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目標出荷台数で全員不幸!牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

新製品発表で景気のいい目標値が飛び出すとき、その販売実績で桁違いといってもいいほどのズレが明らかになることが少なくない。この見込み違いはなぜ起きる?

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希望的観測と目標値の甘い関係

 メーカーの新製品発表会では、「目標出荷台数」の数値を具体的に挙げることが多い。上場企業では株価にも影響するから、プレスリリースで必ずこの数字を盛りこむ。リリースに書かれていないことがあっても、新製品発表会で質問されてメーカー関係者が具体的な数値を答えることになる。

 こうして掲げた目標値が、現実的な試算によって算出された達成可能な値かというと、必ずしもそうでない場合が多い。後日明らかになる出荷実績数と比較すると、大きな開き、場合によっては桁が1つ間違っているような場合すらある。なぜ、このようなことが起こってしまうのだろうか。

 予想出荷台数の算出には、いくつかの方法がある。

 1つは、自社の過去製品と比較して算出する方法だ。従来モデルの出荷実績から、その2割増、5割増と予測する。一般の会社における予算と同じく、前年同月の実績がベースになるので信頼性は高い。販路も同じだし、それだけのユーザーが実際に存在することを証明しているわけだから、根拠としても精度が高い。

 もう1つは、競合する同等製品と比較して算出する方法だ。他社の発表値や市場調査会社から得られた売上予測数から予測する。ただ、桁が違うほどの誤差は出ないものの、競合他社を上回りたいという願望が入ってくるので、あまり正確にならない。先行するメーカーがすでにユーザーを奪っていて、その数を差し引かなくてはいけないはずが、考慮されていないことも多々ある。

 他社との比較で予測する方法において危険なのは、他社と自社の力関係を正当に評価できておらず、自社の力を過剰評価している場合に、目標と実績にかなりの開きが出ることだ。

社内事情と株主と目標値の危うい関係

 これらとはまったく異なる方法で出荷台数を見積もる場合もある。よくあるのが、製品の損益分岐点から算出するパターンだ。開発コストを償却するためには10万台の生産が必要である場合、これを目標値にすり替え、「目標出荷台数10万台」と公表してしまう。

 この計算方法は、市場規模やユーザー数をまったく考慮していないため、数値の根拠はまるでなく、それどころか社内の危険な事情を数字で明らかにしただけに過ぎない。恐ろしいのは、このパターンが公表される目標出荷台数にかなりの割合で存在する事実だ。出荷目標、イコール、発注済みの部品の数だったり各部品のロットの最小公倍数だったりする。経営者のご都合主義もここに極まれり、だ。

 また、どの場合も、あまりに低い目標数を掲げると株主から叩かれたり、メーカーとしての面子が立たないという理由で、値を水増しして公表するのが常だ。株主の手前、あまり低い数字を目標とすると事業計画そのものの正当性が問われかねない。そして、水増しの程度にはかなり開きがある。

 ほかにも、営業部署に危機感を与えるためにわざと高い数字を設定したものが、そのまま対外的な目標出荷台数になったり、対外的に発表する販売目標とは別に、社内で目標を設定している場合も少なくない。同じ「目標出荷台数」といっても、その定義はメーカーによって、いや、同じメーカーでも事業部によって、算出の根拠がまったく違う場合すらある。

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