LaVie Zが「800グラム台」を実現できた本当の理由:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
875グラム──13型クラスで未知の領域に到達したNECのスペシャルUltrabook「LaVie Z」。なぜここまで軽いのか、どんな手法を用いたのか、そもそもなぜNECがここまでとがったUltrabookを。NECパーソナルコンピュータのLaVie Z企画担当者に話を聞いた。
「開発のアプローチを変えろ」で達成した800グラム台
このシミュレーションでの数値ではダメだ。小野寺開発本部長は「開発のやり方を変えよう。まずは設計マージン分をすべて捨てて、計算上、必要な剛性が取れるギリギリの設計をしてみろ。そこから必要な部分を補強すればいい」と指示した。
通常、こうした製品を設計する場合、あらかじめ設計値に対して余剰の剛性を積み増して作る。もちろん十分以上の品質を出す目的もあるが、こうすることで開発工程を簡素化できる利点も大きい。作ってはみたが剛性が出ず金型に改良を施さなければならないなんてことになればコストが大幅に上がってしまう。
しかし、マージンを捨てて最初の原型試作を行えば、間違いなく軽量になる。その上で実際にテストを行い、弱い部分を補強して製品に仕上げればいい。今回はあえて、手間と時間とコストのかかる方法で設計してでも徹底した軽さを得よう──ということにした。
こうして作られた試作機は850グラムを切った。100グラム以上の軽量化を果たしたのだ。ちなみに、今回はそうとうたくさんの試作機を作ったようで、メディア向けに評価用として貸し出された開発試作機は、それぞれ異なる重さだった。PC USER編集部のそれは861グラム、ある編集部の計測では845グラム、別の編集部の計測では860グラム、筆者の試した試作機は850グラムちょうどだった。
それが最終的に875グラムというスペックに決定したのは、今回のインタビュー取材を行った日の夕方だ。あらゆる部品の組み合わせを想定した上での数値だが、その製品仕様で実測すると875グラムだったという。中井氏は「ついにできた」とホッと胸をなで下ろした。
ちなみに新素材のマグネシウムリチウム合金だが、素材そのものは1960年代からあったもので、軽量ながら剛性はマグネシウムとほぼ同じ。物性も近いというが、実際に本体底面のマグネシウムリチウム合金パネルを手にすると、紙を持っているかのように薄く軽いのはもちろん、意外に柔らかく、粘りのある素材だった。
驚いたのは、これがプレス加工で作られていること。鋳造による細かな部分の作り込みがマグネシウム合金より難しいそうで、NECがパートナーとなっている素材メーカーと共同開発したのは、マグネシウムリチウム合金をプレス加工する部分にあるらしい。確かに軽量だが、この1枚を使ったことによる軽量化はおそらく数10グラム程度だろう。
こちら、キーボード面や天面パネルにもこのマグネシウムリチウム合金を使う案はあったようだが、前述したように鋳造工程で作ることが難しく、現時点では細かなリブやネジ受けを作ることができない。プラスチックとのハイブリッド構造などにすると、かえって重くなってしまう。このため、キーボード面や天面パネルについてはマグネシウム合金(AZ91)を用いている。
今後、さらに加工技術を高めていくことでもっと多くの部品に採用していけるというだが、今回はここまで……ということのようだ。
中井氏はLaVie Zに関して「自分ならこんなモバイルPCが欲しい」という理想を捨てずに、商品企画をした。
「実際にモバイルPCを作っている人たちに話を聞くと、みんなが口をそろえて軽さを求めるのに、どの製品も薄いことばかりにこだわっていた。ならば薄さでもトップクラスだけど、誰にも負けない徹底した軽量さを──というのが根底に据えたコンセプトです。もちろん、その実現のために最高でない仕様は一部あります」
LaVie Zのバッテリー動作時間は約8.1時間。Ultrabookとして残念ながら最長・最高のスペックではないが、1時間で80%まで充電できる急速充電機能を盛り込み、技術それをカバーするという考え方とした。急速充電は、80%まで1時間で急速に、残りの20%は1時間をかけてゆっくりと進めることでバッテリーの劣化を抑える仕組みだ。なお、急速充電には大電流が必要になるためACアダプタは65ワット出力タイプを採用するが、このACアダプタも65ワット出力タイプながら薄型で、そこそこ軽量である。重量はACケーブルを含めても約300グラム。PC本体と一緒に持ち歩いても、これまでの13型クラスUltrabook単体と同等の1.2キロを切る軽さだ。
最後に「第1弾は確かにみんなを驚かせてくれた。でも次のステップもあるんですよね?」と聞いてみた。
「たくさんの数が売れるわけではなくとも、イノベイティブでみんなを驚かせる製品を作っていこうというのが、NECパーソナルコンピュータとして会社全体の方針になっています。次はまた違うアプローチで、もっと面白い、もっとすごいと思ってもらえるものを作りますよ」
こう意欲的に答えてくれたのは印象的だった。やはり自らチャレンジしたくなるテーマを与えられると、人はより大きな力を発揮するものだ。NECが次にどんなテーマにチャレンジするのかに注目したい。
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