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「iPadOS」で今度こそ“iPadがモバイルPC代わり”になるか PCユーザー視点からβ版を試して分かったこと本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

2019年秋のリリースに向け、「iPadOS」のパブリックβが登場。仕事ではタブレットではなくパソコンを使い続けてきた筆者の視点から、「12.9インチiPad Pro」にiPadOSのβ版をインストールし、ノートパソコン代わりに使ってみたインプレッションをお届けする。

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iPadOS
米Appleは6月24日(現地時間)、「iPadOS」パブリックβの提供を開始した。写真は、iPad OSのβ版を入れた「iPad Pro」を「MacBook Pro」に接続して利用している様子。iPadOSの正式版は2019年秋のリリース予定

 「iOS」から「iPadOS」へ。この名称変更は、これまでiPadをモバイルパソコンの代わりに使いたいと思いつつも諦めてきたユーザーにとって、希望の光なのだろうか。

 スマートフォンと共通のOSではなくなったことで、どこまでiPadの可能性を引き出せるのか。もし生産性ツールとしての可能性を引き出せたなら、あるいは「iPad」、とりわけ外付けキーボード兼カバーの「Smart Keyboard」が提供されている「iPad Pro」はその存在意義が変わってくる。

 とはいえ、筆者は基本的にiPad Proの文書作成能力には懐疑的だ。本誌(ITmedia PC USER)に寄稿しているのだからあらためて言うまでもないが、筆者は生粋のパソコンユーザーだ。これまでにタブレット端末だけで仕事をしたいと思ったことは一度もない。単純に仕事にならなかったからで、これは昨年発売されたiPad Proの最新モデルでも変わらない。

 とりわけ日本語入力の問題は大きい。Androidタブレットであれば、ハードウェアキーボードと「ATOK」などのIMEを組み合わせる手はあるが、iPadはハードウェアキーボードにサードパーティー製の日本語入力ソフトウェアの利用を許していない。

 それならiPadではなく、Microsoftの「Surface Pro 3」以降ならば、仕事用のタブレットとして十分じゃないかというかもしれないが、Surface Proは本質的にWindows PCだ。もちろん、ペンを使えるタブレットスタイルのハードウェアでもあるが、iPadやAndroidタブレットとは異質の製品である。

 昨年発売されたiPad Proの新モデルは、その能力や美しいディスプレイ、「Apple Pencil」の書き味など、さまざまな面で多くのノートパソコンより優れた側面を持っている高性能なコンピュータだが、それでもこの端末で日常の業務をこなしたいかといえば、そこまでには至らない。

iPad Pro
昨年発売された新しい「12.9インチiPad Pro」

 Apple自身、発表会ではクリエイター向けツールとして強く訴求していたものの、iPadをモバイルパソコンの置き換えとしては強く押し出していない。「MacBook」や「MacBook Pro」があるのだから、これは当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。しかしながら、その事情は(ある程度予見はされていたが)iPadOSの登場で変化しそうだ。

 これまではiOSだけで、複数世代のiPhoneとiPadをサポートしてきたが、iPhoneとiPadはハードウェアのアーキテクチャこそ近いものの、プロセッサの能力や搭載メモリ容量などが異なる。iPad専用に開発するならば、画面サイズの違いや純正で用意されるキーボードも含め、異なる機能の実装ができそうだと期待できる。

 ということで、前口上が長くなったが、パソコンでしか仕事をしてこなかった筆者の視点で、「12.9インチiPad Pro」にiPadOSのβ版をインストールし、ノートパソコン代わりとして使った際のレビューを書いてみたい。

iPadOS
「iPadOS」のβ版。ホーム画面には、「今日」表示のウィジェットが配置され、アクセスしやすくなっている

iPad Proをモバイルパソコンとして使うことが難しかった理由

 パソコンの操作に慣れた身からすると、そもそも分割表示機の「Split View」や、「Slide Over」と呼ばれるポップアップするウィンドウを駆使し、さらには単一アプリが開く複数の文書を一覧して選択できる「Expose」など、マルチウィンドウで扱うような操作手順をiPadで使うための作法を覚えねばならないというハードルが、まずはある。

 「3本の指で選択したテキストをつまむとコピー」「3本指で開くとカーソル位置にペースト」、他にもテキスト選択時のタップの使い方など文字列の扱いも直感的とは言い難いだろう。実際に試してみると、なるほど簡単に操作できるのだが、調べて覚える必要がある(キーボードで操作すれば事足りることだが)。

iPadOS
「Split View」を使った2枚のWebページ同時表示

 とはいえ、これはあまり大きな問題ではない。iPadではパソコンのように多数のウィンドウを同時に表示して操作はできないが、ほとんどの操作は2つの作業領域を同時に表示できれば進められる。最初の一歩として、作法を学ばねばならないことは致し方ないとして、出先で使う手軽なコンピュータという魅力があるなら習得すればいいだろう。

 しかし日本人の場合は、日本語入力がやや高いハードルになっていた。その次に来るのは、恐らくデータの扱いに関するものだろう。iOSにも「ファイル」アプリが用意されたものの、機能的な制約は小さくなかった。

 セキュリティ上のことを考えれば好ましいといえなくもないが、USBメモリの接続には制限があり、LANでつながるはずのNASにアクセスする手段もない。データを共有したければ、まずはクラウドへと書き出すなどの工夫が必要だった。

 iOSの共有機能もややくせ者で、筆者がいつも使っているテキストエディタ「Ulysses」のiPad版から文書ファイルを生成して共有しようとすると、相手先のアプリによっては正常にファイル共有できない場合ある。例えば「Facebook Messenger」への共有では、何らかのアイコンらしきものは送信されるが、その中身は開けないといった具合だ。

 もちろん、純正の「iMessage」などでは正常に共有できるのだから、純粋にアプリ側の問題ともいえるが、結局のところいったんMicrosoftの「OneDrive」にアップロードするのが一番シンプル(だと筆者は感じた)だったりと、一体何のためにシンプルな道具を望んでiPadを選んでいるのか分からない状況にすらなってくる。

 新たな操作性を習得するのは難しい話ではないが、データのハンドリングまで制約やノウハウが必要となると、「何のためにiPad Proを使うのか?」という疑問に立ち返らざるを得ない。

 「別にiPadをそこまでして使わなくてもいいのに」――Apple Pencilのようなペン入力などを不要としているパソコン派ユーザーの多くは、そうした結論に行き着く。

 しかし、iPadOSとなって幾つか事情が変化してきた。AppleのWebページでiPadOSの情報を見ると、より情報ツールとしてリッチに、パソコン的な使い方も可能になったことが訴求されているが、本当に評価すべきなのはもっと“地味”な部分にある。評価すべき点は3つだ。

  • 日本語入力
  • ファイルの扱い
  • Webブラウザ

 この3つに関して納得できれば、モバイルコンピュータとしてのiPad Proは、用途次第でノートパソコン代わりになり得る。

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