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アップルがWWDC 2013で伝えた「本当に大事なこと」WWDC 2013所感(2/2 ページ)

WWDC 2013の基調講演で行われた発表のうち、業界きってのアップルウォッチャーである林信行氏が最も注目したのは、iOSでもMacでもなく……、少々意外なものかもしれない。

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講演の最初と最後に見せた2つのビデオこそが最大の発表

 もっとも、最近のアップルへの不信は、確かに以前よりも大きく積もっているかもしれない。たとえ実績に反した印象だけの問題であっても、それが長く続けば、巨人アップルの足もとをすくう可能性がないとは言えない。一体アップルは、この状況をどう打破すればいいのか。

 私はそのヒントを、世界的な寿司店「すきやばし次郎」を紹介したドキュメンタリー映画「二郎は鮨の夢を見る」に出てくる職人の言葉にみた。

 次郎さんのような強い先代がいると、その後はどんなにがんばっても、それまでのお客さんに認められてもらえない。倍くらい頑張ってようやく肩を並べられるのだという。

 確かにそうかもしれない。人々がスティーブ・ジョブズという強烈な先代が振る舞った寿司の味を頭に思い描いている間は、彼らはクックにもジョブズの寿司を求めてしまう。

 その因縁を振り払うには、クックはクックの時代の新しい寿司を創造し、それによって人々を驚嘆させ、納得させ、新しいアップルとしての道を示さなければならない。しかもそれでいて、昔もこれからも変わらない「アップル」という看板を保ち続けなければならない。

 この看板をつなぐ言葉としてクックが選んだのが「Designed by Apple in California.」だった。その言葉が素晴らしいのでここで意訳しよう。


もし人々がみな、追われるようにして作れるものすべてを作っていたら、
いったい誰が1つのものを極めてくれるのか

我々は「便利」を「喜び」と、
そして「豊富さ」を「選択の自由」と勘違いし始めている

何かをデザインするためには、焦点を絞ることが大事だ
そして我々が最初に問うのは、人々にどう感じてほしいかだ
例えば、「喜びを与える」「人々をつなぐ」……

その後、我々はその意図に基づき、手を動かし、作り始める
これは時間のかかる作業だ

1つ1つの“YES”の背後には1000の“NO”がある
我々はものごとをシンプルにし、完璧なまでに洗練し、
我々の作るものが、1人1人の人生を変え、
心に触れるようなものになるまで、
製品のそこかしこに手を入れて、何度も作り直す

そこまでやって初めて、我々は製品に署名を入れる
「Designed by Apple in California.」と


 このメッセージはある意味、日本の匠たちの精神に近く、極めて日本的だ。日本で製造業に携わる人たちにも是非、見てほしいと思う。

 基調講演の最後に流したCMは、先の「Designed by Apple in California.」の裏にある精神を、顧客である一般の人々にもっと感覚的に伝えようとしたCMだ。

 アップルにとって最も大事なのは、製品を使って他社を打ち負かすことではなく、人々の日々の暮らしの中で本当のよろこびを与え、人生をよい方向に変えていく体験を作り出すこと。

 このCMは、いずれおそらく「Think different.」がそうだったのと同様に、世界展開されると思うので、あえてここでは訳さないが、一節だけ気にかかったので、そこだけ紹介しておく。


「You will rarely look at it. But you feel it.」
(あなたはそれを滅多に見ることはないかもしれないが、その存在は感じている)


 アップルは、製品に余計な機能を満載して、人々の日々の生活に出しゃばろうという気は毛頭ない。まずは人間らしい暮らしを大事にして、それを目立たないようにサポートする奥ゆかしさも持ち合わせているのだ。

 おそらく、だからこそ、同社が作る製品は、そのハードウェアも、OSを含むソフトウェアも、徹底的に自己主張を削ったシンプルかつミニマルなものにしているのだろう。まるでどんな料理にでもあう究極の飲み物が水であるように。

 ここまでの手の込んだ仕事をするからには、アップルは同じ製品を1年に2種類も3種類もむやみに作ることはできない。

 すごい労力を払って、1年かけて次の年の“完璧”を作り上げるアップルの努力も、最近では世界中の大小の企業に簡単にマネされるようになった。だが、製品の表層やそこにあるアイデアは、簡単に盗むことができても、その核にある精神まで模倣することはできない。そして、その精神に本気を感じる社員たちも奪うことはできない。

 今なお時価総額で世界のトップに立ち、競合を大きく引き離すアップルにおいて、1番疑われていたのが、力強い経営者、スティーブ・ジョブズ亡き後の会社の核と邁進(まいしん)力だ。

 今回のWWDC 2013では、「Designed by Apple in California.」という署名を通して、その精神が再び示されたのと同時に、それを見事に形にした「Mac Pro」と「iOS 7」という2つの次世代製品も提示されたことで、アップルが再び力強く船出をしたことを印象づけたと思う。

 なお、iOS 7やOS X Mavericks、Mac ProやMacBook Air、新AirMacなどの新製品については、製品の公式ホームページに書いてあるので、細かいことまで触れないが、筆者が特に印象に残った新機能については、次の記事で触れる予定だ(後編→新しいアップルと、デザインが持つ本当の意味)。

「Activation Lock」――iOS端末の盗難を抑制する画期的な新機能

 Activation Lockは、盗難防止のために開発された機能だ。アップルのスマートフォンやタブレットは、他社製品と違い、発売から1〜2年たっても価値が高い。米国などではスマートフォンの査定機があるが、この引き取り価格の目安で、iPhone、iPadだけはケタ違いに高い数字が出る。

 こうしたことも手伝ってか、最近、iPhoneやiPadを狙った盗難が世界的に増えている。バルセロナで世界最大の携帯電話イベント、モバイルワールドコングレス 2013が開催された際も、1週間の間に筆者をはじめ、筆者が知っている日本人だけで5人ほど、日本人以外も入れるとさらに4人もiPhone(とiPadとMacBook Air)を盗まれた。

 盗難の目的は、中に入っている情報の場合もあれば、電話端末そのものを再販という場合もある。

 Activation Lockは、後者をできなくするためのもの。1度盗難の登録があったiPhoneは、その後2度と再び動かない、つまり「売れない端末」にしてしまうという画期的な機能だ。この機能が一般に広く知れ渡ることになれば、iPhoneは世界で初めて、「再販価値は高いのに、盗難価値はゼロ」のスマートフォンになる。


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