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Appleがヘッドフォンの極限を目指すとどうなるのか? 「AirPods Max」への期待(2/3 ページ)

Appleが12月8日に発表したオーバーイヤータイプのヘッドフォン「AirPods Max」。同社が目指した“Max”は何なのか。12月15日の発売を前に、林信行氏が考察した。

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2020年のAppleにできる最高の音質

 では、肝心な音はどうかというと、一般的なヘッドフォンの中では高価格帯ということもあって、やはり、この部分に力を入れているのだろう。オーディオ好きや製品デザインに興味がある人には、是非とも研究してほしい部分だ。

 まず機構的な部分から紹介していく。

 ニットメッシュの内側にあるのは、同社が独自開発した40mm径のダイナミックドライバーだ。ドライバーは、強力な磁力を持つネオジウム磁石のモーターを使用する。これは高級なフロアスタンドスピーカーなどに使われる最強の天然磁石だ。この磁石の採用により、最大音量を含む全音域で生じる音の歪みを1%未満に抑えているという。

 だが、強力な磁石で正確な振動を生み出したからといって、全ての人がどこにいても完璧な音を楽しめるとは限らない。今いる場所や人の耳の形、髪型によってもイヤーカップ内の密閉度や気圧は変わる。

 そこでAppleは、まず独自設計の排気弁を用意して、空気圧の違いなどで振動板に影響が出ることを防いでいる。

AirPods Max
内部の機構。ダイナミックドライバやアクティブノイズキャンセリング用のマイクなどで構成される

 と、ここまでもかなりすごいが、実はこれもまだ序の口だ。こうやって機構的にも最高の音を鳴らせる状態を作っておいた上で、同社は最近お得意な“Computational”、つまり機械学習を使ったデジタル処理による高音質化も行っている。

 iPhone 12 Proが、機械学習処理によって、他のカメラでは撮れない、頭の中における印象通りの風景を捉えて再現してくれるように、AirPods Maxも、HDR、つまり極めてダイナミックレンジが広い超リアルな音を再現すべくチューンされているようだ。

 そのオーディオ処理を行っているのが、本製品では何と2つ搭載されているというH1プロセッサだ。それぞれにオーディオ処理をするためのプロセッサコアが10個搭載されており、毎秒90億の音の処理が実行できるという。恐らく、これまで発売されたあらゆるヘッドフォンの中ではMaxの性能だろう。

 だが、そのMaxの性能で何をやっているのか。利用者の耳に届く音をモニターして調整しているのだ。同社がAdaptive EQと呼ぶ技術で、イヤーカップ内の中音域と低音域の音をリアルタイムでモニターして調整し、その際にAirPods Maxの装着感や密閉度なども機械学習により判別しているようだ。

 人はどんな髪型をしているか、眼鏡をかけているか否かでも、ヘッドフォンの密閉度やフィット感は変わってくる。こういったことを全て考慮した上で、常にできる限りMaxの音質を実現するための「音質専用AIプロセッサー」を2個備える。いったい、どこまですごい音になるのか楽しみではないか。Appleはこの技術により、音楽に詰まったあらゆるディテールが耳の中で再現されるとしている。

 もちろん、これに加えてAirPod Proでも実現している「空間オーディオ」などの技術も搭載済みだ。

AirPods Max
アップデートでAirPod Proが対応した空間オーディオ技術も備えている

 AirPods Proのアップデートで実現した技術のため、まだ試していない人がいるかもしれないので簡単に解説するが、初めて体験すると衝撃を受けるほど驚異的な機能だ。

 例えば、あなたがヘッドフォンをつけてMacで映画を見ていたとしよう。右から列車が迫ってくるのが音でも分かる。ここで、あなたが急に左肩をたたかれて首を横に向けたら、どうなるだろう? 電車が迫ってくる音は、首の向きは変わったのに相変わらず右耳から迫っており、映画の中での列車の動きと、音の動きに破綻が生じてしまう。

 ではヘッドフォンを外したらどうなるのか。実は最近のMadにおける臨場感のある音は、特殊なソフトウェア技術を使い、自分の顔が画面の方を向いている時に立体的な音が生じるように設計されている。つまり、横を向くと確かに音が鳴っているのは映像の列車と同じ側のスピーカーだが、音の臨場感と映像の臨場感に破綻が生じてしまう。

 これに対してAirPods ProとiPad/iPhoneの組み合わせで、そして新たに発売されるAirPods Maxで空間オーディオに対応した映画を、この機能をオンにして見ると、ヘッドフォンが頭の向きを検知して、ちゃんと映像の中の動きと、音の動きの破綻をなくしてくれるのだ。

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