あえて“傷をつける”ことで高めた存在感――「LaCie rikiki」:矢野渉の「金属魂」的、HDD使用記
カメラマン・矢野渉氏が被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。今回の番外編は、USBポータブルHDD「LaCie rikiki」のヘアラインに思いをはせる。
それは、かわいそうなアルミくんが復権するまでのお話
アルミニウムはとても可哀想(かわいそう)な金属である。実力は十分にあり、それゆえにいろいろな場面でお呼びがかかるのだが、一般的な評価があまりにも低い。
理由ははっきりしている。アルミニウムは自らのイメージ戦略に失敗した。その人懐っこい性格からどんな仕事でも断りきれず、八方美人的に立ち回ってしまったのである。
国の仕事だからと1円玉になり、主婦たちに頼まれれば身を薄くしてまでアルミホイルに成り下がった。結果、アルミニウムには「安い」や「軽薄」などのよろしくないイメージが付きまとうようになってしまった。
車のアルミホイールは高級なイメージがあるのでは? と反論する人もいるだろう。しかし、ここでその議論を持ち出すと話が混乱するので、無視して話を先に進める。ひとこといえることは、「どんなものにも例外はある」ということだ。
PCの世界でも、アルミニウムは重用されている。主に熱伝導率のよさを評価されて「冷却」関係での出番が多い。一時期、CPUクーラーの分野ではアルミ製のものが圧倒的なシェアを誇っていたものだ。しかしこれも、業界の重鎮であり人格者の「銅」さんの、突然の出演料のダンピングによって、アルミくんの出番は激減してしまった。
銅さんはどっしりと重く、表面は輝いている。しかも熱伝導率はアルミくんに勝る。軽くて安っぽいアルミくんに勝ち目はなかったのだ。彼はメインのCPUクーラーから離れ、チップセットに控えめに張り付く道を選ばざるを得なかった……。
しかし、失意に暮れるアルミくんに、やがて運命の出会いが訪れる。「ヘアライン加工」とのコラボレーションである。表面を磨くのではなく、むしろ「傷をつける」加工。これがアルミとの相性が抜群だった。アルミのくすんだ表面に細かな輝きが走るようになったのである。アルミくんはやっとその存在感を発揮できる方法をつかんだのだ。
アルミくんはその後フランス留学を経て、さらにカラダのラインをシェイプして今春、日本へ戻ってきた。というのは妄想だが、このフランス、LaCieの「rikiki」(日本ではエレコムが販売している)を見ていると、アップルの精巧なアルミユニボディMacとともに、「アルミくんのPC業界への復帰」という言葉がぴったりだ。
ポータブルHDDとしては極限までコンパクト化がなされ、重量も160グラムと軽量。それを包むアルミボディは意表をついたブラックカラーだ。その効果か、数値以上に小さく見える。そして決め手は表面のヘアライン加工。これも見慣れたものとは少し異なり、ヘアラインの溝が全体に深く、しかも不ぞろいだ。金属というより、何か未知の樹木の表皮のような不思議な手触りだ。これがフランスのエスプリというものなのか。
ポータブルHDDなどただの箱で、デザインする余地などないと考えがちだが、rikikiを眺めていると、それは間違いだと気付く。この「2001年宇宙の旅」に出てくるモノリスのような圧倒的な存在感はどうだ!
使い勝手もよく考えられている。オレンジ色のアクセスLEDと、mini USBコネクタが別の面に取り付けられているのだ。これにより、ノートPCとrikikiをつなぐと、自然にLEDがこちらを向くようになっている。
640Gバイトモデル(LCH-RK640U)もあるが、500Gバイトモデル(LCH-RK500U)のほうがリーズナブルでお勧めだ。ほんの1万円ほどで、上着の内ポケットからrikikiを取り出すときの周囲への優越感を得ることができる。
僕はずっとアルミくんの実力を認めてきた者だ。だから色々な経験を積んで、ステップアップして帰ってきた彼を見ていると感無量である。
「立派になって…」と声を掛けたら彼はどう答えるだろうか。
きっと、「僕の仕事は冷却ですから」と謙虚に笑うに違いないのだ。
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