「スマホの中身は見ないで」――デジタル遺品解析のプロが生前整理サービスを始めた“切実な理由”:古田雄介のデステック探訪(1/2 ページ)
デジタル遺品の解析やサルベージサービスを提供しているGOODREIが、デジタル生前整理サービス「デジ・タクセル」の提供を始めた。デジタルの持ち物を扱うにしても、死後の解析と生前の備えは全く異なる。それでも始めた理由は?
「特定の相手とのLINEだけ」というお願いも
東京都に本拠地を置くITベンチャーのGOODREIは、2026年5月から「デジ・タクセル」というサービスの提供を始めている。
相続の専門家の下で、自分が所持しているスマートフォンやPC、SNSアカウントやサブスク契約などを整理し、死後に遺族に託すものと伝えずに消去するものに分ける。その分類に基づいて、自分が死んだ後にデジタルの持ち物の行く末が意図通りになるように導く。いわば、死後事務委任の発想をデジタル領域に広げたサービスといえる。
強みは、デジタルのさまざまな持ち物についてかなり細やかなお願いができるところにある。死後事務委任契約で指定できるデジタル分野の処理は、「スマホの中身を消して電話番号を解約する」や「SNSのアカウントは消去する」といったところが一般的だ。
デジ・タクセルでは「スマホのブラウザの閲覧履歴をどう扱うか」や「特定の相手とのLINEだけをどう整理するか」といった細かな指定を行える。ネット銀行の預金や暗号資産などの金融資産も個別に託す相手を決めることができ、メッセージを添えることも可能だ。
プランは、今のところ買い切り型の1パックのみだ。費用は33万円で、契約時に支払えばその後に指定を変更しても更新料はかからず、定額費用もない。
同社は2023年6月からデジタル遺品解析サービス「デジタル資産バトン」を提供しており、スマホやPCのパスワード解析、故障したHDDレコーダーからのデータサルベージ、暗号資産の復元などの業務を手がけてきた。
デジタルの持ち物を取り扱うのは同じだが、これまでのサービスは事後のトラブルを解決するものだ。それに対して、デジ・タクセルは生きているうちから万が一を想定する事前の備えとなる。時間軸を前方にシフトしたこのサービスを始めた背景にはどんな考えがあるのか。同社代表の末吉謙佑さんにインタビューした。
パスワードを託すなら、隠したいものを隠せることが重要
端緒は「デジタル資産バトン」の依頼者とのやりとりだ。
依頼者の多くはデジタル遺品を受け継いだ遺族となるが、見積もりや経過報告の雑談の中で、冗談交じりに「でも自分のスマホは開けない(中身は見ない)でね」と言われることがよくあるという。そこに本音を感じた。
「故人のスマホを調べる重要性が身に染みている方でも、やっぱりスマホの中身は見てほしくないんです。見せたくない情報も一緒に詰まっていますから。それなら、見せたくないものは見せないようにするサービスがあればいいんじゃないかと考えました」(末吉さん、以下同)
デジタル遺品解析は、見えなくなっているものを見える化する。そのとき、故人が隠したかったと思われる情報が見えてしまうこともある。それがたびたび発生する現場だからこそ、墓場まで持っていくことへの真剣なニーズを感じた。
特にニーズがあると見据えるのは働き盛りの40代から60代だ。「バトン」の依頼者は故人の子だけでなく配偶者も多いため、平均は60代後半~70代前半となる。そこより少し若い。
加えて、デジタル遺品解析の難易度が年々上がっているという事情もある。
「やはりパスワード解析がどんどん難しくなっていまして、スマホのロックを解除するのが長期化しやすくなっています。相続放棄や限定承認するなら、没後3カ月以内に家庭裁判所に書類を提出する必要がありますし、相続税の申告も被相続人(故人)が亡くなったことを知った日から10カ月以内です。このスケジュールに合わせるのは、現実的に難しいケースが増えているのは確かです」
スマホのバージョンが上がれば、ハードウェアのセキュリティレベルが上昇する。ソフト面でも、電源の再起動や複数回にわたるパスワードの入力ミス、盗難防止等で遠隔ロックがなされた場合などは解析の難易度が上がっていく。
そうした技術の進化が止む気配はないそうだ。本人が生前にパスワードを託してくれたら、この高いハードルを気にしなくてよくなる。そのために隠したいものが隠せる安心感が必要なら、そこを含めて生前整理サービスを提供するのが合理的だと考えたわけだ。
死後のことを約束するサービスにおいて、この「安心感」こそが重要であり、高い壁でもある。
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