Vista第1世代のテレパソは買いか!?:元麻布春男のWatchTower(2/2 ページ)
ようやくVistaを搭載した第1世代のPCが出そろってきたが、日本独自で進化を遂げてきたデジタル放送などのHDコンテンツ視聴環境と、新UIのWindows Aeroとの関係を軸に現状を見ていく。
大半の国内PCベンダーはオーバーレイ方式を選択
では現在のWindows VistaプリインストールPCは、どうやってHD動画を扱っているのか。答えは、Windows XPとほぼ同じやり方である。Windows XPでは、動画の再生にはハードウェアオーバーレイと呼ばれる手法が使われていた。オーバーレイは、グラフィックスチップに直接動画データを流し込み、グラフィックスチップが動画とWindowsデスクトップを合成する仕組みだ。つまり動画表示エリアは、OSの管轄外であり、デスクトップに開いた穴も同然なのである。
オーバーレイ方式は、CPU負荷が少ないことなどから、これまで広く使われてきたが、コンテンツ保護がプロプライエタリなコピープロテクション技術に依存する、仮想化を含むグラフィックスチップの将来的な発展(汎用シェーダー化)の恩恵を受けられない、といった問題が出てきた。こうした点から、マイクロソフトはWindows Vistaでは、オーバーレイ方式の利用を推奨せず、DirectX Video Acceleration(DXVA)と呼ばれるWDDM/Aeroとの親和性が高い方式で動画を再生するよう求めているわけだが、上で述べたように完全なセキュア化はできていない。
問題は、わが国で販売するWindows VistaプリインストールPCだ。オーバーレイが推奨されないのは分かったが、DXVAではコンテンツホルダーが要求するセキュリティが保てない。かといって、WDDM 2.1が利用可能になるまで、地デジ対応PCのリリースを見送るわけにもいかない。それではWindows XPをプリインストールした旧モデルより、機能が劣るPCになってしまう。
このような状況で、多くのベンダーはオーバーレイ方式による対応を選んだ。その副作用としてオーバーレイを利用するアプリケーションを実行すると、Aeroがオフになってしまう。NECは独自に開発したアプリケーションにより、オーバーレイとAeroを両立させることに成功しているが、本来のAeroと異なり、ビデオコンテンツに半透明効果が得られないのはやむを得ないところだろう。
真にセキュアなHDコンテンツの再生環境はいつ訪れるのか
問題はWDDM 2.1によるセキュアなビデオ環境はいつ実現するのか、ということだ。残念ながら、この件に関してマイクロソフトからの正式な表明はない。間違いないのは2007年中は無理で、確実に2008年に持ち越される、ということだ。標準化、ハードウェアのリリース、ドライバの整備、アプリケーションの提供というサイクルを考えると、2008年も早期はかなり難しいだろう。
現実問題として、WDDM 1.0やWDDM 2.0に準拠した現行のWindows Vista対応ディスプレイドライバでさえ完成度が高いと言えないことを考えれば、実用になるのは2008年の後半、あるいはさらに遅れるかもしれない。Windows側の問題が解消しても、わが国の地上デジタル放送におけるコピーワンス制限の見直し論議など、HD動画コンテンツについては、流動的な要素が多い。リリース時期がはっきりしていたWindows Vistaと異なり、WDDM 2.1対応については買い控えているといつまでたっても買えない、ということになるのかもしれない。
元麻布春男氏のプロフィール
フリーライター。IBM PC/AT互換機以前からPCの世界に入り、さまざまなメディアでPCに関する評論やレビュー、コラムなどを執筆。とくに技術面での造詣が深く、独特の切り口による分析記事は人気が高い。バックナンバーはこちら
関連記事
- 2007年春 Vista搭載PC特集
マイクロソフトは1月30日、Windows Vistaの店頭販売を開始した。メーカー各社からVista搭載PCも同時公開され、いよいよ次世代Windowsが離陸する。 - 結局“バブル”だったのか?――Ultimate α、並ばずに買えました
