2016年に起きるPC市場の“二極化”とは?:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/3 ページ)
2016年からはPC業界内で3種類のグループが大きな動きを見せ、結果的に市場の二極化が進むと予想される。
世界的にPC業界の再編が進む1年になる予感
2016年は世界のPC事情が大きく変化しそうだ。国内だけを見ても大手PCメーカーの合弁会社のウワサが出ており、ビジネス市場向けに特化したパナソニックと、中国Lenovoとの合弁で事業を進めているNECパーソナルコンピュータを除けば、従来ながらの国内大手PCメーカーはほぼ1〜2社に収れんしつつあると言える。今回は年始1回目の記事ということで、PC業界で今起きつつあることと、今後数年の動向を探ってみよう。
2015年のまとめ記事として公開した「Windows 10よりSurface Bookが気になった2015年」の最後でも少し触れたが、2016年以降はPC業界内の3種類のグループが大きな動きを見せると予想する。これはPC業界だけでなく、スマートフォン業界についても当てはまる傾向だろう。
- グループ1 市場を去る、あるいは大きく組織体制を変更するメーカー
- グループ2 これを機会にさらに攻めに転じるメーカー
- グループ3 新規参入メーカー
グループ1――次の市場を見据えるプレイヤー
グループ1について、この転換点は「MicrosoftによるSurface Bookの発表」の影響が大きい。Surface Bookそのものが市場で大きなシェアを獲得するわけではないと思うが、既に事業縮小や市場撤退などを考えていたメーカーが「Microsoftが“このクラス”のPC製品で自ら参入してくるようでは今後も厳しい」と考えるには十分なインパクトがある発表だった。
IDCが10月に発表した2015年第3四半期(7〜9月期)のPC市場調査報告によれば、PC全体の出荷台数は前年同期比で約10%の減少となっており、近年台数を伸ばしていたAppleを含め、PCメーカー全体に波及している現象だ。
現在の世界PCメーカーのトップ5は上から順番にLenovo、HP、Dell、Apple、Acerとなっているが、この5社で市場シェアの7割近くを占めている。恐らくこれより下の水準のメーカーは市場縮小の影響がさらに大きく、これまでの体制や組織規模では事業を継続するのは難しい状態になりつつある。
2015年第3四半期、世界のメーカー別出荷台数とシェア(出荷台数の単位は千、出典:IDC) | ||||||
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ベンダー | 2015Q3出荷台数 | 2015Q3市場シェア | 2014Q3出荷台数 | 2014Q3市場シェア | 成長率 | |
(1)Lenovo | 14,937 | 21.0% | 15,699 | 19.7% | −4.9% | |
(2)HP | 13,905 | 19.6% | 14,715 | 18.5% | −5.5% | |
(3)Dell | 10,120 | 14.3% | 10,425 | 13.1% | −2.9% | |
(4)Apple | 5,324 | 7.5% | 5,514 | 6.9% | −3.4% | |
(5)Acer Group | 4,997 | 7.0% | 6,746 | 8.5% | −25.9% | |
その他 | 21,693 | 30.6% | 26,459 | 33.3% | −18.0% | |
合計 | 70,976 | 100.0% | 79,558 | 100.0% | −10.8% |
現在、国内では東芝と富士通がPC事業の合弁会社を計画しているというウワサが話題になっている。東芝は2015年12月21日にPC事業の組織改編を発表し、2016年4月1日以降は新体制に移行する計画だが、これも将来的な(他社との合弁も含めた)国内PC業界再編をにらんでの動きだと言われている。同様に富士通も2015年12月24日、PC事業を2016年2月1日付で分社化し、新会社を設立すると発表した。
この国内のPCメーカー再編に関して、VAIOも合併候補の1社に挙がっているというウワサが出ているが、同社はこれを否定している。ただ、恐らくは今回が国内最後のPCメーカー大再編であり、その機会を逃してはならないと考えた一部の関係者が「VAIOを巻き込もう」と動いているのではないだろうか。いずれにせよ、国内各社入り乱れてのPC販売合戦はほぼ収束に向かうというのが全体の流れだ。
PC業界再編の動きを見せているのは日本国内だけではない。世界のトップグループとて例外ではない。例えば、業界2位のHewlett-Packard(HP)は2015年11月より「Hewlett Packard Enterprise」と「HP Inc.」の2つの組織に分割され、主にエンタープライズとコンシューマー向けソリューションの2社体制へと移行している。
かつてPC事業の売却で前任のCEOだったレオ・アポテカー氏が会社を追い出される騒動になったり、同氏の後継として2011年の就任時点では分社化に否定的だったCEOのメグ・ホイットマン氏だが、最終的に分社化を進める立場となった。分社化の理由はいろいろと言われているが、HPに移ったPCやプリンタ事業とEnterprise側のクラウドソリューションやデータセンター事業では、成長性も事業体制も大きく異なることが大きいだろう。
2015年10月にはDellがストレージ大手のEMCを買収すると発表したが、これもHPの分社化に近い動きだとみられる。エンタープライズやデータセンター事業は成長性も利益率も高い一方で、トップベンダー間での競争は激化しており、この競争力強化のために各社がしのぎを削っている。ストレージ最大手のEMCと傘下企業であるVMwareの獲得は、競争を優位にするための戦略の1つだ。
しかしDellは2013年の非上場化に際して投資ファンドらの多くの資本参加のほか、670億ドルという膨大なEMCの買収金額で資金が切迫しているという事情から、傘下企業であるSecureWorksのIPO(市場公開)など、市場からの資金調達を急いでいるとみられる。
何度かウワサに上っている「PC事業の売却」もこの延長線上にあると言われており、今後の成長性確保と会社体制維持のためにPC事業の切り離しが現実味を帯びつつあるというわけだ。Dellは現在非上場のため定期的な決算報告が求められていないが、先日米証券取引委員会(SEC)に登録された情報によれば、売上と利益ともに減少している。
今後の成長と流動資金確保のために事業売却が続く可能性が高いとみられており、事業規模こそ大きいものの、成長性に疑問符が付くPC事業はその筆頭候補になるのかもしれない。
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