本当に「ネイティブ超え」をしたのか? 新ツール「ICAT」で検証するNVIDIAの最新超解像技術の実力(4/5 ページ)
NVIDIAがゲームにおけるグラフィックスの画質を比較するためのツール「Image Comparison & Analysis Tool(ICAT)」を開発した。これを使って、GeForceの最新ソフトウェアで実装された「 Image Scaling and Sharpening」「DLSS 2.3」の実力をチェックしていこう。
実際に見比べてみると体感できるISSの効果
では、先述の4パターンの動画をICATに読み込んで画質評価を行ってみよう。
最初ににつまずいたのが動画のコーデックだ。今回の評価ではICATのバージョン0.2.11を用いたのだが、H.265形式だとファイルは読み込めても正常に再生できなかったのだ。NVIDIAに問い合わせた所、現時点ではH.265形式の動画の再生には対応していないとのことだ。未対応であれば、砂時計を出したままハングアップするのではなく、エラーメッセージを出してほしかった。
H.265形式は、H.264形式と比べると圧縮効率が改善している。同一ビットレートなら動画をかなり高画質にできるし、同一画質なら動画ファイルのサイズをより小さくできる。近年のGeForceシリーズが搭載しているNVENCはH.265形式のエンコードとデコードの両方に対応しているため、動画の生成と再生の両面におけるシステム負荷も軽減できる。それだけに、「H.265非対応」は少々ショックだった。
……と愚痴ばかり言っていても仕方ないので、録画したファイルを4K/60fpsのH.264形式(ビットレートは100Mbps)に変換して読み込ませることにした。
先述の通り、検証に使っているPCはかなりのハイエンド構成である。それでも、さすがにこのスペックの動画を4本同時に再生するのは荷が重すぎるようで、体感的に15fps程度での再生となってしまった。GeForce RTX 3090ですら、NVENCのデコード負荷が常時100%に貼り付くので相当な負荷である。4K/60fpsのH.264動画を4本同時に再生することの“厳しさ”は、後に添える動画で見てもらいたい。
4つの動画をスムーズに再生して検証したいなら、ICATに読み込ませる動画はフルHDかWQHD(2560×1440ピクセル)程度の解像度が好ましいだろう。「もっとビットレート下げれば良かったのでは?」という意見もあるだろうが、ビットレートを下げすぎると、今度は圧縮処理に起因するノイズ(いわゆる「MPEGノイズ」)が発生する可能性が高まる。
画質の比較をするのにノイズが混じるのは良くないのは当然で、なかなか難しい判断を迫られる。やはり、H.265への対応が一番の「近道」になるのではないだろうか。
以上のことを踏まえて、4パターンの映像を見比べて気が付いたことを述べるとしよう。これ以降に示すスクリーンショットは、特記のない限り左から順に「4Kネイティブ」「ネイティブ4K×DLSS」「アップスケール×ISS」「アップスケール×ISS×DLSS」の動画をICATで同時再生したものを撮影したものとなる。全ての画像はクリック(タップ)すれば拡大できるので、必要に応じて拡大してよく見てほしい。
まずは、主人公のララが街の中をうろつく「シーン1」の映像から見比べて見てみよう。ララの正面に向かって右側の胸のあたりの衣装の“きめ(肌理)”に着目してもらいたい。ISSを適用した描画は、ISSなしの場合と比べてきめがより細かくなっていることが分かる。
このシーンにおけるララの瞳の付近に映り込む白いハイライト表現も見比べてみよう。これもISSを適用した描画の方が白い“きらめき”を鮮烈に表現できている。
ISSを有効にした場合と無効にした場合で、どちらの方が制作者の意図に近いのかはさておき、ISSを適用すると視力が向上したような見た目になるのが面白い。
この傾向は、シーン1における他の映像を見比べた場合にも見て取れる。例えば、下の例では、噴水池の内壁に刻まれたモザイク装飾に注目してほしい。ISSを適用すると、幾何学模様の輪郭がくっきりとするのだ。
ISSを適用した映像は、それを適用する前はフルHDの映像で、これを算術的に4K化している。それにも関わらず、この高画質にたどり付けるのは素直に立派だと感じる。
次は、ララがジャングルを徘徊する「シーン2」場面でも同様の傾向が現れている。シーン2の前半で出てくる、鳥が居座っている枝上の緑色の茂みを見てみよう。
ISSが適用された右2つの描画では、葉っぱを“しっかりと”認識できる。4Kネイティブ×DLSSは、4Kネイティブ(DLSS無効)と比べると葉っぱの輪郭がぼやけ気味だが、これはDLSSが処理したアンチエイリアス効果の結果だと思われる。
描画は、必ずしもくっきりしていればよいというわけではない。輪郭付近のドット表現を滑らかにした方が「CG感」を軽減できる場合もある。恐らく、CG感を低減すべく、DLSSは葉っぱの輪郭に対してこのような処理を行ったのだと思われる。
実際に「アップスケール×ISS」と「アップスケール×ISS×DLSS」の映像を見比べても、ISSとDLSSを併用した方が葉っぱの輪郭は幾分か柔らかい印象となっている。
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