争いは「スピーカー」を超えていく 急成長するスマートスピーカー市場の今後は?:特集・音声言語インタフェース最前線(2/2 ページ)
2017年秋から立ち上がり始めた日本のスマートスピーカー市場は、海外とは違った様相を呈している。2018年に現れる新しい技術が与える影響も、海外と日本では異なる可能性が高い。
争いは「スピーカー」を超える
あらためてまとめると、世界のスマートスピーカー市場において、Amazonが当面優位な状況にあるのは間違いない。それをGoogleが追いかけている状況だが、日本のみ、市場展開の時期の違いから、GoogleをAmazonが追いかける構図になっている。日本におけるLINE、他国におけるAppleはまだ大きな支持を得られていないが、その理由は、音声アシスタントの能力がトップ2社に対して見劣りする……との評価が影響していると予想される。
スマートスピーカーのハードウェアは、決して複雑なものではない。クラウド上のサーバと連携するため、音声を認識し、ネットからの情報を扱う「コア」な部分には、さほど高性能なハードウェアを必要としない。一方で、周囲のノイズ・環境音などの影響を排除しつつ、素早く持ち主の声を聞き取る「マイク」の実装にはノウハウが必要で、「スマートスピーカーとは、スマートマイクのこと」という技術者もいるほどだ。
なお、スマートスピーカーは、ITプラットフォーマー以外からも製品が出始めている。AmazonやGoogleの音声アシスタントを利用した「互換製品」の登場だ。この点において、トップ2社は他社の先を行っている。現在は互換製品よりも純正品の方がはるかに売れているが、今後製品の裾野が広がるという意味では、互換製品の存在は非常に大きな意味を持つ。
あまり知られていないが、Alexa対応スピーカーとGoogleアシスタント対応スピーカーとでは、性質が幾つか異なっている。
AmazonはAlexa対応スピーカーの開発情報を公開しており、比較的自由に開発することができる。そのため、どのような形状にするのか、どういう機器に組み込むか、メーカー側の判断の幅が広い。
それに対してGoogleは、俗に「ターンキー」と呼ばれる形態に近い契約になっている。Google Homeとほぼ同じものをすぐに開発できるものの、備える条件は「Google Homeとほぼ同じ」でなくてはならない。デザインやスピーカーの性能などは変えられるが、機能的にGoogle Homeから大幅に逸脱したものは作れない。
質のバラツキのないものをそろえるならGoogleのやり方が有利である一方、「スマートスピーカー」という形態にこだわらず、音声アシスタントを組み込んだ機器を作るにはAmazonのやり方の方が良い。この辺は、両社の機器に対する考え方の違いが見えているようで興味深い点である。
現在は「スマートスピーカー」市場の争いだが、これは氷山の一角だ。今後多くの家電に「音声アシスタント」の機能が組み込まれるようになっていくため、スマートスピーカーの争いはそのまま、「家庭内での音声アシスタントの争い」に変わる。
既に述べたように、Amazonは自社でEchoという強いデバイスを出しつつ、他社も自由にAlexaを使ったデバイスを開発できる体制を整えている。ベンチャー企業が大手を出し抜くなら、Alexaの力を借り、家電そのもののユニークさで勝負する方が勝算はある。海外のテクノロジーイベントでは、Alexa対応家電の姿が増えてきているが、それはここに背景がある。
一方Googleは、「Android」という強力なOSを持っていることを武器にする。テレビ・STB(セットトップボックス)向けのOSである「Android TV」は、最新バージョンの「Oreo(Android 8.0)ベースのものから、Googleアシスタント機能をビルドインする。テレビのリモコンなどのマイクを通じて話し掛ければ、「巨大なディスプレイの付いたスマートスピーカー」として働く。
また、同じくAndroidをベースに、ディスプレイの付いたシンプルな音声アシスタント端末である「スマートディスプレイ」を開発するソリューションも提供しており、2018年第2四半期には最初の製品が、Lenovoなどから登場する予定になっている。
そしてもちろん、AndroidをOSに使うスマートフォンには標準でGoogleアシスタントが搭載されており、「家庭で使われている音声アシスタントの総計」だと、Googleは今でもAmazonを超えるシェアを持っている……と考えることもできる。
当然、トップ2社以外も「戦いの本筋はスピーカーの先にある、音声アシスタントの戦い」であることを知っている。だが、現状においては、スマートスピーカーで先行した2社が先に体制を整えつつあり、追い付くのが難しい状況だ。
外部アプリは伸び悩み、機器連携は「他機種対応」が軸か
スマートスピーカーを巡る、残る争いは「外部機能」だ。ここには2つの意味がある。
1つは、音声で「音声アシスタントに備わっていない、他社の機能を使う」ものだ。スマホでいうアプリに相当するものだが、Amazonでは「Skill」、Googleアシスタントでは「Googleアシスタントアプリ」と呼ばれている。Amazon・Googleともに、これら外部アプリのリクルートに懸命だ。スマホではアプリの魅力が普及をけん引したため、「外部アプリの数が勝負を決める」と見る人々もいる。
だが、筆者はその意見には賛成しない。現状、これらの外部アプリは利用率が非常に低いからだ。音声外部アプリの複数の開発者は、筆者に対し、「利用率・継続率が低い」と訴える。1カ月経過後の継続利用率が数%の例が多く、ほとんどの音声外部アプリは「うまくいっていない」「価値が生かせていない」のが実情だ。
これは恐らく、いちいちアプリストアを確認し、新アプリを追加する人が非常に少ないからだろう。音声で操作する以上、うまく音声連携が実現されていないアプリは価値を認めてもらいづらいのだ。
例外的に、日本で圧倒的に使われているのが、ラジオ番組を聴ける「radiko.jp」だ。これは、各社が音声アシスタント側の標準機能に近い形で連携を進めたこと、「ラジオ」というコンテンツの魅力が高く、スマートスピーカーと価値がマッチしたことなどが理由である。
今後拡大が見込めるのが、もう1つの連携である「外部機器連携」だ。照明やエアコンなど、家庭内でネットと連携する家電については、今後、スマートスピーカーとの連携が広がる。こちらについては、連携家電の数が製品の魅力に直結する可能性が高い。
しかし、各メーカーの動きを見ると、「どこかのスマートスピーカーにしか連携しない家電」を作ろうとする動きは意外と少ない。どの音声アシスタントであっても、連携させるためにやらなければいけないことは似たようなものであり、「複数の音声アシスタントに対応する」機器の方が多くなりそうな印象だ。
極端な例でいえば、ソニーのテレビ「BRAVIA」のアメリカ向け製品は、自分自身がGoogleアシスタントの機能を持っているにもかかわらず、自宅にあるAlexa対応機器とも連携し、声で操作する機能を持っている。
タイミングは多少ずれるかもしれないが、「トップ2社の製品には対応する」家電が増えていくのではないか、というのが筆者の予想である。
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