エストニアに住む日本人が見たEduTechの実態と課題──親と学校の対立はITで解消できるか:tsumug edge(2/2 ページ)
「電子国家」として世界の注目を集めている北欧のエストニア。その実態について、エストニアに移住した筆者が見た電子国家のリアルをお届けする。
EduTechが解決できていない課題
eKoolは、入力が多くて面倒という側面はあるが、導入されて長いので使う側は比較的慣れているようだ。最近はスマートフォンもあるため、データの入力やチェックも簡単になってきた。それでも教師と親が幸福になっているかというと、個人的にはまだまだそうでもないなと感じる。
妻のプリスクールは2〜5歳の子供が在籍しており、全学年が一緒くたになって授業を受けている。ケンカで暴力を振るう子供がいたとき、妻がしかったことがあるが、その子の両親がやってきてプリスクールの経営者に文句が行き、経営者から妻が注意を受けた。ことの経緯はeKoolに書いてあるが、「子どもの情操教育も含めて学校の仕事だろう」という親を前にしては、オンラインでいくら詳細な経緯を説明してもあまり意味はない。
また、冬にある教師が辞めることになり、そのクラスを妻が持つことになった。しかしそれが親に知らされたのはクラス替えの2週間前だった。当然「説明してほしい」と生徒の親が学校に来た。授業の進行状況、使っていた教材などは共有されていたが、親はもっときちんとした説明を欲しがっていた。
eKoolで成績や宿題の提出状況が見え、出欠席が見えても、親の不安は消えないのだ。それが学校の現場と親の間に溝を作っている。これは日本でも変わらない話じゃないだろうか。
「学校と親のチーム化」をいかにデザインするか
トイストーリーなどで有名なPixarという会社では、監督同士が集まって特定の作品の進行状況を確認しながら、かなり手厳しい批判を交わす会がある。しかし、この批判を当の監督は受け入れて改善すべきものは改善する。
その時に彼らがメタファーとして使うのは、病院の医師会だ。もし患者の治療法が間違っている可能性があったとしたら、自分の患者じゃないからといって見過ごすだろうか。作品は患者であり、当の監督は主治医だ。他の監督は、その患者が少しでも良くなるようにあらゆる情報を共有してもらい、一緒に考える。
学校の教師も親も願うことは1つで、その生徒が幸せに成長してくれることだ。でも気がつけば対立し、お互い責任のなすりつけあいになりがちである。教師も生徒の数が多くなればケアしきれずにパンクする。ソーシャルな機能を付けたから解決、という類のものではなく、教師も親も、共同責任で同じ子供の同じ情報を持ちながらチームになっていかなければならない。実装よりも運用に重みがある。
冒頭の数学者ラマヌジャンが亡くなったのは、菜食主義者の彼が食べられるものが戦時中の当時、なかなか提供されなかったからとされる。もし大学が彼の母親とコミュニケーションがとれており、その食事のサポートのために妻が必要だと伝えられていれば、彼はもっと長くケンブリッジで研究を続けられたかもしれない。彼の世界に対する業績やその日々の生活についてもっと密に知れていれば、母親も妻も安心できたかもしれない。学校と親のコミュニケーション次第で、世界の歴史が変わったかもしれない。
EduTechは「学校と親のチーム化」をいかにデザインし実装できるかだなあ、と僕は思う。
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