行政はアキバをどうしたいのか――「前例のない街」に挑む千代田区:5年後の秋葉原を歩く 第6回(2/2 ページ)
アキバの駅前再開発事業がまもなく完了する。その後のアキバの姿を、千代田区はどのように見据えているのか。すでに将来のための布石は打たれていた。
アキバがオフィス街化するという懸念
タウンマネジメントの展望を聞いたところで、これまでにインタビューした人たちが抱いていた懸念をぶつけてみた。「アキバはオフィス街になるんじゃないか」という点だ。以前JTの「Smokers' style 秋葉原店」があった旧日通ビルの跡地には、オフィスビルが建設される計画が進んでおり、周辺にあるショップは人の流れや層が変わることを心配している。
――再開発地区は商業との複合エリアや住居など、いろいろ決めていると思います。街の方向性がつく半面、街の柔軟性が失われるという心配もあります。
山口氏 そうですね。ただ、これは勘違いされやすい問題です。行政としてはアキバという街は多様な用途を想定してます。しかし、用途を掲げながらも、街の機能そのものを行政で制限するということではありません。たとえば、商店エリアであれば、実際に入るお店は飲食だろうが物販だろうが規制はしない。住居地域に工場を造るような無茶はさせないという程度のものです。
――ただ、たとえばサブカル系のショップは安いテナントじゃないと入店できないという問題もありますよね。
山口氏 地代の調整というのは、行政のほうでどうにかできるものではありません。
――それでは、今後行政がアキバに代表されるサブカルチャーを保護したり、安いテナントを用意するといったことはないのですか?
山口氏 街にまかせます。ただ、この街として、にぎわいだとかそういったものを創出するために、回遊しやすい環境は作ります。対流時間も長くする。そういう環境はフォローしていきます。
情報発信能力は5年後も継続している
――最後に、行政の立場から2012年のアキバ像を聞かせてください。
山口氏 非常に難しいです。私たちがめざしているのは、グローバルな都市間競争ができる街なんです。競争が激化していく中で、アキバが持っている人・情報・モノを生かすこと。ここから新しい産業が創出されるような活気ある街です。
――“電気街”や“メイド喫茶”に匹敵するような、新しいカラーが増えている可能性はありますか?
山口氏 可能性は大いにあると思います。それは例えば、映像系、技術系、あるいはロボットなのかもしれません。1つ確実に言えるのは、アキバは国内外に向けた情報の発信能力がものすごく高いということです。再開発後も、現在以上に人が集まる街になることが予測されています。
人が集まる街には力がある。この街の影響力は5年後も継続しているでしょう。ただし、アキバに関していえば、行政は街の作り手にはなり得ないというのも事実です。やはり主役は街を訪れる人であり、魅力ある各ショップになるのではないでしょうか。
ここからは私見になりますが、アキバは“ものづくり屋”と“こだわり屋”が集まる街だと思っています。常に発展が期待できる街ですね。行政はその変化を許容していきたい。アキバの歴史が示すとおり、新しいカラーは昔のカラーを排除せずに共存していくので、安心して見ていられますね。
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