芸者は電脳フィギュアの夢を見るか:アリスの限界と可能性(4/4 ページ)
世界初の拡張現実フィギュア「ARis」が発売された。おそらく日本でなければ製品化されることはなかったであろう“電脳フィギュア”を通じて、近未来の技術を考えてみる。
オタク扱いされたくない?
最後に「メイド型電脳フィギュア」という「萌え」製品に対する芸者東京の姿勢について率直な感想を述べたい。
芸者東京エンターテインメントというユニークな社名は、世界に通じる日本の言葉、それと同時に芸を紡ぐ「クリエイター」の意味をこめた「芸者」と東京大学の「東京」からとったという。
確かにARisには「東京大学、なるほどね」という印象がある。これは残念ながらほめ言葉ではなく、「研究者としてはすばらしいけど、世間とはズレがあるよね」という凡百なステレオタイプの意味でだ。ARisの想定客層自体、世間からズレがある人たちなのだろうが、それとも違う方向のズレを感じてしまう。ARisを試用していて感じたのは「この人たちはそれほどメイドや美少女フィギュアが好きではないんじゃないか?」ということだ。
ローディング画面のアリスのイラストは、設定資料では「没イラスト」とある。これを見ると「こんな大事なものを没イラストから拾ってきたのか」と思ってしまうし、魔女っ子服が没になった理由が「イメージがメイド服とダブるからとのことで…。社長!メイドと魔女っ子は別物です!」とある。これはつまり「社長は萌えが分かっていません」とほぼ同義だ。百歩譲っても「社長はメイド萌えが分かっていません」であろうし、それはメイド型電脳フィギュアの販売元として致命的と言えなくもない。
ベンチャー企業の場合、世間の認識は「社長≒会社」だ。デザイナーの桂氏のために補足しておくと、これはデザイナーの問題ではなく、それを通してしまうチェック体制、「それじゃ“メイド愛”が薄いと思われるじゃないか」という危機感の欠如の問題だ。
一度そういう印象を持ってしまうと「今回、デザインからモデル作成まで一貫して担当させていただきました」という文も、フィギュアのデザインを外注デザイナーにまかせきりにしているように感じてしまうし、アリスのプロフィールの「父:主税(ちから 東大教授)」も「大学教授と書けば十分だろうに、ずいぶん東大を強調する人たちだな」と思わなくもない。何よりひたすらしゃべり続けるアリスの台詞を聞いていると「おたくってこういうのが好きなんでしょ」と言われているようなあざとさを感じるのだ(個人的な被害妄想だと言う人もいるだろうが)。
果たして芸者東京エンターテインメントのスタッフのデスクには、(本物の)フィギュアはどれくらい置かれているのだろうか。「技術がすごい」と思われたいのであればともかく、「萌え」でビジネスを展開するのであれば東大という言葉を封印し、「これが男性陣のいやしとなって社会貢献できれば」などという距離を置いた理由ではなく「フィギュアが大好きなので作っちゃいました」と公言してアリスの痛車を乗り回すくらいの気概がほしいと、個人的には思う。
関連記事
- ツクモ破たんの波をかぶった電脳メイドさん 「ARis」のベンチャー「高い授業料払った」
「電脳フィギュア ARisを取り扱いたい」と真っ先に声をかけてきたツクモが経営破たんした。ARis開発元の社長は「高い授業料を払ったと思ってポジティブに頑張っていく」と話す。 - 次元を超えた画像解析技術――「Deep Zoom」と「Photosynth」を体験する
超ズームの次の一手は想像のななめ上どころか、次元を超えていた。日本の誇る文化をモチーフにした実例で、Photosynthの魅力に迫る。 - 「電脳フィギュア ARis」のソフトがダウンロードできない不具合
「電脳フィギュア ARis」はソフトウェアを専用サイトからダウンロードする必要があるが、ファイルを落とすのに時間がかかりすぎるという声があがっている。 - アキバで「ARis」発売イベント:電脳フィギュアに「そんなのあんまりですぅ」とか言わせてみた
芸者東京が“拡張現実メイドさん”こと「電脳フィギュア ARis」の発売記念イベントをアキバで実施した。さ、ツンツンしてみようか。 - 等身大のARis(※人間です)をツンツン!?――アキバで「電脳フィギュア」発売イベント
「巨大な電脳スティックを使って、等身大のARis(※人間です)と遊べます」――「電脳フィギュア ARis」の発売イベントが今週末、アキバで開かれる。 - 「電脳フィギュア ARis」、9800円で10月19日発売 声はゆかなさん
「まだ見ぬご主人さまにはやくお仕えしたいんです」――手に持った棒で画面の中の“電脳メイド”をつついて反応を楽しめる「電脳フィギュア ARis」の発売日が10月19日に決まった。声はゆかなさんが担当する。 - “拡張現実メイドさん”をツンツンしたら、「エッチなのはいけません!」と怒られた
画面の中のメイドさんを、手に持ったスティックでツンツンしたり、スカートの中をのぞきこんだりできるという話題の「電脳フィギュア ARis」を触ってきた。動画あり。 - 画面の中のメイドさん、棒でなでたり眺めたり 拡張現実「電脳フィギュア ARis」
手に持ったスティックで、画面の中の“電脳メイド”をつついて反応を楽しんだり、さまざまな角度から眺めたりできるという、夢のような(?)製品が発売される。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.