レノボの小型PC「ThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragon」を試す ArmアーキテクチャのデスクトップPCはアリ?(2/2 ページ)
レノボ・ジャパンが、Snapdragon X搭載の小型PC「ThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragon」を発売した。今までノートPCばかりだったArmアーキテクチャのWindows PCだが、ようやくデスクトップの選択肢も出てきた格好だ。実際に試してみよう。
ThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragonのパフォーマンスをチェック!
外観チェックはこれくらいにして、評価機のパフォーマンスをチェックしてみよう。今回の評価機は32GBメモリ構成で、主なスペックは以下の通りとなる。
- SoC:Snapdragon X X1-26-100
- CPUコア:Qualcomm Oryon(8コア/最大約3GHz)
- GPUコア:Qualcomm Adreno(ピーク性能:1.7TFLOPS)
- NPUコア:Qualcomm Hexagon(ピーク性能:45TFLOPS)
- メモリ:32GB(LPDDR5X-8448)
- ストレージ:512GB SSD(PCI Express 4.0接続)
Snapdragon X X1-26-100は、1月6日に発表されたSnapdragon Xシリーズのエントリーモデルだ。従来アーキテクチャのPCと比べて高価だった「Copilot+ PC」の価格を押し下げるために投入された。
エントリーモデルの性能はどうなのか、非常に気になるだろう。いくつかのベンチマークテストでチェックしてみよう。
CINEBENCH 2024
3DレンダリングによってCPUの性能をテストできる「CINEBENCH 2024」でCPUとGPUの性能を測定した。このアプリは、Armネイティブでの動作にも対応している。
このテストでは、1つ上位のSoC「Snapdragon X Plus X1P-42-100」(※1)を搭載するノートPC「IdeaPad Slim 5x Gen 9」と比較しつつ見ていく。ただし、比較対象の搭載メモリは評価機の半分となる16GBなので、その点は割り引いて見てほしい。
(※1)基本的な構成はSnapdragon X X1-26-100と同一だが、CPUの最大クロックが3.2GHz(シングルコアのみ3.4GHz)に引き上げていた
結果は以下の通りだ。
- マルチコア
- ThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragon:681ポイント
- IdeaPad Slim 5x Gen 9:743ポイント
- シングルコア
- ThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragon:96ポイント
- IdeaPad Slim 5x Gen 9:107ポイント
Snapdragon X X1-26-100は最大約3GHz駆動で、「ブーストクロック」に対応していない。一方、Snapdragon X Plus X1P-42-100はマルチコア時の最大クロックが3.2GHzで、8コアのうち1基だけ最大3.4GHzで動作するブーストクロックにも対応している。
そのこともあり、Snapdragon X Plus X1P-42-100とスコアを比較するとマルチコアで約8%、シングルコアで約10%の低下が見受けられる。しかし、x86プラットフォーム(Intel/AMD製CPU)でのスコアも踏まえると、最廉価モデルの割にパフォーマンスが出る結果ともいえる。
DeepSeek R1
続いて、手元の検証機でLMStudioを使って「DeepSeek R1 0528 Qwen3 8B GGUF」を動かした上で、推論が必要となるプロンプト2種類をそれぞれ実行し、1秒当たりに何トークンが生成できるかチェックしてみた。併せて、推論実行中の消費電力も計測している。
こちらについては、M4チップ搭載の「Mac mini」のエントリーモデル(最小構成)とパフォーマンスを比較している。
入力したしたプロンプトは以下の通りとなる。
【プロンプトA】
あなたは架空の国の首相です。経済成長率が2%で停滞し、失業率が5%に上昇しています。財政赤字も拡大傾向です。経済成長を加速し、失業率を下げ、財政健全化を同時に達成するための政策パッケージを3つ提案し、それぞれの政策がどのように相互作用するか、メリット・デメリットも含めて説明してください。
【プロンプトB】ある都市で新型の感染症が流行し始めています。感染症の基本再生産数(R0)は2.5で、人口は100万人、初期感染者は100人です。ワクチンの接種率が50%の場合、感染拡大を抑えるためには追加でどれだけの人がワクチンを接種する必要がありますか?また、感染拡大を防ぐための他の公衆衛生対策を3つ挙げ、それぞれの効果と課題を論理的に説明してください。
結果は以下の通りだ。
- ThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragon
- プロンプトA:毎秒11.53トークン
- プロンプトB:毎秒13.57トークン
- M4 Mac mini
- プロンプトA:毎秒21.56トークン
- プロンプトB:毎秒21.92トークン
ご覧の通り、結果はM4 Mac miniに軍配が上がる。これはM4チップがSoC上にメモリを実装する「ユニファイドメモリ」アーキテクチャを取っており、CPU/NPU/GPUの各コアとのレイテンシー(遅延)を極小化できるという構造的優位性を発揮できるためだ。
その点、ThinkCentre neo 50q Tiny SnapdragonのスコアはM4 Mac miniの約半分ほどのパフォーマンスではあるものの、実用に耐えうるスピードは確保できている。エミュレーションを介してではあるものの、過去のWindowsのソフトウェア資産をある程度活用できることを加味すれば、十分によい選択肢にはなるだろう。
消費電力はどう?
