AIに定義づけられた製品が花開く――「CES 2025」に見る2025年のテックトレンド:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)
CES 2025では、前年の「Software Defined」の流れを引き継いで「AI Defined」という潮流が生まれていることを予感させる基調講演が多かった。この潮流は、世の中の製品にどのような影響を与えるのだろうか。
「Software Defined」が誘発する提携と業界再編
こうしたSDVというコンセプトを生み出してきたのは、米Tesla(テスラ)だ。従来の自動車メーカーとは異なるスピード感でソフトウェア主体の価値を強化していく様は、Teslaに大きなブランドロイヤリティをもたらした。
これに対抗する形で、既存の自動車メーカーはソフトウェア中心の車作りを行うための基盤を模索し始めている。
例えばドイツのVolkswagen(フォルクスワーゲン)は、「CARIAD(カリアド)」というソフトウェア子会社を設立し、統合プラットフォーム「VW.os」を推進しようとしている。
- →CARIAD
- →VW.os: The heart of our tech stack(CARIAD)
一方、日本でもトヨタ自動車が「Arene(アリーン) OS」を軸とするオープンプラットフォーム構想「Arene」を発表し、Honda(本田技研工業)もSDVの軸となる独自OS「ASIMO OS」を発表した。
- →Areneについて(トヨタ自動車)
- →ASIMO OSについて(Honda)
これらの動きは、ハードウェア(車両のボディーやエンジン特性など)に製品価値を依存していた自動車産業が、EV(電気自動車)時代における独自性や価値創造の軸として、ソフトウェアとクラウドによる新たなモビリティーサービスを据えるという意思表示ともいえる。
車内外のデータを活用し、個人の嗜好や健康状態に合わせてダッシュボードの表示内容が変化したり、運転支援機能が高度にパーソナライズされたりする世界は、そのうち当たり前になるだろう。一方で、ユーザーのプライバシー確保やセキュリティ対策など、新たな課題も浮上してくる。
CES 2025では、ソニー・ホンダモビリティ(SHM)がEV初号機「AFEELA(アフィーラ) 1」をが発表されたことも話題となった。
- →AFEELA 1 製品情報(日本語)
SHMで気になるのは、同社の母体の1社であるHondaと異なるSoCベンダーと提携し、Hondaと異なるソフトウェア基盤を開発していることだ。
Software Definedを突き詰めるのであれば、ソフトウェア開発にスケールメリットを求めるべきだ。それはコンピュータの歴史を振り返れば自明だろう。SHMとHondaが相互にソフトウェア開発のノウハウを共有するには、プラットフォームを共通化した方が都合が良い。
今後、ソフトウェア中心の物作りで重要になるのは「AI」で、その質を高めるのはデータの「量」と「質」だ。少子化が進む中、日本の国内市場が伸び悩む事は明らかな情勢だ。AIは車内エンターテイメントのみならず、自動運転でも今後重要になっていく。AIの質は取得した(≒学習した)データ量と一定の相関関係を持つため、その基盤となるユーザーの絶対数は大きく影響する。
ユーザー数という観点に立つと、中国のEVメーカーは先行している。CESを見ただけでは、日本の自動車業界が“基幹産業”としてどのような対応を取るのかは判断できない。しかし、今後は新たな提携や業界再編を求める圧力は強まることは間違いなさそうだ。
「AI Defined」は「データドリブン」につながる
CES 2025ではSDVが1つのテーマになったが、Software Definedというコンセプト“そのもの”は、自動車業界だけではなくさまざまな産業領域に通用するものだと想像できる。
テクノロジーによって産業をどのように再活性化するか――最近は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ぶこの考え方を、物作りにおける商品コンセプトを構築するする際に置くことこそが、まさにSoftware Definedともいえる。
例えば、成熟産業であるオーディオ業界をSoftware Definedにすると、どのような変革が期待できるだろうか。この業界は、典型的なハードウェア志向の技術革新で進化してきた。スピーカーの材質、振動板の構造、アンプの高精度化などハードウェアを改良することで音質を高める“王道”路線を歩んできたともいえる。しかし、このようなアナログ的なアプローチでは、解決が難しいこともある。
その一例が、室内の音響特性や環境ノイズを考慮した再生環境の構築だ。近年、これらの問題をソフトウェアの技術革新で解決しようという動きが盛んになっている。アナログ的な製品の背景としてデジタル(ソフトウェア)技術を活用することで、ハイエンド製品の価値を高める例も見られる。
機能面に目を向ければ、ノイズキャンセリング機能やその適応制御なども、ソフトウェア中心の価値作りといえるだろう。
同様のアプローチは他ジャンルでも考えられる。こうした中で、CES 2025では「AI Defined」ともいえるAI中心の製品や技術発表が多く見られた。物作りの中心にソフトウェアで定義する考え方を据え、そのコンセプトが成熟したことで、AIを製品やサービスの中心に据えたアプローチに発展しているのだ。
それと同時に見えてきたのが、AI中心の物作りにおける「Data Driven(データドリブン)」な産業構造だ。AI Definedな製品作りでは、AIがユーザーの利用状況や外部環境から収集されるデータを総合的に学習し、その結果を製品やサービスの向上に還元するようになる。要するに、データの蓄積によるソフトウェアの改良プロセスが自動/自律化され、使えば使うほど賢くなるという大胆なコンセプトだ。
CES 2025の基調講演から、その流れは追いかけられる。
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