最新の四半期決算にみるMicrosoftとWindowsとPCの関係:Windowsフロントライン(1/2 ページ)
新型コロナウイルスの影響で好調な決算を残したMicrosoft。クラウドシフトが反映された結果だが、Windowsの行く末が今後の同社を左右するという。その理由は?
米Microsoftは10月27日(米国時間)、同社会計年度で2021年度第1四半期(2020年7〜9月期)決算を発表した。既報の通り、同四半期の売上は372億ドルで前年同期比12ポイントのアップ、営業利益は159億ドルで25ポイントのアップ、純利益は139億ドルで30ポイントのアップだった。
新型コロナウイルスの影響を反映した決算
記事中の解説にもあるが、いわゆる“巣ごもり需要”が業績を押し上げており、Microsoft 365を含むクラウド関連の事業やSurface、そしてゲーム関連が好調だった点が特徴として挙げられる。
クラウド事業でもAzureは好調で、例えば同社が「Intelligent Cloud」の名称でカテゴライズする事業において売上は前年比20ポイント増、営業利益にいたっては39ポイントも増加しており、この多くがAzure事業における48ポイントの売上増加を反映したものとなっている。
オンプレミスをターゲットとしたサーバ製品が減少傾向にあることを考えれば、Microsoftならびにその顧客は確実にクラウド側に軸足を移しつつあるといえる。同時に、Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏は同決算会見で、Microsoft Teamsの月間アクティブユーザーが初めて1億1500万人を超えたことを公表した。過去には、2020年4月末時点で7500万人、2019年10月時点で1200万人であり、利用者が1年足らずで10倍まで急増したことが分かる。
その原因は、もちろん新型コロナウイルスであり、2020年3月以降に利用者が急増して現在の水準に落ち着いたという流れだ。Microsoftのコミュニケーション担当リードのフランク・ショー氏によれば、直近の四半期では1日あたり300億分のコミュニケーションがTeams上で行われたということで、それだけ膨大な処理を吸収するプラットフォームとして機能していることになる。
MicrosoftにとってのWindows
このように業績だけを見れば極めて良好で、かつクラウドシフトが進んでいることが垣間見える四半期決算だが、必ずしもそういった評価がなされているわけではないようだ。
特に気になったのがWall Street Journal(WSJ)の「Windows Fogs Microsoft’s Outlook」というタイトルのレポートで、文字通り「(クラウドは好調だが)Windows(での業績)がMicrosoftの見通しを曇らせる」と指摘している。
記事の趣旨は、長らくWindowsに依存してきたMicrosoftがその状況から脱しつつある一方で、いまだにその業績に与える影響は少なくないというものだ。同社はWindows 95がリリースされた1990年代後半から2000年代にかけて、その売上をPCにバンドル販売されるOSライセンスに依存し、Office製品との両輪で業績を伸ばしてきた。
転換点となったのは、おそらく2008年のリーマンショック前後におけるPC販売の停滞と落ち込みで、ちょうど同時期にMicrosoft CTOだったレイ・オジー氏が「Windows Azure」をPDC 2008で発表し、当時のCEOであるスティーブ・バルマー氏の後期から、現CEOのサティア・ナデラ氏において大胆にクラウドシフトを進めたことで、今日のMicrosoftを築くことに成功している。
クラウドシフトで出遅れたIBMが、業績面で2000年代後半に苦戦していたことを考えれば、10年を経てビジネスモデルを着実に変化させてきたMicrosoftの巧みさが改めてクローズアップされることになる。
現在のMicrosoftは「Productivity and Business Processes」「Intelligent Cloud」「More Personal Computing」の3つの事業領域で業績を区切っているが、PC事業は3つめの「More Personal Computing」に含まれる。この3つはほぼ同程度の売上となっているが、成長率などを鑑みて「Productivity and Business Processes」「Intelligent Cloud」は今後も大きく上昇を続け、「More Personal Computing」との差は開いていくものと考える。
営業利益率でいえば、既に前2者は「More Personal Computing」を引き離しており、これは理由の1つに「More Personal Computing」がSurfaceやXboxなどのハードウェア事業を含んでいることが挙げられると考える(ソフトウェアやサービス専業に比べて営業利益率が低く出る傾向がある)。
問題は、決算の説明資料にある「Windows」事業の説明部分だ。事業全体としては個人向けのMicrosoft 365事業が好調なこともあり、前年同期比で売上は6ポイントの上昇となっているが、Windows単体では4800万ドル減少の1ポイントマイナスとなっている。
具体的には企業向け(Commercial)のWindows OEMライセンスの不調で、個人向けが中心となるWindows OEM non-Proの売上が31ポイントの上昇だったのに対し、企業向けが中心となるWindows OEM Proは22ポイントの減少となっている。
この対比は、コロナ禍により家庭でのPC需要が特に高まったのに対し、企業向けでは不調だったことにある。企業の設備投資が停滞しているのもさることながら、2019年というのは2020年1月の「Windows 7の延長サポート終了」を受けて特にPCのアップグレード需要が盛んになった年でもある。このインパクトが二重になってのしかかっており、現在の事業領域別集計に移行して以降、最悪の下落水準になったとMicrosoftは説明する。同様に、前年の好調さの影響が翌四半期へも続いていることから、2021年度第2四半期決算においてもWindowsのライセンス事業は引き続き下落傾向にあるとも予告している。
クラウドシフトが進んでしまったから、今後もWindows事業そのものが縮小してしまっていっても問題ないと考えたいところだが、それに異論を唱えるのが前出WSJのレポートということになる。
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