Netbookより安くて怪しい「山寨」ノートの破壊力:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
日本でも紹介されるようになった“山寨”ケータイ。しかし、中国ではノートPC市場でも“山寨”が侵食しようとしている。「山寨」ノートの実態に迫る。
BenQのようでBenQでない。ASUSのようでASUSでない
一番最初に登場した山寨ノートは、“BenQ”ならぬ「Menq International」という深センの企業がリリースした製品といわれている。名前はEee PCならぬ「Easy PC」だ。ドイツで行われた展示会「IFA2008」で登場したとき、中国メディアは早くもEasy PCに注目していろいろと分析している。価格が89ドルと強烈な安さだったが、残念なことにCPUはARM、OSはWindows CEであった。同じ深センにある匯安科技(Jointech)というメーカーも99ドルという山寨ノートを発表しているが、こちらもOSはWindows CEであったという。
Eee PCのASUSならぬ「axus」(愛信)というメーカーが投入した山寨ノートもいろいろな意味で注目を集めている。axus自身は、山寨ケータイを長年扱ってきた「山寨」畑では経験も技術もあるメーカーとして評価されている(あくまでも「山寨」業界であるが)。axusの山寨ノート(困ったことに型番がない)は、2000元弱(約2万6000円)という、山寨ノートとしては先に紹介した製品よりも“高価格”ながら、CPUにPentium Dual-Core T3200(2.0G)、メモリ容量は1Gバイト(最大4Gバイト)、Serial ATA接続160GバイトのHDD、DVD-ROMとCD-RWのコンボドライブを内蔵、GPUにRadeon HD 3470搭載、液晶ディスプレイは14.1型と、値段と比べてそのスペックはあまりにも高すぎる。しかも、axusは「この山寨ノートは(ASUSではなく)acerの4730ZGに似せた」と堂々と主張していたりする。この衝撃的な山寨ノートのデビューに、中国IT系メディアはWebサイトを中心に多数の記事を掲載した。ただ、最近ではさすがの中国メディアでも「どうも詐欺師の仕業らしい」という、製品の存在自体が疑わしいという意見が主流となっている。
皮肉にも、存在自体が疑われているaxusの山寨ノートが登場した以降に、山寨ノートが少しずつ、しかし、確実に中国の市場に登場してきた。ほとんどの山寨ノートが、淘宝網などのオンラインショッピングサイトや深センの電脳街でゲリラ的に販売されていたが、その中で頭角を現したのが、「M.D.Tech」という山寨ノートのメーカーだ。
超低価格なハイスペック、そしてOSなしのAtom山寨ノートが登場するか
2009年1月11日には、深センで「山寨筆記本PC大会」(山寨ノートPC大会)なるイベントで開催され、山寨ノートのメーカーを名乗る5社と、その部品メーカー10社が集結して山寨ノートをはじめした山寨系デジタルガジェットの普及推進を目指す声明を出すなど、ゲリラ的な業界が主催するイベントながら、意外にも盛り上がっていた。
山寨ノートメーカーの担当者は「現在の山寨ノートは入手しやすいVIAプラットフォームが主流となっている(Atom搭載の製品も少数あるが)。インテルは、山寨ノートにおけるVIA優勢の状況を打破するために、Atomを中国パーツ市場に流通させるのではないか?」という、びっくりするような期待を示している。
その期待の根拠がどこにあるのかはっきりとしていないが、もし、Atomが山寨ノートで主流となったら、「OSは海賊版が当たり前」の中国向けにOSを組み込まない、「違いの分かるユーザー」にはある意味おいしい、そして、OSを導入しない分、そのコストを別なパーツのアップグレードに回して先進国メーカーより高スペックな、“山寨”Atomノートが登場するのではないだろうか。
先に書いたように、中国ではNetbookが豊かな大都市に住むPCマニアに支持される一方で、所得水準が低い内陸地域ではほとんど購入されていない。その理由としては「そもそも内陸部の店頭で売っていない」であったり、多くのPCユーザーが「PCはDVDを見る機械」と考える中国でワンスピンドルPCは喜ばれなかったりといった事情が挙げられる。Atomを搭載した2スピンドルの山寨ノートは少数派だが、このような製品が主流になれば中国で一気に普及する可能性がある。
さらに、中国から輸出されたAtom搭載の山寨ノートがEee PCやAspireといった台湾PCメーカーのNetbookを世界中の市場から駆逐してしまうこともあるかもしれない。中国深セン発の山寨ノートが持つ“破壊力”はまだまだ未知数なのだ。
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