業と協力して地域貢献活動も行っている

 ここ数年コロナ禍で停止していた、地元小学生の工場見学の受け入れも再開した。2023年度は12校、約1000人が訪れたという。2023年度だけで出雲市内の小学校の約4割が見学しており、累計では市内の全小学校が見学に訪れていることになるそうだ。2024年度も、工場見学の受け入れは積極的に行う予定だという。

 2006年8月に第1回を開催して依頼、毎年8月の恒例行事となった「富士通 FMV PC組み立て教室」も、2022年から再開した。小中学生の親子を対象とするこの教室では、匠(たくみ)の技術を持つ同社従業員が講師となり、子どもたちのPCの組み立てをサポートし、自分のためのPCを、自分で完成させている。

 本教室は、2024年の夏も開催される予定だ。


地元小学生の工場見学の受け入れを再開した。2023年度は出雲市の約4割の小学校からの見学を受け入れたという

2006年から始まったPC組み立て教室。コロナ禍で一時中断されたが2022年に再開され、2024年も開催する方向で準備を進めているという

 同社のユニークな取り組みの1つがとして、生産性向上に向けた地元企業へのコンサルティングが挙げられる。コンサルティング実績は既に17社に達し、設備やソリューションの提供も行っているという。

 同社は最先端の生産設備を導入し、人と機械の協調生産に関するノウハウを蓄積してきた。これのノウハウを、地元企業にも還元しているのだ。

 これまでの同社の取り組みを振り返ると、2003年から「ものづくり革新活動」を開始し、2005年からは「トヨタ生産方式(TPS)」を本格導入した。2009年からは、この取り組みを生産現場に留まらず、部品調達や出荷後の物流にまで広げ、サプライチェーン全体を包含する活動へと拡大してきた経緯がある。

 現在では「Smart Manufacturing(スマート生産)」を推進し、プリント基板製造ラインの完全無人化や、32台のAGV(無人搬送車)を活用した部品供給や完成品の回収、データを活用した生産性向上や品質向上などに取り組んでいる。

 島根富士通では、CTOによる生産が全体の95%を占め、5万種類の構成に対応することが可能な生産ラインを実現している。変種変量の注文に、迅速かつ柔軟に応えることが可能だ。

 2024年度からは、国内におけるPC需要が拡大すると見込まれており、それに向けた生産体制の拡充にも余念がない。


自社が培ってきた知見を地元企業に還元するコンサルティングにも力を入れている

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