Apple製品でiPadほど多用途なモデルは珍しい? 2025年モデルは“iPadの方向性”を再定義する(2/2 ページ)
Appleからタブレットの新モデル「iPad Air」と「iPad」が発表された。実機レビューの前に新モデルの立ち位置や狙いを林信行氏がふかんした。
無印iPadの仕様は日本のGIGAスクール構想で決まった!?
先日、Xで円の価値の下落を痛感させる、こんな投稿が流れてきた。
米国におけるiPhoneの価格は変わらないのに、日本の価格は5年間で年率14%ほど上がり続けている。
これに対して標準「iPad」の価格はというと、ギリギリ7万円を切る価格でアップダウンが激しい。驚くことに、最新のiPadの米国での価格は349ドルで、インフレが続いて、全ての物価が上がりつつける米国で、前モデルの449ドルより100ドルも値下げになっている。
これには日本のGIGAスクールの影響が大きく出ていると考えられる。コロナ禍によって前倒しでスタートしたGIGAスクール構想だが、当初は学校がデジタル端末などの購入で受けられる補助は1端末あたり4万5000円だった。
2019~2020年頃、最も安価なWi-Fiモデルが3万4800円から、教育機関向けのディスカウントを加えると3万2800円と、まさに価格的にも理想の端末となっていた。
多くの学校がiPadを導入し、さまざまな先進的教育事例が発表された(iPadは、そもそもGIGAスクールが始まる前から教育市場の人気端末で多くの先進事例を生み出していた)。
「GIGAスクール構想第二期基本パッケージの端末搭載CPUのベンチマークで、iPad(第10世代)は最も優れた性能を発揮」としている内田洋行のWebページによれば、iPadの強みは「故障率が低く学びが止まらない」こと、「高い活用率」「スムーズな管理運用」「パワフルな性能」、そして「長く使えるバッテリー」だそうだ。ダイワボウ情報システムの「DiS教育ICT総合サイト」の2023年の記事でも、文部科学省の調査を引用して「iPadの魅力は『活用率の高さ』と『故障率の低さ』」と語っている。
この記事が掲載された2023年、徳島県教育委員会が、GIGAスクールでWindowsタブレットを導入したものの、1万5000台中3500台の故障が発生し授業ができないという問題が発生し大きな問題となるなど、教育機関では「壊れにくさ」を含む製品の品質は、製品選定における重要な要素の1つとなっていた。
ただ、そんなiPadで唯一の弱点とされていたのが、その価格の高さだ。2021年までは何とかか低価格を維持し、2021年と2022年の調査ではタブレット端末の中では1番人気で、出荷した600万台強の端末の中で50%を超えるシェアを持っていた。
しかし、2022年に発表された第10世代の10.9型iPadでは米国でのインフレも手伝って、米国での価格も一気に100ドル値上がり、既に円安が進行していた日本では5万円を大きく飛び越して価格が6万8800円からと、かなり高価になってしまい多くの学校がGIGAスクールの予算で購入できなくなってしまった。
2023年のMM総研の調査では、調査方法が変わり利用OSベースになっているが、GoogleのChromebookが42%でiPad(29%)を大きく上回っている。
Appleは2022年には「日本の教育向上のため、活用されるiPad」というリリースまで出して、価格が上がろうともiPadが教育市場で有益なツールであることをアピールした(ちなみに同様のリリースは各国でも出しているが、米国では大学や社会人向け学校での導入事例の紹介が多い印象だ)。
とはいえ、そんなに急には予算の枠を変えられない。
ここでAppleが取ったのが、前年のモデルをほぼ変わらない価格で継続販売するという荒技を使い、それによって翌年入学の学生も無事iPadを手にすることができた。
2023年と2024年、Appleは無印iPadの発表を見送る。しかし、2024年には円安があまりにも急激に進んでしまったため、製品を従来通りの価格で売ることは難しくなってしまった。
日本の教育市場界隈で、特にiPadの導入を検討しているところは戦々恐々としていたが、2024年5月には教育関連の展示会、EDIXの特別講演にAppleワールドワイド教育マーケティング部門ディレクターのリズ・アンダーソン氏が登壇し、同社がいかに日本市場にコミットしているかを熱弁。その後、第10世代iPadの1万円値下げが発表された。
2024年5月8日、「第15回 教育 総合展(EDIX)東京」でAppleワールドワイド教育マーケティング部門ディレクターのリズ・アンダーソン氏が講演。教育デバイスとしてのiPadの優位性をアピールした。Appleが一般の展示会に参加するのは珍しいことで、そこからも日本の教育市場をどれだけ重視しているかが伺える
こういった背景を考えると、今回のiPadは最初から日本のGIGAスクールをある程度、前提にして仕様が決められていた可能性が高い。つまり、最初から日本円で6万円未満という価格が決まっていたのではないだろうか(Wi-Fiモデルが5万8800円からで、学生/教職員はそれが5万4800円からになる)。
2024年に始まり、2028年まで続くGIGAスクール構想第2期における端末補助単価は、半導体不足や円安の影響を考えて1期よりも1万円高い5万5000円に設定されており、ピッタリこれに当てはまるのだ。
そして、そこからApple Intelligence非対応や、現在も製造を続けているこの価格で提供できるSoCのA16やSSDといった仕様が決まり、そこから米国の価格を決めたのではないかと思えてくる。
そう考えるとApple Intelligenceには対応していないものの、日本の未来のことを考えてくれた非常に配慮のある製品として愛着もわいてくる。とはいえ、自分用にiPadを買おうとしている個人は、Apple Intelligenceが使えるか使えないかで、製品の価値が大きく変わってくることも考えて、2025年にiPadを買うのであれば、少し頑張ってiPad Airを選ぶよう勧めたいところだ。
なお、iPadを教育現場でどのように活用していくかについてはiOSコンソーシアムが運営する「iPadと学び」というサイトが多くの事例を紹介している(筆者も顧問を務めている)。
YouTubeクリエイターの平岡雄太さんが取材した大分県の公立小学校のiPad活用は、多くの公立の学校にも良いヒントを与えてくれるはずだ。
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