“後出し”の生成AI「Apple Intelligence」がAppleの製品力を高める理由:本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/5 ページ)
生成AIにおいて出遅れを指摘されているAppleが、開発者向けイベントに合わせて「Apple Intelligence」を発表した。数ある生成AIとは異なり、あくまでも「Apple製品を使いやすくする」というアプローチが特徴だ。
オンライン処理でプライバシーを守るための工夫
オンデバイスとクラウド(オンライン)両方のAIモデルをシームレスにつなぎ、それでもプライバシーを守ることができる――それはなぜか。この部分に、Appleならではの工夫と優勢が垣間見える。
Appleによると、可能な限りオンデバイスでAIに関する処理を済ませた上で、細かく細分化したデータをクラウド側に送出しているのだという。具体的には、オンデバイスのAIモデルでデバイス内のユーザーデータを解析し、必要な情報を抽出した後、データのコンテクスト(関係性)をデバイス側で担保した上で、細かいトランザクションをクラウドサーバに投げているそうだ。
クラウドサーバに投げたトランザクションの結果(データ)は、細分化されたままデバイスに戻ってくる。それをデバイス側がつなぎ合わせ、結果として提示される仕組みとなる。
先ほどの「娘が出演する演劇」の質問の例に当てはめると、質問の分析と必要な情報の収集はデバイス側で行う。その後、データを「スケジュールの情報」「位置情報」「イベントの情報」といった感じで“細分化”した上で、“別々に”クラウドサーバへと送信される。
この手法自体は、従来からAppleの「マップ」で使われており、データ自体には個人を特定できる情報は一切含まれない(含まれていたとしても匿名化した上で送られる)。通信ごとにトークンを変更し、ユーザー側のIPアドレスも一切隠されるという徹底ぶりだ。
とはいえ、サーバ側に送られる情報や、サーバでの処理内容はユーザーからは見えない。そこでAppleはクラウド処理の透明性を高める措置も講じているという。
まず処理に使われるクラウドサーバでは、外部から来る情報を「ノンパーマネントストレージ」に置く。データが保存されることもなければ、処理のログも残さないという。
また、サーバの構築に使われるプログラムのコードは公開されるされるため、セキュリティ研究者が透明性の担保を検証可能とのことだ。サーバのプログラムが変更された際にはその内容も公開され、識別できないバージョンのサーバとは通信できないように措置が講じられる。加えて、プログラムの変更履歴はブロックチェーン技術を利用して追跡可能とすることで、正しい手順での開発されたものなのか、そもそも正規のサーバなのか確認できる。
クラウドでの生成AIという観点では、サーバの消費電力も話題となることが多い。Appleはこの点にも配慮しており、省電力なApple Siliconで構築したサーバ(データセンター)を、100%再生可能エネルギーで運用するそうだ。デバイス側で可能な限り処理を行うのも、サーバ側のエネルギーを抑制するための工夫といえる。
こうした取り組みにより、環境負荷を最小限に抑えつつ、生成AIの持つ力を最大限活用する機能やサービスを提供できるのだ。
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