目標出荷台数で全員不幸!:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
新製品発表で景気のいい目標値が飛び出すとき、その販売実績で桁違いといってもいいほどのズレが明らかになることが少なくない。この見込み違いはなぜ起きる?
年間はおろか、その月の出荷台数すら読めない小規模メーカーに目標を聞くな
ところで、小規模メーカーでは、新製品の目標出荷台数を定めていない場合もある。上場企業でないため株主から目標値を詰問されないという事情もあるが、目標を定めない主な理由は「あまりにも出荷数が少ない」、または「変動要因がありすぎて出荷台数が読めない」ことにある。
そういうメーカーは、それまでの経験則で「まあ極端には外さないだろう」という台数を調達した資金に見合う範囲で“なんとなく”仕入れて、販売台数が一定の基準を下回るまで細々と売っていく。こうした製品を大量に抱え、売れなくなった製品をトコロテン式に押し出して終息させることで全体の鮮度を保ち、単品ではなくグロスで利益を稼ぐ。小物が多いPCアクセサリメーカーによくある話だ。
このようなメーカーが扱う製品では、単品ごとの出荷数のグラフが年間を通してゆるやかな曲線になることはない。「ある月の出荷数は客注(販売店の在庫としてではなく顧客からの直接注文)のみでたったの50個→その翌月は全国展開をしている量販チェーン店への一括導入が決まったので1500個の大口出荷→そのあおりで倉庫在庫が欠品したので翌月と翌々月は0個→その次の月になって発注していた1000個がようやく入庫してきたが、そのタイミングで量販チェーン店の定番から外れた売り残りが返品されてしまい、帳簿上はマイナス500個の出荷」などという場合もある。
こうした感覚でビジネスを行っている小規模メーカーが、慣れない新製品発表会で出荷目標台数を質問されると極度の緊張状態に陥って“とんでもない数値”を発してしまうこともある。「シェア20パーセント」とか「年間100万台」など、数字として区切りがいい発言は、このような極限状態における後先を考えていない値である疑いが濃厚だ。決して情報を隠すわけでなく、具体的な目標台数を決めていない(もしくは、決められない)がために、こうした悲劇は起こる。
さらに都合の悪いことに、こうした具体的な目標値は記事の見出しに使われることが多い。後日、実績が目標に達しない場合は、(社外的にも社内的にも)対抗勢力に攻撃材料を与えてしまうケースが多発する。意図的に操作して根拠もなく実現不可能な目標値を掲げるようないい加減すぎる経営者は攻撃されてしかるべきとして、慣れない晴れの舞台に極限状態で口走ってしまった数値には根拠も悪気もないことを理解したうえで、生暖かく見守ってあげるくらいの寛容をユーザーはもってあげようではないか。
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