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M1チップと新色で“時代の変化”を感じさせたApple新製品発表会を振り返る林信行視点で振り返るAppleイベント(2/4 ページ)

Appleの発表会では、さまざまな新製品が登場した。それぞれの製品から見えてくるものを林信行氏が読み解いた。

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家庭用TVで正確な色再現を目指した「Apple TV 4K」

 続いて発表されたのは、Appleの動画配信サービス「Apple TV+」と、Apple TVのアップデートだ。Apple TV+では、英国サッカーチームで奮闘するアメリカ人コーチを描いた人気のコメディ「テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく」のシーズン2が7月23日から始まることが発表された。

 面白かったのが、新たにA12 bionicプロセッサを搭載し、リモコンも一新され、4KハイフレームレートHDRにも対応した新型「Apple TV 4K」だ(4月30日から受注開始、5月後半に出荷予定)。

Apple Apple TV 4K
リモコンも生まれ変わった新型「Apple TV 4K」

 最新のiPhoneでは、HDR、つまり、明暗の差が激しい状況でも美しい映像が撮れることが自慢だ。しかも、最新のiPhone 12 Proシリーズでは、そうしたHDRの映像を毎秒60コマというハイフレームレートで撮影することもできる。つまり、動きが激しいスポーツ中継などでも、その動きを滑らかに表現可能だ。

 ただし、どんなにiPhoneが進化しても、家で一番大きなディスプレイにつながれていることが多いApple TVは、その映像を再現することができなかった。しかし今回、A12 Bionicを搭載したことで、その再生が可能になった。

 いや、それだけではない。おそらく新型Apple TV 4Kで一番画期的な機能は、iPhoneを使ってTVの色調整をしてくれる機能だろう。TV上の表示色はメーカー、機種、設定など諸条件でかなり変わってきてしまう。せっかくiPhoneが、物すごく色味に気をつけて撮影を行っていても、TVメーカーによる演色(色をどう見せようとするか)の技術によって、撮った通りの色が見せられない場合もあるが、そこは多くの出版や映像のプロフェッショナルが愛用してきたAppleだけあって色再現性へのこだわりは強い。

Apple Apple TV 4K
新型Apple TV 4Kは、ハイフレームレートのHDRコンテンツに対応したのに加え、iPhoneの内蔵センサーを使ってTVのカラーバランスを調整してくれるキャリブレーション機能も備えている

 Apple TVで調整用のパターンを表示し、画面上に「ここにiPhoneを置いてください」というエリアが示される。そこにiPhoneを合わせて置くと、センサーやカメラを使ってどんな色に表示されているかを認識して、TVの色特性を把握し、Apple TVからの出力を調整して、そのTVでできる最善の色再現を試みてくれるキャリブレーション機能が加わった(TVそのものの色調整が行われるわけではなく、あくまでもApple TVの表示を見ている間だけ色調整されている状態だ)。

 メーカーやモデルの壁を超えて、家庭用TVである程度、色の再現性を保つという試みはかなり画期的なことではないかと思う。

 Apple TV 4Kで、もう1つ変わったのがリモコンだ。Siri Remoteという名前こそ変わらないが、Siriを呼び出すボタンは側面に移動し、タッチセンサー部は円形になった。円周に沿って指を回転させることで早送りや巻き戻しをするという操作が可能になっている。

横展開を続けるApple M1チップ

 今回、最大の発表はApple M1プロセッサを搭載した新型iMacとiPad Proの発表だ(いずれも4月30日から受注開始、5月後半に出荷の見込み)。2020年11月、M1を搭載した最初のMacが発表された時、奇しくも「大きな変化の前奏曲となるApple M1」と書いていたが、それから5カ月の時間を経て、その大きな変化の最初の波を目の当たりにすることになった。

 iMacは、大胆に色も形も変わった。それに対してiPad Proは、これまでの製品と外観は変わらない。従来は大画面化したiPhoneのProシリーズといった印象もあった製品が、性能に軸足を置いて見ると、むしろタッチ操作ができるMacBook Proといった印象が強い。

 11年前に発表されたiPadは、スマートフォンとPCの間を埋める新カテゴリーの製品として発表された。当時は、ただiPhoneの画面を大きくしただけと冷やかされることもあったが、その後、世界中の多くの人が画面が大きくなるだけでも体験が全く異なることを知ることになる。

 AppleはiPadという製品の定義を、iPad miniなどでよりスマートフォン側に広げたが、今回のiPad Proは、製品としての定義をよりハイエンドPC側に広げた格好だ。

 ここで、今回の発表をふかんして見ると面白いことに気がつく。

Apple M1
CPU/GPU/ISP/Neural Engine/I/Oインタフェースなどさまざまな機能を統合した「Apple M1」

 今回発表されたiMacが搭載するのは、Apple M1プロセッサだ。iPad Proが採用するのも同じM1プロセッサで、2020年秋に発表されたプロ向けの13インチMacBook Proが備えるのもM1、一般向けのMacBook AirもM1なら、デスクトップ型のMac miniもみんな内蔵しているのは同じM1プロセッサなのだ。

 しかも、Intelプロセッサを搭載していた時代のように、何GHzのプロセッサかといったことを気にする必要も、どれくらい性能差があるか分からない動作周波数の違いに数千円余計に払うべきかといった複雑な悩みもいらない。

 Appleは毎年、その年に販売できる最高のプロセッサを作り、それを全ての製品ラインで展開していく。熱処理の仕方や内部の構成によって同じM1でも性能差が出ることはあるが、基本的に搭載しているプロセッサは(少なくとも今のところは)皆、一緒という製品ラインアップの構築は、無駄なバリエーションがないというところで環境負荷が小さいことも容易に想像できるし、ユーザーに対してもフェアなPCの作られ方だと思うのは私だけではないだろう。

 今回の発表は、M1プロセッサの登場で、PCやタブレットの作られ方の概念が大きく変わってしまったことを改めて強く印象づけてくれた。

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