ThinkPadには開発者の“魂”が注入されている! レノボの濃すぎるユーザーイベント「大和魂の会 2023」潜入レポート(2/4 ページ)

» 2023年12月15日 10時00分 公開
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ThinkPad開発者が“こだわり”をアピール

 世界中で販売されているThinkPadは、レノボ・ジャパンの大和研究所(横浜市西区)が主導して開発されている。グローバルモデルは数あれど、開発者(研究者)自らが“日本語で”説明できるのはThinkPadの強みといえる。

 そのこともあってか、参加者は目を輝かせながら開発者のプレゼンテーションを聞いていた。果たして、どのようなアピールがあったのだろうか?

フォルダブルPCの「ヒンジ」やZ世代向けノートPCの「天然素材天板」の舞台裏

山内武仁氏 ThinkPadの機構(ヒンジやボディー設計)や、その周辺部の研究/開発に従事している山内武仁氏

 大和研究所で機構技術と機構サブシステムの研究/開発を担当している山内武仁氏は、ThinkPadの「薄型化」と「狭額縁設計」にまつわる工夫を紹介した。

 折り曲げ可能な有機ELディスプレイを備える「ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1」は、初代の「ThinkPad X1 Fold」と比べると、折りたたんだ際の厚さを約10.4mm削減している(約27.8mm→約17.4mm)。この薄型化の秘密はディスプレイの“折り曲げ方”にあるという。

 初代X1 Foldでは、単純に1カ所(≒折り曲げ部)のみを曲げる「U字曲げ」を採用していたのに対し、X1 Fold 16 Gen 1では合計3カ所を曲げる「しずく型曲げ」を採用している。しずく型曲げは「谷折り+山折り」のコンボで2カ所、谷折りで1カ所を折り曲げているのだが、コンボの折り曲げ箇所は、対策を施さないとディスプレイの「層間剥離(そうかんはくり)」が起こりやすくなる

 そこで層間剥離への対策として、X1 Fold 16 Gen 1向けに新しい折り曲げヒンジを開発し、しずく型にディスプレイを折り曲げられるようにした。このヒンジは合計236個もの部品から構成されており、ディスプレイへの余計な負荷をなくすことで、層間剥離が起こらないようにしている。

折り曲げ方 ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1では、有機ELディスプレイの折り曲げ方を変えて薄型化を進めることになったのだが、対策をせずに折り曲げ方を変えると層間剥離が起こりやすくなるという問題が生じた
対策ヒンジ 層間剥離対策として、合計236個のパーツからなるヒンジを新規に開発した
しずく型 新開発のヒンジによって、ディスプレイに余計な負荷を掛けることなく、きれいなしずく型の折り曲げを実現できた
X1 Fold 16 先代比で薄型化を果たしたThinkPad X1 Fold 16 Gen 1。この薄さは、主に新しいヒンジによってもたらされたものだ

 Z世代をメインターゲットとする環境配慮型のノートPC「ThinkPad Z13 Gen 2」では、ブロンズモデルの天板に天然の亜麻繊維を採用することになったのだが、天然ゆえに生じる苦労もあったという。

 亜麻繊維のシートを天板に貼り付ける――何気ない加工のように思えるのだが、天板が少し丸みを帯びた形状だったこともあり、天板とシートの間に気泡がどうしても入り込んでしまったのだという。「入った気泡を抜けばいいのでは?」と思うかもしれないが、当初の設計では気泡が一度でも入ると抜けなくなってしまっていたという。

 そこで接着用のシートにあらかじめ穴を開けた上で、貼り付け圧力の均一化を行ったところ、きれいな天板を実現できたという。

天板 ThinkPad Z13 Gen 2のブロンズモデルでは、天然の亜麻繊維を天板素材として採用することになったのだが……
気泡 当初の設計では気泡が入ってしまうと全く抜けないという問題が生じた。そこで貼り付けに利用するシートに穴を開けるなど工夫をした上で、貼り付け時に掛ける圧力を均一化したところ、きれいに貼り付けられるようになったという
天板 パッと見ではとてもきれいな亜麻繊維の天板だが、その実現には涙ぐましい努力が隠されていた。なお、ThinkPad Z13 Gen 2の国内での実機展示は今回が“初”だったそうだ

バッテリー駆動時間をより“リアル”にする舞台裏

田上氏 消費電力とパフォーマンスのバランスを高いレベルで取るための研究/開発に従事する田上裕太氏

 続いて登壇したAdvanced Performance Development(先進パフォーマンス開発)担当の田上裕太氏は、ThinkPadの電力設計に関する説明を行った。

 PCを使うときに誰もが気にするであろうバッテリー駆動時間は、基本的にバッテリーの容量と、システム消費電力を割ることで算出できる。

 しかし、公称のバッテリー駆動時間は、多くの場合において実使用時間との乖離(かいり)が生じてしまう。田上氏も「なぜ大差が出るのか、という声をよくいただく」と打ち明ける。

 そこで田上氏は、ノートPCのバッテリー駆動時間の“計測方法”について解説する。公称のバッテリー駆動時間は、一定のルールに基づいた「ベンチマークテスト」の結果から算出される。内容にもよるが、テストの多くはユーザーの利用シーンよりも低負荷な条件であることが多いため、どうしても「公称値が極端に長くなりがち」なのだという。

