iPadルネサンス――文芸復興を目指した新しい「iPad Pro」(3/3 ページ)
全てが新しくなった「iPad Pro」は、どこ一つをとっても新鮮な驚きに満ちた製品だ。その魅力を林信行氏が解説。「あの男の復活を感じた」(林信行)
iPad Pro文芸復興
それではiPad Proが、「製作」にどれだけ向いた製品なのか。あいにく筆者は、新Apple Pencilの絵筆としての質を評価するのには不向きなので、その点の評価は他のレビュー記事に譲りたい。
その分、新たに背面カバーの役割も備えたSmart Keyboard Folioでの文章入力について紹介しよう。
2017年のiPad Proからキーボードに新たに日本語のJISキーボードが用意され、「かな」キーと「英数」キーを使って入力する文字種の切り替えが可能になった(ちなみにBluetoothで接続したMac用キーボードでも「かな」キーや、「英数」キーがきちんと反映された)。
これまでiPad Proでキーボードを使うと、文字種を変更する度に画面に「ひらがな」「英数」など、現在の入力モードを示す表示がふわっと現れた。あのまどろっこしい表示もなくなり、PC同様、「かな」キーを押せば何も表示されないが勝手にかな文字が入力され、「英数」キーを押せば、アルファベットに切り替わる。わずかなことのように見えて、これだけで文字入力がかなり快適になり、ようやくPCとほぼ同じ快適さで文字入力ができるようになったと思う。
そこに加えて12.9インチモデル用のSmart Folio Keyboardだとアルファベット以外のキーもPC用キーボードと同じサイズで快適に入力できる。少なくともこの記事の原稿は、最初から最後までiPad Proで執筆しているが、キーとキーの隙間が少し大きめで、そこに少し慣れを要したことを除けば、Macで書くのと全く変わらない感触で原稿が書けた。
画面の明るさや発色でMacBook Proすら上回ってしまった液晶ディスプレイ(Liquid LCD Display)も素晴らしく、打ち込んだ文章を眺めるのは快適そのもの、休憩からもどってきたときに、Face IDでロックが解除され、すぐに作業に戻れるのもいい。画面分割ができるとはいえ、全画面操作が基本のiPad Proだと、PCのようにメールやWebブラウザなど背景の余計なアプリに邪魔されて気が散ることもなく、より仕事に集中できるとすら感じた(レビュー機にアプリをあまり入れていないのも一因だろうが)。
唯一の難点は、ワープロやテキストエディタといった文章入力のアプリの種類がPCよりも限られていることだが、Pages、Microsoft Wordといった定番アプリは出ているので、これらのアプリを使っている人であればその点も不満に感じないだろう。
デジカメを接続すれば、さっと取り込み画面に切り替わり、写真の加工の道具にも切り替わる。そして、ここがミソだが、そこにPCほどOSというものの存在を意識しない。
このiPadの大事な本質を継承したまま、PCを上回る処理性能と、PCと同等の周辺機器接続を手に入れたiPad Pro。
まだまだ人によっては複数写真の同時選択の操作に馴染んでいなかったり、細かな点で不自由を感じたりする部分もあるかもしれないが、もはやこのiPad Proの登場で、ほとんどの不満点に対しての解決策は施されたと思う。
あとはこの新しい形状、新しい操作で使う道具によって、これまでとは違ったどんな新しいデジタルITの活用を生み出すのか、もはやボールはアプリ開発者や利用者の側に委ねられているのを感じた。特に機械学習(AI関連)の処理で驚異的な威力を発揮する新プロセッサ「A12X bionic」がこれからどんな新世代アプリを生み出してくれるかには大きな期待が持てそうだ。
14世紀に始まったルネサンスの流れは、レオナルド・ダヴィンチやミケランジェロを生み出し、人類の物の見方、考え方にも大きな変化をもたらした。
AppleとAdobeは1990年代に、PCで起こったデジタル制作の文化を、ペン操作ができるiPad Proで再興させようと挑んでいるが、果たしてそのもくろみ通りになり、ここから新しいデジタルコンテンツの文化が花開くのか――新iPad Proは10年後の未来に改めて振り返ってみたくなる製品でもある。
撮影協力:マルニ木工(橋爪沙織氏)
今回の新製品を撮影するにあたり、ジョナサン・アイブが気に入り、Apple新社屋に何千脚と導入されたHIROSHIMAチェアを作るマルニ木工さんのショールームにご協力をいただきました。
- maruni Tokyo
- 住所:東京都中央区東日本橋 3-6-13
- Webサイト:www.maruni.com
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