そのクラウドファンディング製品が納期通りに届かない理由:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
PCやスマホの周辺機器は、海外製品を買いつけてきて自社製品として販売する手法が当たり前。昨今はこうした取り売りビジネスがクラウドファンディングで行われるケースも増えつつあるが、納期通りに届かなかったり、品質がボロボロだったりといった問題が生じることも少なくない。こうした問題の背景をみていこう。
ベンチャー発のガジェットも図式は同じ
ここまで見てきたのは、ほぼ完成品に近い製品を取り売りで仕入れるケースだが、ベンチャーが全く新規のガジェットを企画し、海外の業者に製造を委託する場合でも、基本的に図式は同じだ。
中でも、納期の遅延をソフトウェアのバージョンアップで挽回しようとするものの、最終的にコケるパターンは、もはやお約束といっていい。近年はオンラインアップデートにより、ユーザーの手に渡ってからソフト面の改善を行うことが可能になったが、経験が浅い担当者の手に掛かると、この便利な仕組みもトラブルによる納期遅延の特効薬として使われてしまう。
どういうことかというと、トラブル続出で納期が間に合わず、予約していたユーザーや仕入を予定していた販売店からの苦情は殺到、また営業部などからもクレームの嵐という場合、担当者はお茶を濁すために、後日のファームウェアアップデートを前提に、ひとまず不完全な状態でガジェットを出荷する、という逃げ道に走るわけである。
ガジェット好きな読者の皆さんは、納期遅延を繰り返しようやく発売に至ったものの使い物にならず、ネットで悪評が飛び交ったベンチャー発のガジェットと聞いて、製品が幾つも思い浮かぶのではないだろうか。こうした製品は、その後ソフトウェアアップデートを繰り返すものの、ようやく最低限のレベルに達した頃には既にダメ製品という評価を確立しており、そのままフェードアウトしていくことがほとんどだ。
もとを正せばこれは、製造面でのノウハウが少ないために、納期を甘く予測してしまったことが原因だ。これが百戦錬磨のサードパーティーメーカーであれば、甘い納期予測に対して社内でチェックが入り、万一のトラブル発生時のバッファも含めて現実的な納期が提示されるわけだが、新規事業として参入してきたベンチャーにはそうしたノウハウがなく、容易に落とし穴にはまってしまう。
国内クラウドファンディングは逃げに走っている?
さて、実はここまで見てきたケースは、クラウドファンディングにもそのまま当てはまる。海外のクラウドファンディングもそうだし、それらの取り売りを行っている、国内のクラウドファンディングでも同様だ。
特に最近は、卸業者なのかメーカーなのかはっきりしない事業者が、国内クラウドファンディングで海外のITガジェットを取り扱うケースが増えているが、上記のようなトラブルに対するノウハウの有無は、これまでの経験によって、かなりの差があるのが実情だ。
これに加えて、元の製品を作っている海外のメーカー自身が経験が浅いことも多いので、たとえ国内の事業者が納期面をしっかり管理していても、元の事業者が予定通りに発売できないケースも少なくない。つまり元の事業者と、国内の事業者とで、それぞれ品質面や納期面でトラブルが発生する可能性があり、結果としてリスクは高くなりがちというわけだ。
以上が、クラウドファンディングで製品が納期通りに届かない理由なのだが、とはいえ国内で行われているクラウドファンディングに限れば、最近はそこまで規模の大きい品質面や納期面のトラブルは、ほとんど見聞きしなくなりつつある。
というのも、最近では前述のようなリスクを避けるため、海外のクラウドファンディングと同時進行させるのではなく、海外できちんと量産体制が整って市場に出回り、製品に問題がないことが見届けられた時点で、国内の業者がクラウドファンディングを行うケースが増えているからだ。よく言えばリスク管理ができているともいえるし、悪く言えば逃げに走った結果でもある。
少し手間を掛けて探せば海外で普通に売っている製品が、わざわざ国内のクラウドファンディングで「日本上陸!」などと大々的にアピールされて売られるという、おかしな状況が多発しているのは、そうした事情によるものだ。中には米Amazon.comどころか、普通にAmazon.co.jpで販売されている製品が、クラウドファンディングで高値で売られていることもあるほどだ。
しかしながら国内クラウドファンディングを利用するユーザーは、そうしたことをあまり調べないのか、少なくとも数百人単位ではきちんと出資者を集め、ビジネスが成立しているのが面白い。「国内のクラウドファンディングで売られているITガジェットは本当の意味でのクラウドファンディングではない」とよく指摘されるが、その背景には、こうした事情が存在しているというわけだ。
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