 実際のバッテリー駆動時間はユーザーの使い方などによって異なるが、田上氏によると「当社が海外向けモデルの公称値計測で使っている『MobileMark 25』による駆動時間に0.7倍すると、一応の目安になる」とのことだ。

バッテリー駆動時間 レノボでは国内向けには「JEITAバッテリ動作時間測定法(Ver.2.0)」、海外向けに「MobileMark 25」で公称のバッテリー駆動時間を計測しているが、いずれも実際のPCの使われ方よりも負荷が“軽い”面があるため、どうしても実利用時間がより短くなりやすいのだという(今後のモデルでは、国内向けは「JEITAバッテリ動作時間測定法(Ver.3.0)」との併記となる)

 大和研究所では、国内/海外向けに標準的なテストを行っている他、「ビッグデータの情報を用いて、ユーザーが実際にどのようなシナリオで使うのかを解析」した上で、それを踏まえた自動テストツールを使って消費電力の最適化を図っているという。

テスト 大和研究所では、JEITAが定めたテストやMobileMark 25によるテストの他、MicrosoftやCPUベンダー(IntelとAMD)からのデータなどを掛け合わせた独自の消費電力最適化ツールによるテストも行っているという。最適化ツールの効果はてきめんで、「Microsoft Teams」や「Netflix」のアプリの利用時におけるCPUの消費電力を大きく削減することに成功したという

一筋縄では行かない「熱対策」

七種さん Intel/AMDプラットフォームにおける熱対策を語る七種勇樹氏

 熱対策も、ノートPCの設計では欠かせない問題の1つだ。今回は大きく「Intel/AMDモデル」と「Qualcommモデル」に分けて解説された。

 Intel/AMDモデルにおける熱対策の説明を担当した七種勇樹氏は、熱対策では「温度/騒音/消費電力の3要素の設計が大事」だと語る。以前のThinkPadではいかに性能(≒ベンチマークスコア)を引き出すかを最重視していたが、昨今は実際に使われるアプリが変わってきたことや、バッテリーの高速充電が当たり前のように実装されてきたことから、これら3要素のバランスを取る必要が出てきたのだ。

 イベントに参加していたユーザーの1人から「モダンスタンバイの状態でThinkPad(ノートPC)をカバンの中に入れておき、会社から帰宅した後にカバンを開けると熱を感じる」との困りごとを聞いた七種氏は、ユーザーの利用シーンや環境に応じた熱の発生パターンの解析が重要だとも語る。

 例えば、1日のシナリオ(家を出てオフィスで仕事し、帰宅後にゲームをするまで)を立てて、その過程で熱が出ていないか、ファンがうるさくないかなどをチェックする。実際のシナリオに合わせた設計をするだけでなく、充電したときの表面温度、熱分布の改善を図るなどして、効率的な冷却につなげることにも注力しているそうだ。

昨今の様子 温度/騒音/消費電力の3要素を重視した設計を心掛けている七種氏だが、昨今は「なんとなく」というフィードバックが多くて困っているのだという
パフォーマンス重視 以前は「いかにベンチマークスコアを引き出すか」という開発をしてきたが、これからは使い方の多様化もあり、実際にどんな使われ方をするのか考えて設計をする必要があるという
使われ方 最近は熱設計をする際にユーザー調査を取り入れているという。熱源を寄せすぎるのも良くないことが分かってきたので、昨今のThinkPadでは発熱を極力左右に散らすように設計を進めているという
渡邊氏 Qualcommプラットフォームに対する熱対策を語る渡邊諒太氏

 一方、QualcommモデルもIntel/AMDモデルとは違う意味での苦労があったという。

 Qualcommモデルが搭載するSoC「Snapdragonシリーズ」は、スマートフォン向けSoCから派生する形で登場した。熱設計を解説した渡邊諒太氏によると、Snapdragonシリーズは消費電力がIntel/AMD製CPUよりも低いため、容易にファンレス設計を採用できるという。しかし、Intel/AMD製CPUとは異なり、利用シーンに合わせたパフォーマンスチューニングをすることが困難という課題を抱えていたそうだ。

Qualcomm 従来のThinkPadで扱ってきたIntel/AMD製CPUとは異なり、Qualcomm製のSoCは“そのまま”だと利用シーンに合わせたパフォーマンスチューニングができないという問題があった

 そこで大和研究所は、Qualcommとコミュニケーションを取りつつ、Qualcommモデル(≒ThinkPad X13s Gen 1)でも、Intel/AMDモデルと同等のパフォーマンスチューニングを行えるように制御フローの再構築や自社開発のデバイスドライバの改善を進めた。結果として、Qualcommモデルでもより高いピークパフォーマンスを引き出せるようになったという。

バランス良く SoCのポテンシャルを引き出すべく、Qualcommとも密に連絡を取り合って最適化を進めたという
結果 プラットフォームを問わず、性能をしっかりと引き出すことが大和研究所のポリシー。今回の開発で、IntelやAMDだけでなくQualcommのプラットフォームでもバッチリ性能を引き出せるようになったという

 ここまでの話でもだいぶ“ディープ”に思えるが、大和魂の会はここで終わらない。メディア向け説明会でもあまり行われない、UEFI(BIOS)やオプション周辺機器に関する技術説明も行われた。

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提供:レノボ・ジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia PC USER 編集部/掲載内容有効期限:2023年12月21日