「LMStudio」などを始めとする生成AIをオンデバイスで快適に利用するためには、従来は高性能な独立GPUを用意する必要があった。そうすると消費電力量はどうしても多くなり、電気代も高くなる傾向にあった。
Snapdragon Xを始めとするArmアーキテクチャのCPUコアは、x86アーキテクチャと比べて省電力性能が高いとされる。Snapdragon Xシリーズの場合、GPUコアやNPUコアも省電力性に配慮した設計という。
とは聞くものの、生成AIをフルロードで使うとどれほどの消費電力となるか気になる。そこで今回はラトックシステム製のBluetoothワットチェッカー「RS-BTWATTCH2」を利用して、アイドル時とフルロード時の消費電力を計測してみた。結果は以下の通りだ。
- 平均:11.8W
- アイドル時平均:7.2W
- LMStudio実行時平均:38.4W
アイドル時からLMStudioの実行が終わるまで(約8分間)消費電力値の平均は約11.8W、アイドル時は平均で約7.2W、そしてLMStudio実行中のフルロードの状態での平均は約38.4Wとなった。
「ArmアーキテクチャのCPU(SoC)を備えるマシン」だと考えると、消費電力は意外と高い。しかし「LMStudioをフル稼働しているマシン」として捉えると、消費電力はかなり低い。“最大”消費電力でも約44.4Wだったので、外部GPUをバリバリに使うデスクトップPCと比べると、かなりワットパフォーマンスに優れた選択肢だといえる。
「Arm版Windows 11」普及に向けた環境構築がようやく進みそう
待望のデスクトップ「Copilot+ PC」は、Arm版Windowsのエコシステム拡大に寄与するか――そのような観点からThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragonをチェックしてきたが、筆者は本機に大きな期待を抱くことができた。
Arm版Windows 11を搭載する商用デバイスは、今までノートPCが主流だった。デスクトップモデルという観点では、Qualcomm自身がSnapdragon X Elite搭載の開発者キットを用意したものの、ごくごく少数が出荷されただけで、事実上の発売中止となってしまったようだ。さすがに筆者も、一度はArm版Windowsを見限ろうかとも考えた。
しかし、最近はSnapdragon Xシリーズを搭載するPCの実売価格が下がってきた。また、エントリーSoCとしてSnapdragon Xの登場し、さらに大手ソフトウェアベンダーがArm版Windowsへのネイティブ対応をに対応したアプリをリリースし始めたことで、状況は好転してきている。
開発機としても活用しやすいThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragonの登場は、Arm版Windowsのエコシステム拡大に向けた“大きな一歩”だと筆者は考えている。今後どのように発展していくのか、楽しみだ。
皆さんもThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragonを手元に迎え、Arm版Windowsのエコシステムを拡大する開発者として、目指してみてはいかがだろうか。
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