本当に「ネイティブ超え」をしたのか? 新ツール「ICAT」で検証するNVIDIAの最新超解像技術の実力(5/5 ページ)
NVIDIAがゲームにおけるグラフィックスの画質を比較するためのツール「Image Comparison & Analysis Tool(ICAT)」を開発した。これを使って、GeForceの最新ソフトウェアで実装された「 Image Scaling and Sharpening」「DLSS 2.3」の実力をチェックしていこう。
DLSS 2.3を併用すると「エイリアシング」を軽減できる
ICATを使って映像を見比べてみると、DLSSの優秀さや効果は、解像感を高めることよりもむしろCG特有の「エイリアシング(Aliasing)」を軽減できることに現われやすいことが分かる。「エイリアシングって何?」という人もいると思うので、少し解説をしていこう。
映像におけるエイリアシングは映像におけるエイリアシングは、簡単にいえば≪GPUが映像を描画する過程で生じるエラー(誤差)を指す。いうなれば「標本化定理における量子化ノイズ」に近い問題である。エイリアシングには幾つか種類があるが、一番有名かつ良く見かけるのが「ジャギー(Jaggy)」だ。描画結果の輪郭付近において目立ちやすい、四角形のドット形状の数珠繋ぎのようなカクカクした“アレ”のことである。
もう1つ、良く見かけるエイリアシングとして「ピクセルシマー(Pixel Shimmer)」というものもある。これは「ピクセルクローリング(Pixel Crawling)」とも呼ばれ、ゲームグラフィックスにおけるドット単位の“うねり”表現として表出する。描画対象があまりにも小さい場合や、オブジェクトの輪郭付近において、GPUがそれを描画したりしなかったりが積み重なると起きるものだ。
ピクセルシマーは、ハイライト表現に折り重なるとさらに目立つ。例として「視点から遠い場所に黒いビリヤードのボールが置いてあって、そのボールに白色光が当たる」というシチュエーションを考えてみよう。
白色光が当たればボールの表面に白い光沢が出るが、その光沢の描画がギリギリ1ピクセル前後の大きさとなると、GPUにおけるラスタライズ処理(ポリゴンを複数のピクセルに分解する処理系統)の判断に“揺れ”が生じる場合がある。端的にいえば「小さいから描画を見送ろう」という判断と「小さいけど描画するか」という判断が繰り返された結果、当該部分の描画が意図しない点滅表現になってしまうのだ。
ジャギーやピクセルシマーといった時間方向で発生するエイリアシングを改善するには、描画解像度を引き上げることが即効性の高い“特効薬”となる。「フルHDでエイリアシングが起こるなら、WQHDとか4Kで描画すればいい」ということである。
ただ、「0」か「1」の世界で判断されがち(≒描画されがち)なCGの世界では、エイリアシングを軽減するにはひたすらに描画解像度を上げていくしかない。よくよく考えれば分かるが、無限に描画解像度を上げるなんて非現実的で不可能な話だ。
そこでDLSSでは、過去フレームの情報も合わせて参照し、機械学習ベースのAI(ニューラルネットワーク)の力を借りてエイリアシングを軽減している。今回レビューしているShadow of the Tomb Raiderのベンチマークモードでは、遺跡の街を空撮する「シーン3」においてDLSSの効果が一番よく現われる。
シーン3の冒頭は、遠景までが描画される広大な「パノラマシーン」だ。陽光に照らされる遺跡の建造物の「へり」にハイライトが発生するのだが、4Kネイティブ描画でもエイリアシングが発生して“破線”状態になってしまう。輝点の位置がフレーム単位で変わるので、動画として見ると輝点が点滅、あるいは流れて移動しているようにしまうのだ。
それに対して、DLSSが適用された映像では、これが低減されて「薄明るいハイライト」や「ちゃんと繋がったハイライト」として見えるようになっている。
この傾向は、ISSを有効にした場合も同様だ。ISSにDLSSを重ねがけすると、ネイティブ4にDLSSを適用した場合と同等のエイリアシングの低減効果を得られる。率直にいってこれはかなりすごい。優秀だ。
処理の都合上、DLSSを利用する際にはグラフィックスメモリに一定の領域を確保してライブラリ(処理用のデータ)が展開される。その容量は出力解像度が高いほど多くなるが、NVIDIAによると確保される容量の目安は以下の通りだという。
- フルHD出力:60.83MB
- WQHD出力:97.79MB
- 4K出力:199.65MB
現行のGeForce RTXシリーズは、少なくとも8GBのグラフィックスメモリを搭載している。「これくらいの消費量なら、使ってもらってもいいかな」と許容できる範囲だろう。
DLSSを利用する場合に、グラフィックスメモリ上に確保されるライブラリ用のメモリ領域。4K出力の場合は200MB近くが必要となるが、現行のGeForce RTXシリーズのグラフィックスメモリの容量を考えると許容範囲だろう
加えて、DLSSを利用すると、どうしても処理に時間を要する。ストレートにいえば遅延が発生する。この遅延は出力解像度が高いほど大きくなるが、NVIDIAによると、今回レビューに利用しているGeForce RTX 3090の場合の目安は以下通りになるとのことだ(いずれも「パフォーマンスモード」での値)。
- 960×540ピクセル入力→フルHD出力:0.33ミリ秒
- HD(1280×720ピクセル)入力→WQHD出力:0.51ミリ秒
- フルHD入力→4K出力:0.99ミリ秒
筆者個人は、経験則から実用上は遅延を1ミリ秒未満に抑えるように設定すると良いと考えている。というのも、DLSSのようなポストプロセス処理系の負荷は、描画対象シーンのジオメトリ複雑性(≒ポリゴン数の総量)に依存せず、常にフレームごとに“一律かつ均等に”掛かるものだからだ。
まあ、その意味では、下に掲載するNVIDIAが示した表にある通り、フルHD出力であれば「GeForce RTX 2060」や「GeForce RTX 2080 Laptop」でもDLSSを有効にしても実際のゲームプレイには影響しないし、デスクトップ向けの「GeForce RTX 2080」以上のGPUならWQHD出力でも十分に実用できるはずである。
ありそうであなかった「ICAT」 今後の進化に期待
まだ“荒削り”という印象が強いICATだが、これまでにありそうでなかったツールだけに、今後も継続的に機能改善と進化を続けてほしいと思う。特に「画質評価ツール」と言うからにはH.265形式の動画への対応は急務だろう。
今回ICATを使ってみて「これを追加してほしい」と思った一番の機能は、取り入れた動画の「配置(並び)」や「再生タイミング」を保存する機能だ。現在のバージョンでは、整えた配置や再生タイミングを保存するすべがないため、比較する度にやり直さなければならず、面倒なのだ。
NVIDIAはICATを「レンダリング結果を対比する」目的で開発したようだが、原理的にはMPEG動画(現状ではH.264形式のみ)を同時再生するだけなので、ゲーム映像以外の動画でも利用できる。それこそ、実写映像でも構わないわけで、動画のポストプロダクション工程で活用できるツールとして進化させるのもアリだと思う(既にそういうツールはあるのかもしれないが)。
とにかく、ICATは無料で使える割には面白く、楽しく使えるツールなので、興味がある人はいろいろといじってみよう。ゲームグラフィックス設定のパラメーターをいじったときに、実際にどのように効果が現れるのかを検証する際にも便利だと思う。
Shadow of the Tomb Rader:(C) 2018,2019 Square Enix Ltd. All rights reserved.
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