「数値ではない」ことを重視するThinkPadの機構設計(2/2 ページ)
「耐荷重100キロ超」「重さ1キロ未満」とイマドキのノートPCは数値で性能を訴求する。だが、ThinkPadで大事なのは数値でない。その真意を機構設計の第一人者が語った。
“敵に塩を送ってでも”ThinkPadは進化する
ThinkPadの改善のためには、部材を供給しているベンダーへのデータ協力も惜しまない。その例として大谷氏は、基板におけるチップ実装部分のトラブル改善のケースを紹介してくれた。大和事業所の評価作業において、振動テストでBGAの取り付け部分にクラックが発生したことがあった。チップパッケージの微細化が進むとともに接点間隔が短くなり、それに伴ない振動に対する耐性も低下しているのが原因だ。大和事業所では実装部分の基板改良を行うだけでなく、部内のテストで判明した「チップのコーナー部分で不具合が発生しやすい」事実をチップベンダーに提供し、その部分のピンにクリティカルな信号を割り当てないように協力を求めている。
このほかにも、バッテリーユニットでは、落下時の衝撃でセルが変形して発火した不具合において、2メートルの落下でも発火しないように改善を施し、さらに、化学変化で高温になったガス(700度にも達するという)が筐体の外ではなく筐体内部に噴出するような改良も加えられている。
また、液晶パネルの強度では、ほかのノートPCメーカーが訴求している「全面に対する耐荷重」ではなく、より現実に近いピンポイントに加圧に耐えられるように、「米国の男性がノートPCを持つと25ミリの範囲に5〜6キロの力がかかる」(大谷氏)という実情に基づいた「25ミリ径の10キロ1万5000回プレス」テストなどの、部分的に突発してかかる力を加えるデータを測定し、液晶パネルベンダーに提供しているという。
「ベンダーに提供した結果は競合他社のノートPCにも反映されてしまうので」と大谷氏はいうが、それでも「(カタログの)数値だけではない」実用的な評価を行い、ユーザーの利用状況を調査し、その結果から判明した改善を大和事業所だけでなく協力してくれるベンダーにも求めていく。本当にユーザーに必要な性能を実現すべく、そして、その結果を声高にアピールすることなく大和事業所の開発スタッフは作業を進めている。大谷氏がレクチャーしてくれたのは、そういった、「ThinkPadに必要なことを、当たり前のようにやる」プラットフォーム機構設計の「心意気」であったように思えた。
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