Windows Vista時代に求められるCyberLinkの技術:元麻布春男のWatchTower
「PowerDVD」とくれば、多くのユーザーが「あ、それ使ったことがある」となるだろう。店頭ではちょっと控えめなCyberLinkだが、地道に「最新技術」をユーザーに提供していたのだ。
まずは「CyberLink」をおさらいする
外付けの光学ドライブを購入すると、大抵の場合、「PowerDVD」や「PowerProducer」(記録型ドライブの場合)というソフトウェアが同梱されている。知らず知らずのうちに「あ、聞いたことがある」「あ、インストールされていた」「あ、使っている」と多くのユーザーに浸透しているこれらソフトウェアのベンダーであるCyberLinkは、台湾初の産学協同ベンチャー企業として1996年に設立された。日本においても「サイバーリンク」の社名で、先ほどのソフトウェアDVDプレーヤー「PowerDVD」シリーズなどのソフトウェア製品を店頭で販売してきた。
サイバーリンクと聞いて多くの人がイメージするのは、やはり「PowerDVD」であり、古くからのユーザーであればそのパッケージを手にしたことがあるのではないだろうか。しかし、現在の「サイバーリンク」は、PowerDVDのエンドユーザー向け販売をビジネスの主軸にしていない、といったら意外と思うに違いない。
1998年に創設されたサイバーリンクは、2005年3月末で1度解散し、「PowerDVD」や「PowerDirector」といったCyberLink製ソフトウェア製品の日本語パッケージを手がける国内総代理店「サイバーリンク トランスデジタル」と、台湾CyberLinkの100%出資子会社である「サイバーリンク」に分かれた。現在、エンドユーザー向けのリテール製品に力を入れているのは、サイバーリンクトランスデジタルであり、サイバーリンクは日本国内のPCベンダーや光学ドライブベンダーに対するOEMビジネスを中心に活動している。
CeleonマシンでもHDコンテンツを再生できるCyberLinkの技術
OEMというと、既存のソフトウェアをOEM先の製品にそのまま添付するビジネスをイメージするかもしれないが、実際は、OEM先の製品向けにカスタマイズしたソフトウェアの開発なども含まれる。サイバーリンク代表取締役社長の高木修一氏によると、同社は、ソニーのVAIOシリーズでソフトウェアコンポーネントを手がけており、DT1(ネットワーク接続型デジタルチューナーユニット)の「VAIO Digital TV」や、VAIO type X Livingなどに採用されている「VAIO Media」、VAIO type Lに導入されたTV視聴録画アプリケーションの「TV Enhance for VAIO」などを供給した実績を持つ。特にVAIO type Lでは、店頭販売されるローエンドモデルに搭載されたCeleron 530とチップセットに統合されているIntel GMA X3100でも、デジタルTVの録画と再生を可能にする最適化に力を注いだという。
このように、OEMビジネスが主軸になったとはいえ、かつて同社の名前を世に知らしめることとなった「PowerDVD」の動向が気になる。上述したように、Blu-ray DiscやHD DVDに対応したPowerDVDの新規需要は当然ながら期待されるが、依然として流通するコンテンツメディアの主力である通常のDVDについては、Windows Vistaのプレミアムエディション(Home Premium、Ultimate)にDVD-Video再生機能が加わったために、PowerDVDの需要が激減したのではないかと思われるからだ。
しかし、Windows Vistaが出荷されてメーカー製PCの標準OSとなっても、国内において、サイバーリンクのDVD再生ソフトの需要に変化はほとんどないという。Windows VistaのDVD再生機能は、CPRMメディアに対応していないため、デジタル放送に対応したPCをリリースしているPCベンダーの多くは、(デジタル放送に対応していないモデルも含めて)CPRMメディアを再生できるサードパーティ製のDVD再生ソフトを添付する傾向が強いという。そのおかげで、PowerDVDの出荷数にもほとんど影響はなかったそうだ。
サイバーリンクが現在力をいれて展開しているのが、トータルHDソリューションともいうべき「CyberLink Next-Gen Disc Solution」だ。次世代DVD規格であるBlu-ray DiscとHD DVDのそれぞれに対応した、再生、オーサリング、ビデオ編集、書き込みソフトを1つのパッケージとして提供するもので、最近増えてきたHD対応ビデオカメラの映像を民生機器と互換性を持つフォーマットで簡単に保存できるのが、この“ソリューション”の特徴だ。
また、DLNAに準拠したクライアントアプリケーションである「SoftDMA」は、PC上で動作するソフトウェアクライアントとして初めて“DTCP-IP”に対応した。これにより、DTCP-IPをサポートしたサーバとの組合せで、サーバ上の録画されたデジタル放送のコンテンツ(DRMにより保護されている)をネットワーク経由で視聴できるようになった。
OEM向けに最新技術を導入する
こうした製品や技術の多くは、まずOEM向けに提供されることが多い。例えば、サイバーリンクが現在Webサイトでエンドユーザー向けに販売している「CyberLink Digital Home enabler Kit」には、上記のSoftDMAが含まれているが、DTCP-IPにはまだ対応していない。保護されたコンテンツをネットワーク環境で視聴するには、単にDTCP-IP対応のアプリケーションが必要になるだけでなく、OS、ビデオプロセッサをはじめとするハードウェア、デバイスドライバ、ディスプレイなどで、再生するための条件を満たす必要がある。しかし、すべてのユーザーがこうした条件を理解しているとは限らないため、現時点ではDTCP-IP対応版の提供を行っていない。
サイバーリンクでは、いま説明したような環境の整備状況や、現在開発中の環境チェックソフトの完成などを見極めた上でDTCP-IPに対応したいとしているが、そのような状況下にあっても、OEMを先行させたのは、OEMのベンダーが出荷するPCなら、構成が出荷時に確定しているわけで、環境をコントロールしやすいという事情もあるに違いない。
日本国内のPCベンダーであっても、OEM先に提供するソフトウェアをカスタマイズするのは主に台湾本社のチームだという。グローバルなビジネスを展開するCyberLinkにとって、日本固有のDRM規制などに対応するメリットはあるのだろうか。現在、米国などではデジタル放送であってもDRM規制は行われていないが、コンテンツホルダーの中にはプレミアムコンテンツについてはDRMを付与したいという意向を持つところもあるという。日本国内向けにソフトウェアを開発し実績を積むことで、必要があればPCや民生用AV機器を問わず利用可能なDRM技術を全世界に供給可能になるというメリットがあると考えているとのことだ。
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