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増産できないしたくない牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

“細く長く”売れていた製品だったのに、いきなり先を争って買い求める事態に。メーカーは“特需”でチャンス到来と思いきや、苦難の道が待っていたりする。

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生産ロットは効率で決まる

 東日本大震災後における乾電池のように、特定製品の需要が一時的に急騰する場合がある。災害や気候が原因となることもあれば、マスメディアによる広告活動が功を奏して新製品が空前の大ブームとなるケースもある。いずれにしても、想定していた供給を大きく上回る需要が発生し、販売店から卸業者、卸業者からメーカーへと注文が殺到する。事情を知らない人は、メーカーの業績にとって大きな好機と考えるかもしれない。しかし、当事者にすると、“特需”というものは、チャンスどころかその後のビジネスに悪い影響を及ぼす、苦難の始まりであったりするのだ、

 メーカーは製品を作り、それを販売することで利益を得る。利益を増やすには、販売個数を増やすか利益幅を引き上げる(原価を引き下げる)ことになる。高い品質や充実したアフターサービスでリピーターを増やすという、“未来の利益”を確保するという話を別にすれば、基本的に「販売数を増やす」「利幅を増やす」の2つしか利益を増やす方法はない。

 メーカーは卸業者、および、小売店を通じて商品を販売している。メーカーは、小売店の在庫を切らさない責任を負っているので、その製品の販売数に応じて製品を供給しなければならない。ある販売店で1日に平均3個売れる商品であれば、週あたりおよそ20個、1カ月にすると80個売れることが予測される。この販売店が全国に500店舗あれば、4万個を毎月作って出荷する責任があることになる。

 「月産4万個=年間およそ50万個」といっても、繁忙期、閑散期などの変動を調整しながら、在庫を継続してコントロールしなければならない。この1年分の約50万個を1度に生産しても、1カ月分の売上は4万個しかないので、残りの46万個は在庫となり、倉庫代がかかっていくことになる。倉庫在庫をなるべくゼロに近づけつつ、必要な期間に必要な数を作ってコンスタントに出荷し、原価の支払いと売上額の入金の間隔をできるだけ短くして運転資金を確保するのが、メーカーとして健全な状態だ。

 もちろん、特定の期間に必要な数だけ作るというのは現実的に難しい。工場で使えるラインの生産能力、パッケージや説明書の印刷部数、倉庫のスペースと経費など、あらゆる要素が影響しあって生産ロットを決定する。最小ロットが3カ月分であれば、残り2カ月分は在庫で持ち、順調に消化されていけば3カ月後に工場のラインを動かして生産、というサイクルを繰り返す。とはいえ、まとめて生産したほうが原価は下がるわけで、担当者には、そのあたりの生産コストと在庫管理コスト、そして単位期間あたりの販売個数の予測を考慮したバランス感覚が求められる。

 逆に、効率のいい生産ロットの数から、販売網を広げたり狭めたりする場合もある。具体的には「これ以上売れると生産ラインを2倍にしなくてはならず、逆に利益が落ちる」と判断した場合、製品の流通を特定の販売ルートに縮小することによって、供給量を抑えつつも店頭で品切れが起きないようにする。

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