世界中で販売されているThinkPadは、レノボ・ジャパンの大和研究所(横浜市西区)が主導して開発されている。グローバルモデルは数あれど、開発者(研究者)自らが“日本語で”説明できるのはThinkPadの強みといえる。
そのこともあってか、参加者は目を輝かせながら開発者のプレゼンテーションを聞いていた。果たして、どのようなアピールがあったのだろうか?
大和研究所で機構技術と機構サブシステムの研究/開発を担当している山内武仁氏は、ThinkPadの「薄型化」と「狭額縁設計」にまつわる工夫を紹介した。
折り曲げ可能な有機ELディスプレイを備える「ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1」は、初代の「ThinkPad X1 Fold」と比べると、折りたたんだ際の厚さを約10.4mm削減している(約27.8mm→約17.4mm)。この薄型化の秘密はディスプレイの“折り曲げ方”にあるという。
初代X1 Foldでは、単純に1カ所(≒折り曲げ部)のみを曲げる「U字曲げ」を採用していたのに対し、X1 Fold 16 Gen 1では合計3カ所を曲げる「しずく型曲げ」を採用している。しずく型曲げは「谷折り+山折り」のコンボで2カ所、谷折りで1カ所を折り曲げているのだが、コンボの折り曲げ箇所は、対策を施さないとディスプレイの「層間剥離(そうかんはくり)」が起こりやすくなる。
そこで層間剥離への対策として、X1 Fold 16 Gen 1向けに新しい折り曲げヒンジを開発し、しずく型にディスプレイを折り曲げられるようにした。このヒンジは合計236個もの部品から構成されており、ディスプレイへの余計な負荷をなくすことで、層間剥離が起こらないようにしている。
Z世代をメインターゲットとする環境配慮型のノートPC「ThinkPad Z13 Gen 2」では、ブロンズモデルの天板に天然の亜麻繊維を採用することになったのだが、天然ゆえに生じる苦労もあったという。
亜麻繊維のシートを天板に貼り付ける――何気ない加工のように思えるのだが、天板が少し丸みを帯びた形状だったこともあり、天板とシートの間に気泡がどうしても入り込んでしまったのだという。「入った気泡を抜けばいいのでは?」と思うかもしれないが、当初の設計では気泡が一度でも入ると抜けなくなってしまっていたという。
そこで接着用のシートにあらかじめ穴を開けた上で、貼り付け圧力の均一化を行ったところ、きれいな天板を実現できたという。
続いて登壇したAdvanced Performance Development(先進パフォーマンス開発)担当の田上裕太氏は、ThinkPadの電力設計に関する説明を行った。
PCを使うときに誰もが気にするであろうバッテリー駆動時間は、基本的にバッテリーの容量と、システム消費電力を割ることで算出できる。
しかし、公称のバッテリー駆動時間は、多くの場合において実使用時間との乖離(かいり)が生じてしまう。田上氏も「なぜ大差が出るのか、という声をよくいただく」と打ち明ける。
そこで田上氏は、ノートPCのバッテリー駆動時間の“計測方法”について解説する。公称のバッテリー駆動時間は、一定のルールに基づいた「ベンチマークテスト」の結果から算出される。内容にもよるが、テストの多くはユーザーの利用シーンよりも低負荷な条件であることが多いため、どうしても「公称値が極端に長くなりがち」なのだという。
実際のバッテリー駆動時間はユーザーの使い方などによって異なるが、田上氏によると「当社が海外向けモデルの公称値計測で使っている『MobileMark 25』による駆動時間に0.7倍すると、一応の目安になる」とのことだ。
大和研究所では、国内/海外向けに標準的なテストを行っている他、「ビッグデータの情報を用いて、ユーザーが実際にどのようなシナリオで使うのかを解析」した上で、それを踏まえた自動テストツールを使って消費電力の最適化を図っているという。
熱対策も、ノートPCの設計では欠かせない問題の1つだ。今回は大きく「Intel/AMDモデル」と「Qualcommモデル」に分けて解説された。
Intel/AMDモデルにおける熱対策の説明を担当した七種勇樹氏は、熱対策では「温度/騒音/消費電力の3要素の設計が大事」だと語る。以前のThinkPadではいかに性能(≒ベンチマークスコア)を引き出すかを最重視していたが、昨今は実際に使われるアプリが変わってきたことや、バッテリーの高速充電が当たり前のように実装されてきたことから、これら3要素のバランスを取る必要が出てきたのだ。
イベントに参加していたユーザーの1人から「モダンスタンバイの状態でThinkPad(ノートPC)をカバンの中に入れておき、会社から帰宅した後にカバンを開けると熱を感じる」との困りごとを聞いた七種氏は、ユーザーの利用シーンや環境に応じた熱の発生パターンの解析が重要だとも語る。
例えば、1日のシナリオ(家を出てオフィスで仕事し、帰宅後にゲームをするまで)を立てて、その過程で熱が出ていないか、ファンがうるさくないかなどをチェックする。実際のシナリオに合わせた設計をするだけでなく、充電したときの表面温度、熱分布の改善を図るなどして、効率的な冷却につなげることにも注力しているそうだ。
一方、QualcommモデルもIntel/AMDモデルとは違う意味での苦労があったという。
Qualcommモデルが搭載するSoC「Snapdragonシリーズ」は、スマートフォン向けSoCから派生する形で登場した。熱設計を解説した渡邊諒太氏によると、Snapdragonシリーズは消費電力がIntel/AMD製CPUよりも低いため、容易にファンレス設計を採用できるという。しかし、Intel/AMD製CPUとは異なり、利用シーンに合わせたパフォーマンスチューニングをすることが困難という課題を抱えていたそうだ。
そこで大和研究所は、Qualcommとコミュニケーションを取りつつ、Qualcommモデル(≒ThinkPad X13s Gen 1)でも、Intel/AMDモデルと同等のパフォーマンスチューニングを行えるように制御フローの再構築や自社開発のデバイスドライバの改善を進めた。結果として、Qualcommモデルでもより高いピークパフォーマンスを引き出せるようになったという。
ここまでの話でもだいぶ“ディープ”に思えるが、大和魂の会はここで終わらない。メディア向け説明会でもあまり行われない、UEFI(BIOS)やオプション周辺機器に関する技術説明も行われた。
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