「前兆はあった。でも……」T・ZONEの廃業に周辺ショップは落胆:古田雄介のアキバPickUp!号外
T・ZONE.PC DIY SHOPが廃業した。また1つアキバの有名パーツ店が消えたことに、周囲のショップは肩を落としながら「ウワサは、なくはなかった」と語る。
T・ZONE.PC DIY SHOPは「ドスパラ PCパーツ館(仮称)」に
2010年11月30日昼。秋葉原のPCパーツショップ密集エリアは普段のように賑わっていたが、T・ZONE.PC DIY SHOPのシャッターは閉じたままだった。入り口にはトラックが横付けされ、周囲には指示を待つ運送スタッフや、口を押さえてどこかに電話をかけるスーツ姿の男性、シャッターに2枚並んだ張り紙を眺める歩行者、そして私服のまま店舗を眺める同店のスタッフ数名がいた。その中にいたある店員は「なにしろ突然でした。いちおう“上”からは11月25日の時点で『30日の朝に全員集まれ』と指示があったので予感はありましたけど……」と語る。
アキバの代表的なPCパーツショップの1つとして注目され続けたT・ZONE.PC DIY SHOPの歴史は、こうして幕を閉じた。
事実が公になったのは11月29日だ。MAGねっとホールディングスが、プレスリリースで子会社であるT・ZONEストラテジィの事業すべてを廃止すると発表。T・ZONE.PC DIY SHOPを含む同社保有の資産はサードウェーブに譲渡されることが決定しており、現在は譲渡条件のすり合わせが行われているという。年明けには譲渡が完了し、時期は未定ながらT・ZONE.PC DIY SHOP跡地はサードウェーブ運営のPCパーツショップ「ドスパラ PCパーツ館(仮称)」に生まれ変わることになる。
T・ZONE.PC DIY SHOPの数メートル先には、PCパーツを取り扱う同系列のドスパラ秋葉原本店があるが、サードウェーブは「(2店舗間で)何かしらのすみ分けを行う可能性はありますが、具体的な方針は譲渡が済んだ後に決定します」とコメントしている。
また、T・ZONE.PC DIY SHOPの購入者サポートについては「未確定な要素ではありますが、基本的にはT・ZONEストラテジィにお願いしたいと考えております。ただし、お客様の利便性を考慮して我々も柔軟に対応していければと思っております」(サードウェーブ)とのことだ。
「10月から商品が仕入れられないというウワサはあった」
老舗の突然の閉店について、周辺のPCパーツショップには落胆の色が広がっていた。ツートップ秋葉原本店は「(T・ZONEは)街を盛り上げる存在だっただけに、寂しいです」と肩を落とす。来年から同系列となるドスパラ秋葉原本店も「本当にビックリしました。こちら(店舗)にはまだ何の連絡も上から届いていないので、今後のことは分かりませんが……」と驚くと同時に残念がっていた。
とはいえ、前兆はあったようだ。あるショップの店員は「今思えばですけど、10月ごろに商品が仕入れられないというウワサがありました。現金が不足していたのかは分からないですが」と語る。また、別のショップは「T・ZONEさんは9月末に資産が一時差押えられたんですが、その前から親会社の負債が大きくて危険という声もありました」と、以前からの兆候に注目していた。そこから「グループ全体に引っ張られたというか、“横からの風”で倒れてしまったという側面が大きい気がしますね」(別系列の店員)というように、PCパーツ販売とは別の要因が致命傷になったとみる同業者も1人ではない。
差押えについての情報は、MAGねっとホールディングスのプレスリリースでたどれる。9月30日のリリースでは、東京国税局の税務調査で支払い義務が生じた5億円を超える追徴税金を滞納し、同社と子会社の資産が差押えられたと発表している。滞納分はまもなく完納したものの、この影響で10月12日には不動産関連の子会社を手放すなど、大きな動きをみせていた。その余波がT・ZONE.PC DIY SHOPにも及んだと推測されているわけだ。
ただし、T・ZONEストラテジィの事業廃止については「品ぞろえを維持するための売り場面積の確保が難しく、大量仕入れによる仕入れ値引きのメリットが享受できないこと」が公式な理由として挙げられている。同社広報も取材に対して「差押えの影響ではなく、一店舗経営で継続することが困難な情勢になったためです」と答えている。
周辺ショップとの価格競争が続き、1つの商品で得られる利益がどんどん少なくなっていくと、仕入れる数が少ない一店舗経営のショップは全国規模のショップよりも先に赤字ラインが来る。ならば、他社で扱わない商品で差別化しようと考えても、並べるスペースはこれ以上増やせない。その手詰まり感から手を引く決断をしたというわけだ。
一方、差押えの影響からと推測する人々も、一店舗経営の難しさは否定しない。前述した別系列の店員は「Windows Vistaの時代に冷え込んだ売り上げは、2009年10月のWindows 7で一時期は持ち直しました。しかし、現在は特需が終わって売り上げが厳しくなってきたのは確かです。2010年秋の“FF14特需”にしても、自社ブランドPCを扱うところはある程度の恩恵を受けたかもしれませんが、グラフィックスカードなどのパーツ単体だけではすでに利ざやが少なくなっているので、(自社製PCを扱わない)T・ZONEさんでは大きな利益にはなりにくかったでしょうし」と分析する。
今回の事業廃止に、PCパーツ業界全体の動きとは別の要因があったにせよ、なかったにせよ、同業他店の気持ちを引き締める大きな出来事になったのは確かなようだ。T・ZONE.PC DIY SHOPの跡地と資産を生かしたドスパラ PCパーツ館(仮称)の詳細は、譲渡の条件が確定する12月中には見えてくる。2011年以降の電気街を活性化させる店舗を期待したい。
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