AppleはAIのOS統合をどのようにデザインしたのか? 林信行の「Apple Intelligence」考:WWDC24(5/5 ページ)
注目が集まっていたAppleの生成AIに対する取り組み。ついにWWDC24でその全貌が明らかになった。林信行氏が読み解く。
日本語対応はまだ先だが、最後にものをいうのは品質
このGenmojiやWriting Toolsは直感的操作の例であると同時に、より深いOS統合の例ともいえる。AppleはユーザーがApple製OSをより快適に使う上で、生成AIがどのように役立つか膨大な議論を重ねてきたようで、OSのいろいろな機能がApple Intelligenceによる進化を果たしている。
例えば、通知機能の進化も面白い。Apple Intelligenceがすぐに対応が必要な通知を理解して、優先順位をつけ、差し迫った通知だけを表示してくれる機能が追加される。同様にメールアプリでも差し迫った重要なものだけを分類して表示するといった機能を用意している。
使いやすさの向上という点では、iPhoneやiPad、Macで特定の操作をする方法が分からない場合、その使い方をSiriに聞くと、操作方法の説明を生成して画面に表示してくれるという機能もある。日々、親やテクノロジーに疎い同僚、友人のサポートを頼まれている人たちには朗報だろう。
もちろん、全てのAI機能がそこまできれいにOSに統合されているわけではなく、機能の存在を知らないと使われなさそうなAI機能もある。
その代表格は、WWDC24の基調講演で好評だった「Math Note」だろう。iPadOS 18に新たに追加される「計算機」アプリの機能で、Apple Pencilを使って数式を手書きすると、その数式を文字認識して「=」を描いた瞬間に答えを計算して出してくれたり、グラフを描いてくれたりする機能だ。
こうした単体機能の認知をどのように広めていくかはAppleにとって今後の課題となるかもしれない。
Apple Intelligenceがどれほど直感的で分かりやすいかをちゃんと評価できるのは、今秋に対応OSのiOS 18/iPadOS 18/macOS Sequoiaがリリースされて以降だ。しかも既に書いた通り、まずは英語だけでの提供なので、日本語でどれだけうまく機能するかも未知数となる。
Appleは責任ある老舗IT企業、そしてユーザーからの印象を重視するブランド企業として、品質が保証できない中途半端な状態で技術を提供することを嫌う。
日本にいる私たちにとっては、まだしばらく英語圏の人達をうらやむばかりの歯がゆい状態が続くわけだが、日本のユーザーがそうした待ちぼうけをくらうのは決して今回が初めてではない。日本語の音声入力や写真中の文字認識と言った機能も提供が遅れはしたものの、ちゃんと品質を伴っていたので、今では多くの日本人が日々活用している。
日本向けのローカライズといえば、単に言語の対応だけ済ませれば終わりというわけではない。今回、Apple Intelligenceで提供されているAIは全てAppleが独自に開発しトレーニングしたもので、そこには言語モデルや絵を生成する「Diffusion」モデル、利用者の個人情報を理解する「Semantic index」と言った機能が中核になっている。
しかし、おそらくAppleは日本への対応を果たす前に、言語モデルだけでなくDiffusionモデルで生成する絵などについても、現在の「いかにも米国風」な絵柄ではなく、より日本の文化になじむ絵を描けるようにしてくれることを期待している(それをやらないと、製品を通して特定の文化を押し付けることになってしまうからだ)。
質の高いサービスを提供するためにも、まずは実験台として米国向けのサービスをしっかり作り込むというのがAppleのやり方だ。日本語に対応したApple Intelligenceが1日でも早く登場することに期待したい。
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