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九州大学やAtCoderらが手がける課題解決人材を育てる「アルゴリズム思考」教育とは何か?講義をDX、地域課題も解決し人材育成も(2/3 ページ)

2020年8月、九州大学やAtCoderなど5者が、産学協同での研究や地域の課題解決のための協働事業、さらには人材育成などを目的に包括的な協定を締結した。その注目すべき取り組みを紹介する。

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社会課題解決の実績を持つ高度IT人材の輩出が目標

九州大学DX
ネットゲーム感覚でプログラミングの技を競い合うことで、参加者のプログラミング能力を向上させるとして注目を集めているAtCoderの生みの親。高橋直大氏

 アルゴリズム思考を広める本プロジェクトでは、3つのフェーズを用意している。

 第1フェーズでは先に先に紹介したオンライン型プログラミング教育パッケージ(仮称)を開発し、広めることに主眼を置いている。

 最初は九州大学の情報科の学生や、九州大学の全学生が受講できるアントレプレナーシップ教育のプログラム「QREC(九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター)」を通して提供するが、その後、他の学科や他大学にも広めていく計画だ。

 この第1フェーズがある程度形になり始めた2021年、並行して第2フェーズがスタートする。第2フェーズでは、福岡市や外郭団体といった行政組織と連携し、学生が取得したITスキルを使って地域課題の解決に挑むという。またコンソーシアムをつくって企業の誘致を図ろうという構想もある。

 冒頭で触れたオードリー・タン氏の活躍が世界的に注目を集めた例を挙げるまでもなく、今日、社会課題の解決においてITをうまく活用することは必要不可欠となりつつある。第2フェーズには、これを実践し、大学生のうちに自らのITスキルで社会課題を解決した実績を学生に与えようという狙いがある。

九州大学DX
QREC(九州大学 ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター)のホームページ

 AtCoderの代表である高橋直大氏によれば、実はAtCoderでも課題解決型の取り組みはあったという。AtCoderは、Microsoftのプログラミングコンテストで世界3位になった経験も持つ高橋直大氏の会社だ。

 トッププログラマー達が「ネットゲーム感覚」でその能力を競い合う「競技プログラミング」の場で、最近、世界中のIT企業が優秀なエンジニアを発掘する場としても注目を集めている。同社のプログラミングコンテストは通常2時間ほどのゲーム形式で展開されるが、たまに、他社とコラボレーションし2週間ほどかけて開催することがあるという。

 例えば、ウェザーニューズと共催した回では、同社で問題になっていた巨大な気象データの画像の圧縮がテーマとなり、参加者らがより効率的な圧縮アルゴリズムの開発を競い合ったという。つまり、ただ能力を競うだけでなく、その能力を使って企業の課題の解決に取り組んだのだ。

 この例では、かなり数学的な知識が必要な印象を抱いてしまうかもしれないが、文系の学生でもアルゴリズム思考で社会課題を解決できると安浦副学長は補足する。

 「今では、既存のテクノロジーをうまく組み合わせて課題を解決することが増えてきた。開発した課題解決方法をどう社会実装するか、どうやって人々の行動変容を促すかを考えることも含めて、文系の学生の活躍が期待される部分も多い」(安浦副学長)

 例えば、九州大学と最も近い電車の駅との間は車で10分(4Km以上)の距離があり、ほとんどの学生はバスを利用しているが、このバスが混雑する。現在、バス停には九州大学が混雑具合を把握すべくWebカメラを設置しており、AIを使って並んでいる人数を数えたりすることが可能になっている。これに公開済みの過去の実績データなども絡めて、いかに学生たちに混雑を回避する行動を促すかなどは、文系学生でも取り組める良い課題だと安浦副学長は言う。

 同様にQRECからは、アルゴリズム思考を使った新しい時代の医学や新しい会計ソフトなど、デジタル時代の視点で提案される新しい課題を想定した起業アイディアが出てくることを期待しているという。

 そのような九州大学のアルゴリズム思考の教育プログラムだが、2022年から始まる第3フェーズでは、地域や企業の課題を解決する実績を得た学生たちを、能力に見合う企業とマッチングするジョブマッチングが要となっている。

 同大学ではGAFAに代表されるグローバルなIT企業はもちろん、九州に拠点を置き、日本全国あるいは東アジア圏で展開するメガベンチャー企業や大学発ベンチャーの擁立も視野に入れて展開していくという。

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