「Apple C1」は“新しい進化の出発点”となる“自社開発”モデム 「iPhone 16e」で初採用となった理由:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
Appleが2月28日に発売する「iPhone 16e」には、Appleが自社設計したセルラーモデムが初搭載されている。これは、今後のApple製品の競争力を向上する上で重要な存在となりうる。【修正】
5年越しに登場する自社設計モデム
セルラーモデムに関する技術は、これまで長らくQualcommが他社を圧倒してきた。そのためか、世界の携帯電話事業者(キャリア)の中にはモバイルネットワークを同社製モデムに最適化しているケースもある。つまり、Qualcomm以外のセルラーモデムを使うと期待通りのパフォーマンスを発揮できなかったり、場合によっては接続性に問題を生じたりすることもある。
Qualcomm以外のセルラーモデムメーカーが存在感を増したこともあって、以前と比べるとこのようなネットワークとの「相性」問題は減ったものの、それでもApple C1のモバイルネットワークにおける「互換性」や「パフォーマンス」への不安の声はあるだろう。
そもそもAppleがセルラーモデムの開発に取り組んだきっかけは、2017年から始まったQualcommとの係争だ(この係争は2019年までに全面和解に至っている)。
ただし、純粋にゼロからの開発かというと、そうではない。2019年、AppleはIntelからセルラーモデム事業の過半数を買収した。“過半数”なのはAppleが買収対象としたのはスマートフォン用のセルラーモデムに関連する部分(約2200人の従業員、約1万7000件の特許、各種装置や賃貸契約)だけだったためで、PC/IoTデバイスや自動運転車向けのセルラーモデム事業はIntelに残った。
- →当時のニュースリリース(日本語版)
ちなみに、Intelのセルラーモデム事業は2011年に買収したInfineon Technologiesの無線ソリューション事業に由来するものだ。一部とはいえ、約8年で再売却されたことになる。
しかしこの買収後、Appleは自社開発のセルラーモデムをすぐには出さなかった。今回、iPhone 16eに搭載されたApple C1が“初披露”で買収から約5年かかっている。
これだけ長く時間をかけたのは、Appleの主力製品であるiPhoneファミリーの価値を落とさず、今後の進化の基礎にするためだ。当然ながら、自社モデムに自信がないのなら、今までと同じように実績のある他社製モデムを購入して搭載するという選択肢もある。
MacのCPU(SoC)をIntelから自社設計の「M1チップ」に変えた時と同様に、最終的な製品価値を高められると判断したからこそ、iPhone 16eでの採用に至ったということだろう。
世界180以上のキャリアのネットワークで試験を実施
グローバルで出荷されるiPhone 16eにいきなり採用されるApple C1モデムだが、Appleによると世界55カ国以上で180以上のキャリアにおいてネットワークで試験済みで、互換性が確認されているという。各地域の通信パートナーからの異論もないといい、パフォーマンス面での懸念はなさそうだ。
仮に万が一の問題があったとしても、Appleは端末全体のハードウェア/ソフトウェアを自社で管理しており、ハードウェアとソフトウェアの両面からApple社内で問題解決に向けて行動できるのは、むしろ強みといえる。
先述の通り、端末システムの中心となっているチップも含め、Apple社内から全て見通しが良い状況の方が適応性や柔軟性の面でもプラスになるだろう。これは“将来の発展性”にも言えることだ。
Apple C1は「新しい進化の出発点」に
繰り返しだが、Apple C1はベースバンドチップとRFトランスミッターチップを中心とした、Appleが独自開発したワイヤレス通信システム全体の名称だ。そして、Appleの長期的な戦略の一環と位置付けられている。
Apple C1にミリ波/UWBへの対応が加えられることは十分に予想される。さらに、Apple C1の世代なのか、次世代の「Apple C2(仮)」の世代なのかは分からないが、Wi-Fi(無線LAN)やBluetoothの通信機能を統合することもあり得るのではないだろうか。RFトランスミッターは同じものを継続利用しつつ、ベースバンドチップだけを新しくするという選択肢も考えられる。
携帯電話端末を構成する主要な要素を全て自社で用意したことで、スケーラブルなアーキテクチャにできたことは、将来への期待を沸き立ててくれる。Apple C1、あるいはその後継モデムがiPad、果てはMacに採用される可能性も否定できない。
Appleの主要製品においてワイヤレス技術基盤が統一されれば、エコシステム全体で独自の使いやすさや機能性をさらに高める基礎ともなりうる。他のAppleの半導体技術(Apple MシリーズやAシリーズなど)と同様に、異なる役割の回路パートをハードウェア/ソフトウェアの両面で統合するために、半導体技術にも新たなアイディアを盛り込んで行くことも期待できる。
なぜなら、独自SoCがApple製品の競争力を高めているように、今後のApple C1が同社の“本業”であるハードウェア端末における競争力を高めることになると考えられるからだ。そこでAppleが手を抜くことは考えられない。
端末メーカーがセルラーモデムまで開発している例はそれほど多くはない。今後、他社との違いを実現していく上で技術革新の基盤となるだろう。
関連記事
なぜ“まだ使えない”Apple Intelligenceを推すのか? 新製品から見えるAppleの狙い
Appleが、毎年恒例の9月のスペシャルイベントを開催した。順当に発表された新型iPhoneでは、生成AIを生かした「Apple Intelligence」が推されてるのだが、当のApple Intelligenceは発売時に使うことはできない。なぜ、発売当初に使えない機能を推すのだろうか。新製品の狙いを見ていこう。「iPhone 16e」は全世界で「n79対応」「ミリ波5G非対応」 日本は「nanoSIM+eSIM」構成(デュアルeSIM可)に
iPhone 16eは、国/地域ごとに通信回りの仕様が異なる。今回は米国向けもミリ波非対応である一方、日本ではNTTドコモのみが利用している5G NRの「n79」に対応していることが特徴だ。【訂正】“後出し”の生成AI「Apple Intelligence」がAppleの製品力を高める理由
生成AIにおいて出遅れを指摘されているAppleが、開発者向けイベントに合わせて「Apple Intelligence」を発表した。数ある生成AIとは異なり、あくまでも「Apple製品を使いやすくする」というアプローチが特徴だ。なぜ「iPhone 14 mini」がなくなって「iPhone 14 Plus」が出たのか 実機を触って分かったこと
他のiPhone 14ファミリーから遅れること2週間、まもなく「iPhone 14 Plus」が発売される。iPhone 12ファミリーから登場した「mini」ではなく、大画面の「Plus」が登場したのはなぜなのだろうか。実機を使いつつ考察してみた。使って分かったM4チップ搭載「iPad Pro」のパワフルさ 処理性能とApple Pencil Pro/Ultra Retina XDRディスプレイ/新Magic Keyboardを冷静に評価する
Appleが5月15日に発売する新しい「iPad Pro」は、想像以上にパワフルだ。しかし、用途によっては「iPad Air」でもいいかもしれない――iPad Proを中心に、実機に触れつつレビューしていこう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.