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生成AIが笑ってしまうほど高速に――Qualcommが450TOPSの“外付け”NPUを開発 Dell Technologiesのx86ノートPCに搭載COMPUTEX TAIPEI 2025

Qualcommは自社のSnapdragon Xシリーズを搭載するPCを強く訴求している。しかし、COMPUTEX TAIPEI 2025に合わせて設置したプライベート展示場に足を向けると、なぜかx86 PCが主体となって展示されているコーナーがあった。どうやら、Qualcommの“新製品”が展示されているそうだ。

 Qualcommといえば、かつてはセルラー(携帯電話)向けのモデムやチップセット、少し前ならスマートフォン向けのSoCで知られた会社だが、最近は「Snapdragon Xシリーズ」に見られるようにPC向けSoCにも注力している。

 5月23日(台湾時間)に一般公開日を迎えた「COMPUTEX TAIPEI 2025」に合わせて、同社はSnapdragon Xシリーズの訴求を強化しており、台北市内でもSnapdragon Xの広告をそこそこ見かけるし、COMPUTEX TAIPEI 2025の登録済み来場者向けに配るショッパーバッグも同社の提供……なのだが、実は同社はCOMPUTEX TAIPEI 2025にブースを構えていない。その代わり、台北市内のとあるホテルにプライベートな展示場を構えている。

 展示場の主役はSnapdragon Xシリーズを搭載するノートPCだが実は1台、x86アーキテクチャのPCがメインを張っている展示コーナーがある。なぜ、Qualcommは自らのライバルアーキテクチャのPCを展示しているのだろうか……?

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台北市内のいろいろな所に出されているSnapdragon Xシリーズの広告。「THE HEART OF PC(PCの心臓)」がキャッチフレーズだ

台北市内に設置されたQualcommのプライベート展示場には、Snapdragon Xシリーズを搭載するPCがずらりと並べられていた。日本ではあまり目立たないが、実はSnapdragon Xシリーズを搭載するミニデスクトップPCも発売されている

そのx86 PCは未発売の「Dell Pro Max Plus」

 Qualcommのプライベート展示場に展示されていたx86 PCの多くは、Snapdragon Xシリーズとの比較対象として展示されていた。Snapdragon Xシリーズは、スマホ向けSoC「Snapdragonシリーズ」から派生する形で生まれたこともあり、バッテリー駆動時間の長さバッテリー駆動でもピークパフォーマンスを発揮できる(≒スマホと同じようにバッテリー駆動を基準として設計されている)ことが強みという趣旨の展示が多かった。

 そんな中、比較対象ではなく“主役”として展示されていたx86 PCは、Dell Technogoliesの「Dell Pro Max Plus」のノートPCモデル(Dell Pro Max Plus laptop)だ。2025年に始まった新しいブランディングにもとづくと、「パフォーマンス重視(≒ワークステーション)の高付加価値を付与したモデル」ということになる。今回展示されていたのは2025年後半の発売を予定している構成の試作機だという。


Snapdragon Xシリーズの“引き立て役”として展示されるx86 PCが多い中、唯一主役を張っていたDell Pro Max Plus(試作機)

Qualcommの“外付け”NPUを搭載

 「なぜQualcommがx86 PCを展示したの?」と首をかしげてしまったのだが、すぐに謎が解けた。このDell Pro Max Plus laptopでは、カスタマイズ(CTO)オプションとしてQualcommの「Qualcomm AI 100 PC Interfence Card」を搭載できるのだ。

 その名の通り、Qualcomm AI 100 PC Interfence Cardは生成AIなどで使われる「推論(Interfence)演算」に特化したNPUを搭載したPCI Express接続のドーターカードだ。カード上には16コア構成のNPU「Qualcomm Cloud AI 100」が2基、毎秒最大270GBの帯域幅を備える専用メモリが64GB搭載されている(※1)。消費電力は80W未満で、ピーク時の処理パフォーマンスは450TOPS(毎秒450兆回)超と、Copilot+ PCにおける内蔵NPUの最小要件(40TOPS)の11倍以上を誇る。

(※1)NPU1基につき32GB

 Qualcommの説明によると、Qualcomm AI 100 PC Interfence Cardを使えば最大で1000億パラメーターのLLM(大規模言語モデル)をローカルで実行できるという。


Qualcomm AI 100 PC Interfence Card,Qualcomm AI 100 PC Interfence Cardの概要。Dell Pro Max Plus laptopは、本カードを搭載する初めての市販品となる

生成AIによる画像生成が一瞬で終わる

 Qualcommブースに展示されていたDell Pro Max Plus laptopでは、Qualcomm AI 100 PC Interfence Cardのパフォーマンスを画像生成AIでアピールしていた。

 プロンプトを入れると、笑ってしまうくらいに画像が“一瞬で”出てきてしまう。「あらかじめ用意していた映像じゃないの?」と思ったのだが、システムの負荷モニターを見るとNPUが“一瞬”使われている。Snapdragon Xシリーズを含めて、現状のCopilot+ PCとは一線を画する速度で生成AIの処理ができている。


筆者が日本人だと知った担当者が「未来の某ゲーム機」とプロンプトを打つと、何と0.67秒で結果を出力した

10秒タイムラインのパフォーマンスモニターを見ると、確かにNPUは使われている。しかも負荷はそれほどでもないらしく、山もほとんどない

「ぜひ適当にプロンプトを入れてみて下さい」というので「次世代のパーソナルコンピュータ」と入れて見たところ、画像が0.68秒で出力された。「どこが次世代なんだ?」というレベルで未来感が少ないような気もするが、1世代くらいで激変することもないだろうから、これはこれで適切なのかもしれない

現状ではx86 PCでの利用を想定 将来的には自社SoCでも利用可能に?

 Qualcommの担当者によると、現状のQualcomm AI 100 PC Interfence Cardはx86 PCでの稼働を前提に設計されているという。ただし、将来的には自社のSnapdragon Xシリーズを含むArmアーキテクチャのCPU/SoCを搭載するPCでも稼働できるようにすることは検討しているという。

 CPUやSoCの一部として搭載されるNPUでは、性能に一定の制限がかかる。特化型のNPUを“外付け”するソリューションは普及するのだろうか。Qualcomm AI 100 PC Interfence Cardの動向に注目したい。

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