Windows Vistaの発売が始まった。ユーザーにとってはアキバの深夜販売史上でも類を見ない“美味しい”イベントとなったが、果たしてショップの採算は? - 完成したWindows Vistaをマイクロソフトが披露
マイクロソフトはWindows Vistaの製品説明会を開催。完成したVista日本語版を使用し、主要な機能のデモを行った。 - Windows Vista対応支援サービスと企業向け優待キャンペーン
マイクロソフトは、開発者やユーザーに向けたWindows Vistaの対応支援サービスや企業向けの優待キャンペーンを発表した。 - マイクロソフトがVistaのライセンス条件を開示
マイクロソフトが、日本におけるWindows Vistaのライセンス情報などについて説明会を実施した。 - マイクロソフト、VistaとOfficeの“今なら”安心アップグレードキャンペーンの概要を説明
マイクロソフトが、Windows VistaとOffice 2007の参考価格とアップグレードプログラムの概要を発表した。 - マイクロソフトの基調講演で感じた微妙な距離
WPC TOKYO 2006で行われたマイクロソフトの基調講演の模様をお伝えする。 - VistaのアクティベーションはXPを踏襲──マイクロソフトがVistaとOffice 2007の価格を発表
マイクロソフトが、日本におけるWindows Vistaとthe 2007 Office systemの参考価格やアップグレードプログラムの開始について発表会を行った。 - 第9回 Vistaでオーディオデバイスはどうなる?
Windows Vistaでのオーディオデバイスの扱いはどうなるのだろうか。 - 第8回 Vistaにおけるデバイスドライバのゆくえ
Windows Vistaにおけるデバイスドライバの扱いをチェックしよう。 - 第7回 Windows Vistaの最新βをチェックする
“July CTP”とも呼ばれるビルド5472の最新Vistaを見ていく。 - 第6回 AMDのATI買収劇が意味するもの
“電撃的”に発表された米AMDによる加ATI Technologies買収劇の意味を考える。 - 第5回 Windows Vistaのアップグレードポリシーを考える
Windows Vistaのアップグレードポリシーをチェックしよう。 - 第4回 Vistaのユーザーアカウント制御を考える
Windows Vistaのユーザーアカウント制御はどのように変わるのだろうか。 - 第3回 内蔵グラフィックスでWindows Aeroは動くのか!?
統合チップセットのグラフィックスで“Windows Aero”を動かしてみた。 - 第2回 Windows Aeroの謎に迫る
NVIDIA製グラフィックスカードを使って“Windows Aero”の謎に肉薄する。 - 第1回 果たしてWindows Vistaはテイクオフできるのか?
PCウオッチャーの元麻布春男氏が、Windows Vistaの現状を斬る。 - PCの進化はノートPCが切り開く──ムーリー・エデン氏基調講演
WPC TOKYO 2006の開幕にあわせて、インテル副社長兼モバイル・プラットフォーム事業部長のムーリー・エデン氏が基調講演を行った。 - マイクロソフトの最新Bluetoothマウスを試す
マイクロソフトから発表された2つのBluetooth対応レーザーマウス。その使い勝手はどうなのか。また、Bluetooth内蔵ノートPCで使うことはできるのだろうか。 - もう1つの“革命”という名の小型マウス
元麻布春男氏が最新PC事情を分析する本連載。今回は“革命”の名を与えられたもう1つのロジクール製マウスを見ていく。ノートPC用だからと言って侮ってはいけない。 - “革命”という名のマウス
“革命”の名を与えられたロジクールマウス。その画期的なフィーチャーは、これまでの操作性を一変させるかもしれない。 - インテルのアイルランドFabを“非”公式に訪れてみた
今回はスペシャル版と題して、アイルランドにあるインテルのFab 24に“ひっそり”と訪問した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.