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理想と現実のギャップにあえいだ黎明期のMac OS林信行の「Leopard」に続く道 第1回(2/2 ページ)

PC業界はWindows Vistaの話で持ちきりだが、今年はMac OS Xも「v10.5」――つまり5度めメジャーアップデートを迎える。“Leopard”と呼ばれるMac最新OSがリリースを目前に控えているのだ。この連載ではLeopardの全貌をさまざまな角度から解き明かしていく。

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サードパーティが整備した日本語環境

 デビュー当初のMac OSは、英語仕様だった。もちろん、Apple社内にはMacを国際的に成功させようと奮闘する社員が何人かいた。しかし、Macの日本語化に熱心だったのはむしろApple社外にいた人々だった。

エーアンドエー社「MAC日本語OS」と「JAM」。資料協力:「Macテクノロジー研究所

 最も熱心だったのはMacの登場にあわせて誕生した日本企業、エルゴソフトだ。同社は1984年5月に英語版Mac OS上で動く「LINGO」という日本語ワープロをデモし、9月にこれを「EgWord 1.0」として出荷する。また、1985年にはエーアンドエーが、独自に開発した「MAC日本語OS」の販売を始める(これはやがて「JAM」というソフトになり、後述の「SweetJAM」に発展する)。

 続いてAppleと新たに代理店契約を結んだキヤノンが、Macに漢字ROMを搭載したキヤノン仕様のMac「DynaMac」を発表する。当時のPCはメモリが数百Kバイト程度しかなかった。このためデータ量が巨大となる日本語文字のフォントデータは、日本製PCでもROMとして搭載するのが当たり前だった。

 実はこれと並行して、Apple日本法人でもジェームス比嘉氏(当時の社長、現在もスティーブ・ジョブズの参謀の1人)が中心となって「漢字Talk」と呼ばれる日本語版Mac OSの開発を進めた。そして漢字Talkは1986年にようやく完成し出荷されるが、Macの操作画面に対して不釣り合いに大きな文字や、当時の国産PCと比べてかなり効率の低い日本語変換などから評判は悪かった。

「漢字Talk1.0」。資料協力:「Macテクノロジー研究所

 しかしAppleはその後も漢字Talkの洗練を重ね、1989年登場の「漢字Talk 6.0」(英語版System 6の日本語版)の時代には、漢字の変換効率は低いものの、それでもかなり日本語が使える状態になっていた。

 ただし、当時は英語版Mac OSがリリースされてから、それに対応した日本語版が登場するまでのタイムラグが大きかった。またサードパーティ製のアプリケーションも、別途漢字Talk用にローカライズする必要があったため、日本のMacユーザーは数バージョン古いソフトを使うハメになることが多かった。これは先進性や革新性に惹かれてMacを選んだ新しもの好きの人たちにとってはかなりつらい試練だ。

 そこで登場したのが、エーアンドエーの「SweetJAM」である。これは英語版アプリケーションで日本語を利用可能にするソフトで、例えばまだ日本語化されていないMicrosoft Wordの最新英語版の機能をフルに活用しながら、そのソフトで本来入力できなかったはずの日本語の入力を実現していた(なお、当時の日本語環境の話題については、「Macテクノロジー研究所」:久しぶりの「漢字Talk1.0」は面白い!が詳しい)。

 このように1980年代、System 1〜6までの時代のMac OSは、サードパーティの助けを借りてなんとかやっと日本語が使えるというOSだった。こうした状況は、1990年代に入ると激変するが、それについてはまた次回に紹介したい。

 最後にこの時代のMac OSの特徴をもう1つだけ付け加えると、なんとこの時代のMac OSは無料で配られていた。この点もMacとPCの大きな違いと言えるだろう。

Mac OSは無料だった

 かつてMac OSは無料だった。Macはハードとソフトが渾然一体なので、ソフトを無料で配ってもハードの売り上げで回収できるという発想だったのだ。当時はインターネットがなかったので、Macを扱っているPCショップやMacを使っている人たちのユーザーグループに、空きフロッピーディスクを持っていくと無料(あるいはわずかな手間賃)でコピーしてくれた。

 Macは、このOS無料配付を通して、早い時期から強いユーザーコミュニティーを築いて来た。パソコン通信をしていない人たちは、Macショップやユーザーグループのミーティングを溜まり場にして、シェアウェアやフリーウェアをコピーしていた。

 もっとも、これは米国の話。日本では少し事情が違う。当時、国内で販売されていたMacは、米国の価格の倍近くの値段になっていることもあり非常に高価だった。このため、ユーザーの中には海外で売られているMacを使っている人も多かった。並行輸入したMacに日本語版Mac OSをインストールしたほうがはるかに安くすむのだ。そこでAppleは日本語版Mac OSに7万円近い価格をつけて、並行輸入を防いでいた。

 現在のMacと、なんという大きな違いだろう――今日、Macは世界中のどこの国で買っても大した価格の差はなく、どこの国で買ったMacでもほとんどの言語を利用できる。先月末にオープンしたイタリア初のApple Store(Apple Store Rome Est)で買って来たMacでも、電源をいれてすぐに、いきなり日本語が使えるのだから。

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